3日の憲法記念日には、安倍晋三首相が新憲法を2020年に施行したい考えを唐突に表明し、その中で高等教育無償化に言及した。
家庭の経済的理由で、進学を諦めたり、中途退学したりするケースは少なくない。所得の低い家庭の子どもが十分な教育を受けられずに育ち、その結果、低所得の仕事に就くという「貧困の連鎖」は社会問題化している。
国内総生産(GDP)に占める教育の公的支出割合で、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準という現実もある。意欲ある子どもがきちんと学べる仕組みづくりに異論はあるまい。
問題は財源である。文部科学省によると、無償化に必要な費用は、幼稚園、保育所、認定こども園で計7千億円、高校は全日制だけでも3千億円、国公私立大分が3兆1千億円で、計4兆円を超す。
捻出方法を巡って、自民党の文教族らが考えているのが「教育国債」だ。使途を教育に限り、財政法で発行が認められた建設国債の考え方を応用する。だが、これだと危機的水準にある国の借金はさらに膨らむ。親世代が負担を逃れ、次世代につけを回すだけだとの批判もある。
小泉進次郎衆院議員ら自民党の若手は「こども保険」を提言した。企業と労働者が保険料を負担して子育て世代に分配する。会社勤めなら、労使折半の厚生年金保険料率に将来的に1%を上乗せして1兆7千億円を確保する。これなら借金の膨張は抑えられるが、子どもがいない人、子育てを終えた世代に理解が得られるかが課題だろう。
消費税率を10%に上げる際にその一部を回す案もあるが、増税分を充てる予定の社会保障に支障が出かねない。
各党は、国民に受けが良いテーマと考えて踏み込んでいるように見受けられる。とはいえ、現実的な財源の裏付けをしっかりと示せなくては理解は広がるまい。
旧民主党政権では、高校授業料無償化が実施された。自民党はその際、選挙向けのばらまきだと批判してきただけに整合性が問われよう。
無償化は首相が改憲項目に挙げたほか、日本維新の会も改憲での実現を主張する。ただ、憲法に踏み込むまでもなく、一般の法律で可能だとの異論は多い。憲法は義務教育の無償制を定めるが、それ以外の教育の無償化を禁じているわけではないからだ。
国民の多くの賛同が得られそうなテーマで改憲の突破口を開こうというのなら筋違いだろう。いたずらに憲法論議とからめず、子どもがよりよく学べる環境づくりへ真摯(しんし)な議論を進めていくべきだ。