あまりにも当たり前のことではありますが、大学図書館の位置づけや存在価値についてご存知の方は意外と少ないようです。(恥ずかしながら実は私自身そのうちの一人です。)
大学図書館の設置根拠は、「大学設置基準」*1に示されています。
大学設置基準(抜粋)
(校舎等施設)
第36条
大学は、その組織及び規模に応じ、少なくとも次に掲げる施設を備えた校舎を有するものとする。ただし、特別の事情があるときは、この限りでない。
- 学長室、会議室、事務室
- 研究室、教室(講義室、演習室、実験・実習室等とする。)
- 図書館、医務室、学生自習室、学生控室
- ・・・
第38条
大学は、学部の種類、規模等に応じ、図書、学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を、図書館を中心に系統的に備えるものとする。
2 図書館は、前項の資料の収集、整理及び提供を行うほか、情報の処理及び提供のシステムを整備して学術情報の提供に努めるとともに、前項の資料の提供に関し、他の大学の図書館等との協力に努めるものとする。
3 図書館には、その機能を十分に発揮させるために必要な専門的職員その他の専任の職員を置くものとする。
4 図書館には、大学の教育研究を促進できるような適当な規模の閲覧室、レフアレンス・ルーム、整理室、書庫等を備えるものとする。
5 前項の閲覧室には、学生の学習及び教員の教育研究のために十分な数の座席を備えるものとする。
ちなみに、大学図書館の実態はどうなっているのでしょうか。
東京工業大学附属図書館が国内の大学図書館関係のWWWサーバのURL(登録数:666)を収集・掲載しています。
http://www.libra.titech.ac.jp/libraries_Japan.html
その大学図書館で、最近ユニークな取り組みが行われています。
筑波大 図書館離れ防止にスターバックス誘致 (2008年2月4日付毎日新聞)
筑波大(つくば市天王台1)付属図書館に3月下旬、米国のコーヒーチェーン大手「スターバックス」が出店する。大学が学生の図書館離れを防ぐために誘致した。
店ができるのは、最も大きい中央図書館ののエントランスホール。約30席で、BGMの音量を小さくして読書の邪魔にならないよう配慮する。店で買ったコーヒーを持って図書館に入ることはできない。
付属図書館は5館合わせて蔵書が242万点あるが、利用者数はここ数年横ばいで、活字離れに伴う減少を懸念している。植松貞夫付属図書館長は「コーヒーを飲むついでに利用する学生が増え、長時間利用者がリフレッシュできる場所を提供できる」と話す。
心理学類1年の女子学生(19)は「勉強をしていると小腹がすくのでありがたい」と歓迎するが、教育学類1年の男子学生(19)は「学生はコーヒーをしょっちゅう飲めるほど金がない」と冷ややかだ。
土日や長期休暇中は学生の姿が減るが、スターバックスは「大学から外部の喫茶店までは距離がある。コーヒーと本は親和性が高く、新しい出店モデルとして期待できる」と話している。
大学図書館の蔵書、学生が選ぶ 西日本の大学に広がる (2008年2月9日付朝日新聞)
大学図書館が購入する本の一部を学生たちに書店で選んでもらう「ブックハンティング」が、西日本の大学を中心に広がっている。
ベストセラー小説や旅行ガイド、実用書など、これまでの大学図書館にはあまりなかった本が次々と蔵書に加えられている。
インターネットで簡単に資料を調べられるようになるなか、図書館離れを食い止めるとともに、大学の魅力づくりに役立てたいというねらいもあるようだ。
高松市内の大型書店で1月上旬、高松大と系列の高松短期大の学生7人が「ブックハンティング」に参加した。
短大秘書科2年の藤原詩織さん(19)が選んだのは「『もうひとりの自分』とうまく付き合う方法」。「就職活動中なので、将来を不安に思うことも多い。背中を押してくれる本に目がいきます」
学生たちは手にした携帯端末で気に入った本のカバーに表示されているバーコードを読み取っていく。「予算」は1人あたり3万円で、漫画やグラビア写真集など「大学図書館にそぐわない」もの以外は自由。
選んだ本のデータは書店のコンピュータに転送され、チェック後に一括して発注される仕組みだ。
高松大は年間3千冊の購入図書の大半を教員や図書館の司書が選んでいた。
