2008年2月3日日曜日

教育再生会議最終報告

政府の教育再生会議(野依良治座長)は1月31日、首相官邸で最後の総会を開き、最終報告を福田康夫首相に提出しました。

同会議は、これまで3次にわたる報告をまとめてきましたが、今回がその最終であり、文部科学省など関係省庁に対し「実施計画を作成し提言内容を着実に実行することが必要」と指摘し、「国、地方公共団体、学校等の実施状況を評価し、実効性を担保する新たな会議を内閣に設けることが極めて重要」と提案しました。 [右写真:首相官邸ホームページから引用]

報道では、主に初等中等教育関係の事項が取り上げられていましたので、ここでは、前回*1同様、高等教育関係の該当部分(抜粋・要約)をご紹介します。 

「社会総がかりで教育再生を」(最終報告)-教育再生の実効性の担保のために-

はじめに

教育再生会議は、我が国の教育の在り方を根本から見直す作業を進め、これまで第1次報告から第3次報告まで3つの提言をとりまとめてきた。

教育再生の原点は、保護者はもとより、国民、社会全体から信頼され、期待される教育の実現。教育再生会議の委員は、それぞれの立場から、現在の日本の教育をどのように再生させるべきか議論してきた。その議論の結晶が第1次から第3次までの報告。

国民の皆様も、国や地方の行政の方々も、校長・教員はじめ学校関係者も大学関係者、保護者や地域の方々も、これらの報告をしっかり受け止めて頂き、国民一人ひとりがあらゆる場を通じて、教育再生に参画することをお願いしたい。

これまで「臨時教育審議会」、「教育改革国民会議」を通じ、日本の教育制度の根幹に関る改革が提言されてきたが、残念ながら、それらの提言は十分教育現場に反映されているとは言い難い状況。

こうした状況を踏まえ、教育再生会議では、最終報告にあたり第1次報告から第3次報告までの提言の実効性の担保を重視。

「生活者重視」、すなわち教育の受益者である全ての子供や若者たち、保護者の立場に立った教育再生、自立して生きる力と、共に生きる心をもった人材を育成する教育再生が着実に推進されることを強く期待。

教育は国家百年の大計。知・徳・体のバランスのとれた教育環境が整備され、健やかな子供が育まれることは国民の願い。

特に、最近の社会状況に鑑み、学校教育における徳育の充実が不可欠。

さらに、「知」の大競争がグローバルに進む時代にあって、今、直ちに教育を抜本的に改革しなければ、日本はこの厳しい国際競争から取り残される恐れ。

効率化を徹底しながら、メリハリを付けて教育再生に真に必要な予算について財源を確保し、投資を行う必要。


提言の実現に向けて

第1次報告から第3次報告までの提言は、全て具体的に実行されてこそ初めて意味を持つ。

提言を実行するための具体的な動きが国、地方公共団体、学校、家庭、地域社会、企業等、社会全体で始まることが大切で、これらの取組をフォローアップしていくことが求められる。

その中で主な項目を挙げれば次の通り。

■大学・大学院改革(世界をリードする大学・大学院を目指す)
  1. 大学は「教育の質」を高め、成績評価の厳格化を図り、卒業生の質を保証する。
  2. 大学は教養教育を重視し、社会や産業界、地方公共団体との連携を深め、社会人としての基礎的能力と専門的能力を備えた卒業生を送り出す。
  3. 大学は学長のリーダーシップにより改革を推進するとともに、「学部の壁」を破り、新しい学問分野の開拓・創出や社会の発展に寄与するため、教育組織を再構築する。
  4. 大学院は国際公募による第一級の教員の採用と国内外からの優秀な学生の獲得に努力し、国際競争に勝ち抜ける世界トップレベルの教育研究水準を目指す。
  5. 国公私立大学の連携により、国公私を通じた大学院の共同設置や地域における学部教育の共同実施を推進する。
  6. 国立大学法人は教育水準の向上のため必要に応じ「定員縮減」や「再編統合」を推進する。
  7. 大学・大学院の国際競争力強化のため、改革の推進とともに、高等教育に対する投資を充実する。競争的資金の充実とともに現在の基盤的経費の取扱いはしかるべき時期に見直す。


