2008年2月28日木曜日

大学に対する社会の信頼

近時、「公的機関」である大学の根幹を揺るがしかねない様々な不祥事が多発しています。
社会の信頼を失いつつある大学に対する警鐘とも受取れる文章が、2月27日、文部科学省のホームページにアップされました。
その真意は定かではありませんが、大学はこの警鐘を真摯に受け止め、緊張感を持った経営改革に取り組んでいかなければならないと思います。

近年の審査を振り返って (大学設置・学校法人審議会学校法人分科会長コメント)


私立大学審議会を前身とする本分科会は、法令の定めにより私立大学関係者を中心に構成され、経営面を中心に設置審査に当たっている。

言い換えれば、本分科会は、私立大学関係者の「自主性」「自律性」に厚い信頼を置く私立大学制度の一部を成すものであり、申請者の「自律性」を期待し、「自主性」を尊重することを審査の基本方針としている。

一方、我が国の私立大学は、過去十数年の間、著しい環境の変化に晒されてきた。
18歳人口が4割減少し、地方を中心に定員割れに苦しむ大学も少なくない。
バブル経済の崩壊は、出口(就職)を意識した教育内容の不断の見直しを不可避とした。
さらに、大学設置基準の大綱化以降の規制緩和の流れは、私立大学の多様化に大きく道を開いた。

かかる環境変化に直面し、各大学が、経営の安定性に意を払いつつ、建学の精神の下、様々な工夫を凝らし改革を進めていることは、高く評価したい。

しかし、他方で、私立大学制度の前提である「自主性」「自律性」を損ないかねない事態が審査の過程等で明らかになりつつあることを指摘しなければならない。

第一に、継続的な運営のための「安定性」の問題である。

私立大学は、在学生のみならず、卒業生に対しても母校として存続、発展する責務がある。
「安定性」は学校経営の最も基本的な命題であり、学校法人制度もそうした前提で設計されている。
にもかかわらず、近年、新設早々に学生確保に苦しむ経営見通しの甘い大学の例や、校舎の全部借用の結果、借料が経営を大きく圧迫する株式会社立大学の例が多く見られるようになった。

第二に、社会からの「信頼性」の問題である。

教育基本法で規定される通り、学校とは「公の性質」を有するものであり、その設置者たる学校法人には高い「公共性」が求められる。
しかし、昨今、認可申請書の不実記載や重大な記載漏れなどの不正申請、理事長によるセク・ハラ事件、さらに文部科学大臣勧告を受けた株式会社立大学の例など、一部とはいえ私立大学に対する社会の信頼を失いかねない事案が続いており、極めて遺憾である。
社会からの信頼性の前提である情報公開も遅れている。

第三に、私立大学の「自主性」「自律性」そのものの問題である。

規制緩和の進展は、申請者側に、より高い「自主性」「自律性」が求められるものであるが、現実には、設置認可に際し、準備不足からか多数の留意事項が付されたり、「数値基準さえクリアすれば」といった低い意識の申請者が増加するなど、規制緩和の弊害が目立ち始めている。
学校法人のガバナンス機能を高めるための平成16年の私立学校法改正の趣旨についても、改めて徹底する必要がある。

以上、いずれも最終的には設置者たる学校法人の自己責任に帰すべき問題とは言え、事態の広がりによっては、学校経営に民間参入を認めた唯一の制度として確立してきた『学校法人制度』の根幹を揺るがしかねない。

この事態の克服のため、何よりも、我が国の私立大学制度に関する各設置者の強い自覚、自省を切に求めたい。
また、各種大学関係団体にも、会員大学に対する適切な対応を期待したい。

本学校法人分科会は、私立大学の水準の向上、健全な発展に責任を負う機関として、事態の推移を見極めつつ、審査基準、審査方針の見直しと厳正な審査に一層努めてまいりたい。

平成20年2月27日
大学設置・学校法人審議会
学校法人分科会長 黒田 壽二