2008年2月7日木曜日

国民の資産は有効に活用されているか

大学、資産運用を積極化・日経調査 (2008年1月31日付日本経済新聞)

大学が資産運用に力を入れている。

日本経済新聞社が全国の大学を対象に実施した資産運用調査によると、回答した私立大学の30%がデリバティブ(金融派生商品)を用いた仕組み債の買い増しを検討。
国公立大学では地方債や政府保証債に資金を振り向ける動きが強まっている。
少子化で経営財源の確保が求められ、運用の重要性が高まっていることが背景にある。

回答した176校の私大のうち、現預金や国債以外の「リスク性資産」に投資している大学は65%にのぼった。外債投資が中心だが、株式運用の経験があるところも24%あった。


上記の記事は、狭義の資産、つまりは「資金」の運用に関するものですが、確かに私立大学はもとより、法人化された国立大学においても、最近は、余裕資金を短期の定期預金で細かくつないでみたり、国債を購入したりと、大きなリスクを抱え込むことを禁じた法人制度の枠組みの範囲内で、少しでも財政基盤の強化につなげようとする試みが積極的に行われているようです。

今日は、国立大学法人が保有している不動産などの資産の活用について考えてみたいと思います。

国立大学法人の資産とは


現在、政府は、国の資産圧縮を進めており、いわゆる「骨太方針2006」では、「約700兆円ある国の資産を2015年度までに約140兆円に圧縮する」方針を決めています。

その方針の下、昨年5月初旬に開催された経済財政諮問会議では、国の資産だけでは不十分ということなのか、民間議員から「国立大学法人が全国に保有している土地などの資産は有効活用されていない」との指摘がなされ、「国立大学法人が抱える資産についても売却や有効活用などを進めるべき」という提案が出されました。

現在、各国立大学法人が保有している土地、建物、工作物などの膨大な資産*1は、全て法人化の際、国から各国立大学に譲渡されたものです。しかも「タダ」で。あまり知られていないことですが、国民の貴重な資産である国有財産が、平成16年4月1日を機にいとも簡単に各国立大学法人に無償で引き渡されていたのです。

国から各大学への承継に当たっては、資産の適正な評価額を設定するために、不動産鑑定士や公認会計士といった専門家に資産評価をお願いし高額な手当てが支払われました。これにかかった費用は、全国で膨大な額となったわけですが、これ全て国民の税金なのです。

経営資源のほとんどを学生納付金や寄付金など自己収入に頼り、懸命な企業努力で大学経営や資産の確保・拡大を行ってきた私立大学から見れば、国立大学の法人移行時におけるこのような身内同士の馴れ合い的お手盛りの所業は、極めて公平性に欠けたものであり、許しがたいことだったのではないかと思います。

国立大学法人における資産の活用状況は


さて、このような経緯によって国立大学法人に承継された資産は、国民の皆様が充分に納得できるほど有効に活用されているのでしょうか。全国の国立大学法人の状況を確認したわけではありませんが、知り得る限りにおいては、答えは「No」と言わざるを得ません。

なぜならば、国立大学法人には、法人化以前から、会計検査院、財務省理財局、総務省などによる調査・検査において「有効活用が図られていない」と指摘を受けた数多くの「遊休地」や「遊休建物」がそっくりそのまま引き継がれているからです。

また、大学の教員の中には、普段自分達が使用している建物や研究室をまるで自分のもののように考えており、大学全体として有効活用を図り、少しでも国民の負託に応えようなどという意識は全くない人が多いからなのです。

事実、法人化後、資産の有効活用を経営改善の重点項目として取り組んだ大学でない限り、今でも使い道に困ったお荷物資産や教員の既得権で手をつけることのできない資産が数多く存在しています。

それでは、国民の皆様にとって良くない例をご紹介しましょう。

ある国立大学法人(こういう大学は少なくないと思われます)では、法人化以前に全く活用されていなかった資産を国から承継しています。使いもしないようなものをなぜもらったか、それは、法人化後大学の資産規模が減ってしまうことはみっともない、したがって国からもらえるものはできるだけもらっておこうという公務員意識(貧乏人根性)がそうさせたのです。

単なる見栄ですね。これらの資産のほとんどは、使い勝手の悪い土地や、老朽化が著しく耐震性にも問題があり、すぐにでも改修や建て替えを行わなければならない危険な建物です。

しかしながら、それを改善するためには膨大な資金を調達する必要があり、今の貧乏な国立大学法人ではとても対応することはできません。そのため、危険だとわかっていても手が出せず何年もの間放置せざるを得ない状況が続いています。特に、教育・研究に直接関係しない教職員・学生用の福利厚生施設、宿泊施設、研修施設、宿舎などは、多くの国立大学法人がその取り扱いに苦慮している課題です。

おそらく、民間企業であれば、即、不良資産としての処置を検討し実行するのでしょうが、残念ながら大学はそれができません。なぜならば、大学の教職員のほとんどは、これまで大学の経営なるものを真剣に考えたことがなく、こういった状況を自分自身のこととして全く認識していない、つまり、「国民から負託されている資産を国民のために有効に活用する義務が課せられているのだ」という自覚を持っている人は皆無に近いからなのです。

自分の会社の不良資産を気にしない社員、それを解決しないと自分の生活の糧にも跳ね返ってくるといった危機感や緊張感を持たない社員を多く抱える企業はきっとめずらしいだろうと思いますし、そういう企業は、おそらくは長続きしないはずですよね。

不良資産が国民の前にさらされることになった


平成18年4月から、国立大学法人には民間企業並みに「減損会計基準」なるものが適用されることになりました。

このことにより各国立大学法人は、保有する資産を使って行う業務の実績が低下した場合や、今後資産を使う予定がない場合などにおいては、資産を減損し(評価額を下げ)、その結果を毎年度の財務諸表において明確にしなければならなくなりました。つまり、有効に活用されていない資産について、国民や社会に対し公表するしくみが整備されたのです。

法人化までは、例え「遊休地」や「遊休建物」を放置していても、全く現実味のない(というより虚偽の)利用計画を作成することによって、文部科学省、財務省、会計検査院などの同じ公務員という仲間内からの追及から逃れることができていましたが、この減損会計の導入により、国から承継された国民の資産が有効に活用されていない実態が社会や国民の目にさらされることとなったのです。(国民の皆さん、各国立大学法人のホームページで公表されている「平成18年度の財務諸表」を一度ご覧になってはいかがでしょうか。その大学で有効に活用されていない資産がどういうものであるかバッチリ見ることができますよ。)

国立大学法人に導入されることとなった減損会計基準は、政府による国の資産圧縮政策とは別の要請に基づき導入されたものですが、いずれにしても、国立大学法人の場合、国民から与えてもらった貴重な資産を有効に活用していないということは、大学の基本機能である教育・研究をはじめとする国立大学法人の使命・役割を適切に果たしていない、つまりは、「やるべきことをやっていない」という審判を国民から受けることになるものだと思います。

今後、仮に、政府の資産圧縮政策と減損会計が結びついた場合には、有効に活用されていない資産については、処分等を求められる可能性が十分あります。国立大学法人の経営トップや教職員はこのことを十分認識しなければなりませんし、緊張感のある資産管理に努め、「国民の資産」の使い方についての説明責任を果たしていかなければなりません。


*1:文部科学省の調べによれば、国立大学法人全体の平成17年度末の資産総額は、なんと約9兆2,741億円也