中央教育審議会(大学分科会)の審議状況
7月8日(火)、中央教育審議会大学分科会(分科会長:安西慶應義塾長)第69回が開催され、1)教育振興基本計画等、2)学士課程教育の構築に向けて(答申案)、3)高等専門学校教育の充実について(答申案)等について、報告及び意見交換が行われました。
安西分科会長からは、「教育振興基本計画をめぐる議論の中で、高等教育が大事だということが、浮き彫りになった。計画の14ページ『この5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけ、中長期的な高等教育の在り方について検討し、結論を得ることが求められる。』の部分は大学分科会に向けたものと認識している。今後、大学分科会では、具体的な議論を積み上げてまいりたい。」という旨の発言がありました。
「学士課程教育の構築に向けて(答申案)」は、「知識基盤社会」における大学教育の量的拡大を積極的に受け止めつつ、教育の質の維持・向上を図ろうとする基本的な考え方に立っています。この中では、1)学位の授与、学修の評価、2)教育内容・方法等、3)高等学校との接続、4)教職員の職能開発、5)質保証システムの各節にわたり、改革の具体的な方策について提言を行っています。分科会では、地方における大学の役割の重要性、自己点検・評価の未履行に対する厳格な対応、高等教育の財政支援の必要性に関する記述を追加して欲しい等の意見がありました。
「高等専門学校教育の充実について(答申案)」は、高等専門学校の振興方策について、高等専門学校を巡る社会経済環境の変化を分析するとともに、このような変化に対応した高等専門学校教育の今後の在り方及びその充実に向けた具体的方策を示しています。分科会では、高等専門学校教育の充実のためには財政支援が欠かせない等の意見がありました。
両答申案は、修正について分科会長に一任され、今後開催される予定の中教審総会に諮られる予定です。
その他、留学生特別委員会の審議状況について、「『留学生30万人計画』の骨子」取りまとめの考え方の説明があり、委員からは、同計画の実施に向けた財政支援の必要性や大学の自主的な取組の必要性等について意見が出されました。
大学が外国に学部、研究科等を置く場合の基準について
我が国の大学の国際展開については、これまでも、外国大学との共同研究や学生等の海外研修、情報収集のための事務所の設置、そして外国の制度に基づく教育の実施等が行われてきたところですが、さらに、大学が外国に学部等の組織を置いて我が国の大学教育を実施できるよう、平成16年12月に省令改正を行いました。
具体的には、大学設置基準等を改正し、大学、大学院、短期大学は、文部科学大臣の定めるところにより、外国に学部、研究科、学科その他の組織を設けることができる旨を規定し、本年6月30日に、この「文部科学大臣の定め」を告示として制定しました。これにより、各大学は、外国において外国人学生(や日本人学生)に対し、我が国の大学教育を提供し、我が国の学位を授与することができます。
我が国の大学の国際展開はますます重要になってきており、各大学において、積極的にこの制度を活用した質の高い取組が期待されます。
我が国の大学の海外校制度の概要は以下のとおりです。
- 大学が海外校を設ける場合は、原則として、これまでの国内校の場合と同様、我が国の学校教育法及び大学設置基準等の法令の適用を受けます。すなわち、基本的に、海外校の収容定員に応じて専任教員や校地・校舎面積を確保することをはじめとして、国内校と同様の教育研究環境を備える必要があります。(ただし、海外校の教育期間が修業年限の一部である場合等には、一定の軽減措置があります。)
- 大学が海外校において授与できる学位は、当該大学の国内校において授与することが認められている学位の種類及び分野と同じものに限られます。したがって、大学が海外校のみを置くことは認められません。
- 海外校は我が国の大学の一部ですので、我が国の大学の学長が当該海外校の所属職員を統督している必要があります。
大学における教育内容等の改革状況について
文部科学省では、「平成18年度の大学における教育内容等の改革状況」についてとりまとめ、6月3日に公表しました。改革状況について以下のような項目をご紹介します。