年間貸出冊数はここ数年、約1万冊で頭打ち。学生の「もっと読みたい本を入れてほしい」という声を反映しようと、図書館関係者が集う研究会で知ったブックハンティングを導入した。
1月のブックハンティングでは約150冊を購入。数学や経済などの専門書のほか、映画化された「クローズド・ノート」(雫井脩介)、テレビドラマ原作の「鹿男あをによし」(万城目学)などのベストセラー小説がずらり。旅行ガイド「地球の歩き方」なども並ぶ。
高杉和代・図書課長は「柔軟な本選びができた。これを機に利用者が増えてくれれば」と期待する。
国公立大学にも昨年からブックハンティングが広まっている。
大阪大付属図書館が昨年12月に実施した「学生選書ツアー」では、米国の作家ジョン・アービングの「また会う日まで」など約400冊を蔵書に加えた。
阪大図書館の学生利用者数は02年度に88万5849人だったのが06年度は77万1103人で、年々減少している。
04年の国立大学法人化を機に大学間で特色の競い合いも盛んなだけに、担当者は「学生のニーズもつかめる。サービスを拡大することで独自性を発揮していきたい」と意気込む。
ほかにも岡山大、佐賀大、愛媛大などが07年に相次いで始めている。
筑波大大学院図書館情報メディア研究科の永田治樹教授(図書館情報学)は「日本の大学図書館は欧米と違って授業との結びつきが薄く、学生が足を運ぶ回数が少ない。
ブックハンティングは、学生の図書館利用の足がかりとして意義がある。学生のニーズを反映させながら、教育に必要な図書を充実させていけるかが課題だ」と話す。
このほか、国立大学図書館では、これまでも、時代の変化に対応した取り組みが行われてきているようです。(以下少し古いデータですが。)
国立大学図書館における特色ある取組について (平成16年4月27日、文部科学省研究振興局情報課)
○地域貢献の一層の促進に向けて -地域に根ざした取組-
- 公共図書館等の特色ある郷土資料等を電子化支援。県内図書館等からの情報発信を支援(茨城大学)
- 公共図書館等とのコンソーシアム(共同連合体)を形成、館種をこえた貸出・返却が最寄りの図書館から可能(和歌山大学)
- 大学図書館内に子ども図書室を設け、地域の子ども達に開放(山梨大学)
- 「東南海・南海地震シンポジウム」を開催。地震、防災関連資料を展示(三重大学)
- 阪神・淡路大震災に関する資料を収集し、データベース化(神戸大学)
- 郷土資料を電子化し、情報発信。生涯学習・学校教育でも活用を期待(愛媛大学)
- 幕末・明治期の日本古写真をデータベース化し、情報発信。最先端の画像処理技術により、10倍に拡大しても鮮明に(長崎大学)
- オリジナルスクリプト(原綴り)による多言語対応。アジア・アフリカ諸言語史資料の拠点を形成(東京外国語大学)
- 大学図書館に多機能文化空間を創出。カフェ、リフレッシュルームを設置(横浜国立大学)
- 民間企業と共同でICタグを使った図書館管理システムを開発。ITを活用し図書館業務を合理化(九州大学)
- 自動(無人)入退館管理システム等により無人開館。36の国立大学(37.1パーセント)で図書館・室の24時間開館を実施
それぞれの取り組みの詳細について、興味のある方はこちらをご覧ください。
http://211.120.54.153/b_menu/houdou/16/04/04042602/003.htm
では、大学図書館は今後、どのような方向に向かって進むべきなのでしょうか。
文部科学省の審議会は、次のような報告を出しています。
学術情報基盤の今後の在り方について(報告) (平成18年3月23日、文部科学省科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会)
学術情報基盤としての大学図書館等の今後の整備の在り方について(概要)
■基本的考え方
1)学術情報基盤は国全体の学術研究の基盤であり、総合的・戦略的整備が必要
2)基盤整備は、単純に競争原理にゆだねるのではなく、一定の政策的配慮が必要
3)大学の壁を越えた、さらには大学と他機関相互が連携するシステムの構築が必要
4)全国共同利用施設の整備・運営に当たっては、国の施策として推進する体制構築が必要
■大学図書館の現状
1)大学図書館の基本的な役割
- 高等教育と学術研究活動を支える重要な学術情報基盤であり、大学にとって必要不可欠な機能を持つ中核施設