これまでに実施された提言実現のための取組

これまで教育再生会議の行ってきた提言実行のため、法令等の制度改革、予算の確保など、国、都道府県、市町村、関係団体をはじめ、社会全体で具体的な取組が進んでいる。

ただ、これらの改革が、真に教育再生のための動きとなるためには、単に制度を改革する、予算を確保するというだけでなく、その制度や予算が教育再生の目的や趣旨に沿って、教育の現場で実施されることが重要。

次のようなこれまでの国レベルの主な取組を含め、施策の具体化とともに、施策が実際にどのように実施されているかをフォローアップしていくことが求められる。

■大学・大学院の改革

  1. 9月入学の促進のため、学校教育法施行規則の改正により、大学の4月入学原則を撤廃(平成19年12月)
  2. 大学と企業等が意見交換する「産学人材育成パートナーシップ」の創設(平成19年10月)(文部科学、経済産業省)
  3. 平成20年度予算案 ・グローバルCOEプログラムの拡充


提言の実効性の担保のために

教育再生会議の役割はこの最終報告で終了。

今後最も重要なことはこれまで報告書で提言した事項の制度化・仕組みづくりを進め、具体的な教育現場での改革に如何に結びつけるか、提言の実現とフォローアップ。

文部科学省をはじめ、関係府省においては、実施計画を作成し、提言の内容を着実に実行することが必要。

また、第1次から第3次報告が提言に終わることなく、教育再生が現実のものとなるよう、国、地方公共団体、学校等における実施状況を評価し、実効性を担保するため新たな会議を内閣に設けることが極めて重要。

60年ぶりに改正された教育基本法を踏まえ、教育三法の施行や教育振興基本計画の策定など、いよいよ教育再生の本格的な実施段階に入る。教育再生の鍵を握るのは、これからの実施段階。

一人ひとりかけがえのない存在である、全ての子供たち、若者たちの未来のために、そしてグローバル時代の我が国の健全な発展のために、具体的に教育再生が実現していくことを望んでやまない。


フォローアップのためのチェックリスト

第1次報告から第3次報告までの提言は、実行されてこそ初めて意味がある。

フォローアップに際してチェックすべき主な項目は次の通り。

■大学・大学院の改革

【直ちに実施に取りかかるべき事項】

  1. 大学教育の質の保証(卒業認定の厳格化)
  2. 国際化を通じた大学・大学院改革(9月入学の大幅促進、英語による授業の大幅増加(当面30%を目指す))
  3. 世界トップレベルの大学院教育(国内外に開かれた入学者選抜、コースワーク、大学院への早期入学、大学院生への経済的支援)
  4. 国立大学法人の更なる改革(国立大学・学部の再編統合、学長選考などマネジメント改革、学部の壁を越えた教育体制)
  5. 地方の大学教育の充実(国公私を通じたコンソーシアム、大学院研究科等の共同設置)
  6. 大学・大学院の適正な評価と高等教育への投資の充実(基盤的経費の確実な措置、競争的資金の拡充、評価に基づく重点的な配分、大学の自助努力を可能とするシステム)
【検討を開始すべき事項】
  • 大学全入時代の大学入試の在り方


(参考)

●第1次報告
「社会総がかりで教育再生を~公教育再生への第一歩~」(平成19年1月24日)

●第2次報告
「社会総がかりで教育再生を」-公教育再生に向けた更なる一歩と「教育新時代」のための基盤の再構築-(平成19年6月1日)

●第3次報告
「社会総がかりで教育再生を」-学校、家庭、地域、企業、団体、メディア、行政が一体となって、全ての子供のために公教育を再生する-(平成19年12月25日)

●最終報告
「社会総がかりで教育再生を」-教育再生の実効性の担保のために-(平成20年1月31日)



今日は節分、明日は立春です。旧暦では1年の始まりは立春からと考えられていたそうです。
我が国の教育も、教育再生会議の最終報告を機に新たなスタートを切らなければなりません。
最終報告で提案された一つ一つの事項が、その実行を阻む「鬼退治」をしながら、着実に進められていくことを心から願ってやみません。



*1:「教育再生会議第3次報告」:http://daisala.blogspot.jp/2007/12/blog-post_8423.html