大学が自らの財政基盤の強化を求め、民間企業が大学の知的資源の活用を求め、相互がWin-Winの関係で利益を享受することができるよい仕組みではないかと思います。
今日は、産学連携に関する最近の動きをいくつかまとめてご紹介します。
「政府」の動き
文科省、産学官連携戦略展開事業の公募要項を公表 (2008年2月8日付IP NEXTニュース)
文部科学省はこのほど、ポスト知財本部事業にあたる「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)」の公募要項を公表した。
全国の国公私立大学、大学共同利用機関法人、国公私立高等専門学校を対象に公募する。
助成事業は以下の3種類。
- 「国際的な産学官連携活動の推進」。約15件を選び、単年度あたり5000万円から1億円程度を支援。事業期間は原則5年間 。
- 「特色ある優れた産学官連携活動の推進」。約15件を選び、単年度あたり3000万円から5000万円を支援。事業期間は原則5年間 。
- 「知的財産活動基盤の強化」。約10件を選び、単年度あたり1000万円から2000万円を支援。事業期間は2~3年間 。
(参考)「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)」の公募について(文部科学省)
「大学」の動き
東大、国際・産学共同研究センターを来月末に廃止 (2008年2月6日付日刊工業新聞)
東京大学は国立大学の地域共同研究センターの一つである「国際・産学共同研究センター(CCR)」を3月31日付で廃止する。
自治体から研修生を受け入れる産学連携人材育成と研究者データベース(DB)は、全学事業にあたるため産学連携本部へ移管し、個別の研究プロジェクトは小規模の新組織で引き継ぎ、それぞれ機能強化する。
学部・研究科・研究所・センターなどの部局は大学自治の象徴でもあり、廃止は異例。大学改革でネックとなる“学内組織の壁”を壊す取り組みともいえそうだ。
国立大学の旧来の産学連携は、工学部系の地域共同研究センターが手がけていた。東大のCCRは96年度に設立。
しかし04年度の国立大学法人化に合わせ、03年度に法人の発明・特許を管理する知的財産本部(東大の名称は産学連携本部)が発足。役割が重複し非効率になっていた。
そのためセンターの名称を残しつつ知財本部に統合する大学が増えているが、東大は機能強化に適した形を考えて廃止を選んだ。
国立大は法人化後、全学予算が運営費交付金の一括払いとなり、学内の予算・ポスト再配分の自由度が高まった。
しかし改革が不十分だとみる有識者が指摘するのが、研究科や研究所など各部局の自治だ。教員の採用を含む人事権など部局教授会の発言権が強い。
また、文部科学省は社会ニーズの変化に伴い、特定使命を持つ研究所などの見直しが必要と考えている。
今回は産学連携部局の整理だが、他部門でも柔軟な再編が必要になってきそうだ。
CCRの場合、学内研究者データベース(テーマ件数1754件)への問い合わせから共同研究に結び付くのが15%と高率なのが特徴。
自治体から研修生を受け入れる産学連携の人材育成(8年間で48人が受講)と合わせ、4月から産学連携本部に移管する。
一方、十数件の研究プロジェクトは現場直結のため、生産技術研究所と先端科学技術研究センターが設立する新組織で運営する。
産学連携に必要な専門能力を持つ「人材」に関する話題
「産学連携推進には大学に『専門職』の新設が急務」 (2008年2月7日nikkei BPnet)
「日本の大学が産学連携を推進していくためには、大学に従来からの『教員』、『事務職』に加えて『専門職』という新しい職制を設けることが急務」。
このような提言が、2008年1月28日~29日の2日間にわたって東京都港区で開催された国際特許流通セミナー2008(主催は独立行政法人工業所有権情報・研修館)のセッションA1「国際産学連携と知的財産マネージメント」で、聴講者である産学連携実務者の支持を集めた。
産学連携が国内ばかりではなく諸外国も対象にするようになると、英文などによる共同研究契約などの法務業務が増え、これを担当する専門職が不可欠になるからだ。
この提言は、同セッションのモデレータを務めた東北大学大学院工学研究科教授の原山優子氏が「産学連携の国際化を進めるには何が課題か」という問いに、パネリストの九州大学理事・副学長の小寺山 亘氏と奈良先端科学技術大学院大学教授の久保浩三氏がそろって答えたものである。
大学が企業との共同研究を実施したり、その研究成果を特許などの知的財産として維持・管理していくためには、
- 共同研究の相手企業との共同研究契約の締結
- 特許出願
- 特許などの知的財産の技術移転契約
今後諸外国の研究機関などと産学連携を推進するためには、各国の実情に通じ、これらのサポート業務を英語などの外国語によって実施できるといった一層高度な専門能力が求められる。
九州大学などの日本の有力な研究大学は、産学連携推進に必要な専門能力を持つ専門職人材を、企業などの知的財産部門の実務経験者や弁理士などを雇うことで、なんとか対応しているのが実情だ。
国立大学は「教員職」と「事務職」の2つの職制で構成されている。
産学連携を担当する専門職人材は、「事務職」か“テンポラリ職”などで雇用している。
この“テンポラリ職”とは、文部科学省や経済産業省などが提供する競争的研究資金などで数年間雇用する職制だ。再任もある。
産学連携業務を担当する専門職人材を教員職として雇用するには、教育・研究実績が必要となる。
企業の知的財産部門の実務担当者は必要条件を満たせないケースが多いため、教員職として雇用するにはハードルがある。
事務職を産学連携担当者に育成するケースもあるが、大学の事務職は公務員型の“ゼネラリスト”として2~3年でローテーションするため、専門実務を学んでも数年後に別部門に異動してしまうという問題がある。
産学連携の「おいしい」成果
大学グルメが大集合 16日から東京で、各大開発品の物産展 (2008年2月6日付北海道新聞)
大学や大学院の研究室が開発し、地元企業などと連携して商品化した「大学ブランド食品」を集めた初の物産展「大学は美味(おい)しい!!フェア」が16-20の5日間、東京の百貨店、新宿高島屋で開かれる。
道内の北大大学院水産科学研究院(函館)、藤女子大(札幌)、東京農大生物産業学部(網走)、北見工大を含む全国24大学が計約100品目を販売する。
大学ブランド食品は、国立大の独立法人化に伴う研究費減や、少子化時代の大学生き残り競争などを背景に近年急増。
また、食品偽装が相次ぐなか、大学の名を冠した商品は消費者の信頼感を高め、市場の注目も集めている。
物産展の仕掛け人は、釧路出身のフリーライター佐々木ゆりさん。
佐々木さんは2006年4月から今年1月まで小学館の雑誌「DIME」に、大学ブランド食品を紹介する「すべからく研究は製品たるべし!大学は美味しい!!」を連載した。
「消費者に実際に味わってほしい」という佐々木さんの発案で、各大学の研究者たちが実行委を組織し、準備を進めている。
北大大学院水産科学研究院は「がごめコンブ」入りカレーパンやラーメンなどの加工食品、藤女子大は発泡酒やハンバーガー、北見工大はハマナスのハーブティー、東農大生物産業学部は道産エミュー卵、小麦、牛乳で作ったどら焼きやクッキーなどを出品する。
このほか、北里大学獣医学部は八雲牧場(渡島管内八雲町)で育てた「北里八雲牛」の加工食品を、世界最高水準の水産養殖技術を誇る近畿大は「クエなべ」セット、新潟大は純米吟醸酒などを販売する。
佐々木さんは「消費者は各大学の研究成果を通じて食を考える機会に、大学にとっては研究のモチベーションを向上させる場になってほしい」と期待する。
(参考)