この国は今、「道しるべのない時代」を迎えています。
確かな指針を見出せない中にあって、少子高齢化や人口減少、地球環境問題など、過去に経験したことがない問題に直面し、人々の価値観そのものが、大きく揺らいでいるように見受けられるので。
人生の中でもっとも多くの時間を費やす、「働く」ということに関する考え方、仕事に対する心構えも、その一つなのかもしれません。
「なぜ働くのか」「何のために働くのか」…多くの人が今、働くことの意義やその目的を見失っているようです。
日々の仕事を進めるための技術やマニュアルは、あふれるほど用意されているのに、働くということに込められた、根本的な価値を明らかにすることは、ないがしろにされてきました。
そのため、今、若い人たちの間で、労働を嫌い、厭(いと)い、できるだけ回避しようとする傾向が顕著になっています。
たとえば、「一生懸命働く」「必死に仕事をする」といったことを意味がないとか、格好悪いと冷笑する人さえ少なくありません。
そのため、株の取引きなどで「楽して儲ける」スタイルに憧れを抱く人や、ベンチャーを起業するにしても、上場で一攫千金(いっかくせんきん)を果たし、若くしてリタイアすることがゴールだという人も増えているようです。
働くことを「必要悪」ととらえる考え方も、さも常識であるかのようにささやかれるようになってしまいました。
本当は働きたくない、しかし食べていくには、やむを得ないから働く。
だから、できるだけ楽に稼げればいい。
私は、働くことは「万病に効く薬」…あらゆる試練を克服し、人生を好転させていくことができる、妙薬(素晴らしい薬)だと思っています。
自分が望んだり、招いたリしたわけでもないのに、思いもかけない不幸が次々に襲ってきます。
そのような苦難や不幸に翻弄されるとき、私たちは自らの運命を恨(うら)み、つい打ちひしがれそうになってしまうものです。
しかし、「働く」こと自体に、そのような過酷な運命を克服し、人生を明るく希望あふれるものにしていく、素晴らしい力が秘められているのです。
人間は、自らの心を高めるために働く…私はそう考えています。
「心を高める」ということは、お坊さんが厳しい修行に長年努めてもできないほど、たいへん難しいことなのですが、働くことには、それを成し遂げるだけの大きな力があるのです。
働くことの意義が、ここにあります。
日々、一生懸命に働くことには、私たちの心を鍛え、人間性を高めてくれる、素晴らしい作用があるのです。
「よく生きる」ためには、「よく働くこと」がもっとも大切なことです。
それは、心を高め、人格を磨いてくれる「修行」であると言っても過言ではありません。
心を鍛え、人間性を高める|人の心に灯をともす から