1)大学の国際化について
- 「英語による授業」のみで卒業できる学部:5大学6学部
- 「英語による授業」のみで修了できる研究科:57大学101研究科
- 海外大学とのダブル・ディグリー制を採用している大学:37大学
2)授業の質を高める取組について
- 学生による授業評価の結果を授業改善に反映させる組織的な取組:377大学(前年度335大学より増加)
- ファカルティ・ディベロップメント(教員の職能開発)を実施している大学:628大学(平成20年4月からの義務化に先立ち、着実に増加)
緊急医師確保対策に基づく平成21年度からの医学部の定員増に関する申請等の状況(6月申請分)について
昨年5月に政府・与党が取りまとめた緊急医師確保対策に基づき、平成21年度からの医学部の定員増を予定している26大学から、申請書等の提出がありました。
今後、8月に開催される大学設置・学校法人審議会の大学設置分科会(会長:八田英二同志社大学長)に諮問(国立:意見伺い)を行い、同審議会の答申(国立:回答)を経て、8月末に認可(国立:審査結果の通知)をする予定で作業を進めることとしています。
申請状況の詳細⇒http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/06/08063004.htm
G8大学サミットについて
G8首脳サミット開催に合わせ、6月29日から7月1日にかけて、第1回G8大学サミットが札幌で開催されました。
これは、初めてG8諸国等の主要大学長等が一同に会し、地球規模での持続可能性実現のために大学が果たすべき責務とそれらを達成するための具体的な取組について議論し、学術界から貢献することを目的として開催されたものです。
大学サミットには合計35大学から、約140人が参加しました。会議では、「グローバル・サステイナビリティ(持続可能性)と大学の役割」をメイン・テーマに議論され、成果として「札幌サステイナビリティ宣言」をまとめました。
7月4日に東京大学総長、北海道大学総長、慶應義塾長、トリノ工科大学長及びエコール・ポリテクニーク学長により、福田総理に対して、宣言の手交及び報告が行われました。
第2回G8大学サミットは、2009年G8首脳サミットがイタリアで開催される機会に、イタリア(イタリア工科大学が中心)で開催される予定です。
G8大学サミットホームページ⇒http://g8u-summit.jp/
政策担当者の目「人材育成の好循環サイクルに向けて」
6月27日、「産学人材育成パートナーシップ」の中間取りまとめが公表されました。人材育成に関して大学と産業界が対等の立場で対話し、産学双方の具体的アクションに繋げていこうという趣旨の下、昨年10月に発足し、以来、「化学」「機械」「材料」「資源」「情報処理」「電気・電子」「原子力」「経営・管理人材」「バイオ」の9分野の分科会を設けて議論を行ってきました。
当初、議論においては、企業サイドの求める資質として、ややもすれば、高度の専門性ではなく、「コミュニケーション能力」や「行動力・課題解決能力」などが挙げられ、初等中等教育を含めた議論に及びました。そうした課題も受け止める必要はあると思いますが、その議論は、大学で学ぶべき専門的知識に対する期待値の小ささと裏腹です。採用活動の早期化やオーバードクター問題にも同様のことがいえると思いますが、従前と同じく企業サイドが採用に当たって学生が大学で何を学んできたかを重視しない姿勢を維持する限りにおいて本当の意味での人材育成の好循環サイクルは生まれないと思います。
最終的には中間取りまとめでは、企業の採用活動の適正化を図ることを経済界からの発意で盛り込んだほか、例えば、情報処理分野で共通キャリア・スキルフレームワークと学士課程教育との関連を産学で整理することやキャリア開発計画(CDP)のモデル開発を行うことなど、それぞれの分野でその専門性を踏まえた具体的な行動を盛り込んだものとなりました。
これからの日本は、企業の人材育成・確保において大学という知の資産を活用せずに国際競争を生き残ることはできないと思います。今後、このパートナーシップの議論がさらに実のあるものとなり、産学双方の発展に寄与していくことを期待しています。