2017年10月30日月曜日

記事紹介|海外留学の現状と企業ニーズとのミスマッチ

総務省が「グローバル人材育成の推進に関する政策評価」という行政監察の勧告書を公表した。その中の日本人大学生の海外留学促進に関する記述が興味深い。

勧告によると、2014年に海外の大学に在籍する日本人留学生は5万3,197人(文部科学省がOECDやユネスコ、米国国際教育研究所などの統計を基に集計)で2012年の約6万人から減少した。一方、日本学生支援機構の調査では、日本の大学に在籍する日本人海外留学生数は、12年度の6万5,373人から15年度は8万4,456人に増えた。60.7%が1ヶ月未満、81.6%が6ヶ月未満で、圧倒的に短期留学生が多い。

また、海外進出企業に理想的な留学期間を聞いたところ、「1年以上」が47.1%、「6ヶ月以上1年未満」が35.4%で、語学力を養い、海外の文化を理解し、多様な価値観を受容する能力を養うには、一定以上の留学期間が必要との意見が示された。

そこで勧告は、海外留学の現状と企業ニーズとの間にミスマッチが存在すると指摘、短期留学、特に1ヶ月未満のような極めて短期の留学が、グローバル人材育成にどのような効果を持つのか、十分検証する必要があると結論づけた。

近年の留学は海外大学に在籍する"本格派"が漸減し、代わって短期の"プチ留学"が増えている。前者は日本の学術水準の維持向上に極めて深刻な問題で、世界で武者修行する若者を増やす施策が急務だ。

問題は後者の評価だ。日本人学生が留学に目を向けない背景には、内向き志向と揶揄される若者気質もあるが、それ以上に、安くはない留学費用、春入学・春卒業で就職活動期間が長く4月に一斉入社する日本の学事暦・採用慣行という2大障壁がある。だからこそ、多くの大学が学事暦の見直しや留学プログラム、奨学金の充実などで、まずは外の空気を吸わせる短期留学制度を積極的に取り入れているのだ。実際、「夏休みに海外大学に行くだけで学生が変わる」「短期留学から本格的な留学をめざす学生も少なくない」などの声をよく聞く。ともかく海外に出て異文化に触れ、異国の学生と机を並べる。それだけでも学生の何かが変わる。進学率が50%を超え、社会の大学観は大きく変わりつつある。伝統的な"留学生観”も変わって当然だと思う。

一方で、大学は「短期聞の留学では単なる物見遊山に終わり、何の成果も得られない」という批判に真摯に応える必要がある。限られた時間で如何に濃密なプログラムを提供し、学ばせるか。腕の見せ所だ。

それにしても、企業意識調査には驚く。少しでも優秀な人材が欲しい気持ちは分からぬでもないが、「語学力を養い、海外の文化を理解し、多様な価値観を受容する能力」を持つ人が世の中に(御社の中に)どれだけいるのだろう。大学を甘やかしてはいけないが、過度の期待を抱くのも如何なものか。我が身を振り返れば、大学卒業時は本当に未熟だった。それを職場や仕事先の人々が助けてくれ育ててくれて、相変わらず未熟ながらも今まで生きて来られた。そんな大らかさ、暖かさが最近の大学論議の中で希薄なことが気になる。

短期留学|IDE 2017年10月号 から