- 電子情報と紙媒体を有機的に結びつけた、新たな意味での「ハイブリッド・ライブラリー」の実現が求められている
- 電子ジャーナルの普及、所蔵資料のデジタル化等、学術情報流通における電子化が急速に進展
- 人件費等経費の節減が進む一方、業務の多様化及び高度化に伴う実質的な業務の増大
- 外国の出版社等が発行する学術論文誌の価格上昇が図書館資料費を圧迫
1)大学図書館の財政基盤が不安定
- 電子ジャーナルへの対応とあわせて、安定的な学術情報収集への財政投資は喫緊の課題
- 電子図書館化を進めた大学図書館も、電子情報の長所を活かしきれていない
- 基盤的経費の減少、収蔵スペースの狭隘化、資料保存のための環境が未整備のため、体系的な資料の収集や保存等が困難に
- 品質を共同維持するという意識の薄れ、担当者の削減とスキルの低下、重複書誌レコードの頻発等図書目録データの品質低下、雑誌所蔵データ未更新による雑誌目録データの品質低下等の問題が顕在化
- 主題知識、専門知識、国際感覚を持った専任の図書館職員が不十分
- 情報リテラシー教育の位置付けが不明確で、利用者ニーズの把握が不十分
■今後の対応策
- 学術情報基盤の中での役割を再認識し、各大学の教育研究の特徴にあわせたそれぞれのハイブリッド・ライブラリー像について検討し、戦略的な中・長期運営計画を立案・実行することが必要
- 大学の教育研究活動を支える重要な学術情報基盤であることを明確に位置付け、大学として情報戦略を持つことが必要。
- 共通経費化の推進等による安定的な財政基盤の確立等のため、図書館活動に対する全学的な理解を得ることが重要
- 図書館長の役割は重要であり、それを支える専門性を有する事務組織も重要
- 電子化は大学の特色に応じて推進することが適当で、文部科学省は重要なものについて支援
- 海外の情報検索サービスとの連携は、動向にあわせた適切な対応をとることが必要
- 電子情報の脆弱性や不安定性等が指摘されており、関連する研究・技術開発の動向の把握が必要
- 各大学の教育研究の活性化や我が国の学術情報の流通促進等のため、各大学は機関リポジトリに積極的に取り組む必要があり、文部科学省はその取組みを支援。大学図書館が機関リポジトリの構築・運用に中心的な役割を果たすことを期待
- 紙媒体資料をはじめ、さまざまな学術資料の収集・保存・提供について、各大学の教育研究の特徴にあわせ、その充実に努めることが必要
- 紙媒体資料と電子媒体資料を有機的に組み合わせることや自動書庫及び集密書架などの整備等による狭隘化対策及び多様な利用者ニーズに応えるため自動入退館システムや自動返却装置等の設備の整備も必要
- 大学図書館等が主体となり、国立情報学研究所と協議しつつ、新たなビジョン・理念を打ち出すことが必要
- 高度の専門性・国際性を持った人材の確保・育成のため、在職しながらの大学院等での勉学や研修会への参加の奨励、専門性を持った職員のキャリアパスの創出等について検討することが必要
- 大学図書館の教育支援サービス機能を強化するには、多様化する利用者ニーズに円滑・迅速に対応するとの観点が重要。情報リテラシー教育の推進に当たっては、教員との連携の上に立った取り組みが必要
- 地域社会や産業界との連携・交流の強化や館種、国境を越えて協力することが重要
報告書の詳細は、こちらをご覧ください。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/06041015/011.htm
以上が、大学図書館を所管するお役所の考え方でしたが、実際に大学図書館で業務を行っている方などはどのように考えているのでしょうか。
国立情報学研究所のホームページに「平成19年度大学図書館職員短期研修」のテキストが掲載されてあります。(http://www.nii.ac.jp/hrd/ja/librarian/h19/index.html)
講師の立場によって視点が異なりますが、大いに参考になるのではないかと思います。
*1:国立大学の場合、法人化以前は、「国立学校設置法第6条」において「国立大学に、附属図書館を置く。」と定められていましたが、法人化に伴い廃止されました。また、「私立学校法」にも図書館に関する規程はありません。したがって、大学図書館の設置根拠は「大学設置基準」のみということになります。