2011年5月7日土曜日

文部科学省の広域人事に関する問題

東京電力の原発事故処理が遅々として進まない状況の中、所管官庁と業界との「癒着」の温床ともなる”天下り”が問題になっています。
読売新聞(2011年5月2日)によれば、過去50年の間に、経済産業省から電力会社12社へ再就職した数は68人。経産省での最終ポストは、次官6人、エネルギー庁長官3人。社長に就任したのは北海道電力と沖縄電力、電源開発で1人ずつのようです。
不祥事が起こるたびに問題視されている”天下り”ですが、相変わらずキャリア官僚の権力は堅守されているようです。


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関連して、文部科学省から国立大学法人への出向者について触れてみたいと思います。

国立大学の事務組織は、法人化前からそうでしたが、一般的に「事務局長-部長-課長-副課長(課長補佐)-係長-主任-係員」といった多層のヒエラルキーによって構成され、その弊害として、「タテ割り、硬直化した組織、年功序列、低給与水準」等が指摘されてきました。

そこで法人化後多くの大学では、組織と人の力を最大限に発揮できる組織づくりに力を注いできました。特に、「組織のフラット化と柔軟化」は重要なテーマとされ、例えば、迅速な意思決定をより可能にするため、経営トップである学長と現場との距離をできるだけ近づける、具体的には、役員の下に担当事務組織を直接配置する方式に変更するなどの取り組みを行っています。

その結果、文部科学省からの“天下りと批判されている事務局長”や、“定年までの待機職である部長”を廃止する大学も少しずつですが増えてきています。実質的には役員と現場を抱える課長とのラインが太く強固であれば仕事はうまく進むわけで、その間に屋上屋を重ねるような階層はもはや不要なのかもしれません。

大学改革を一層進めていくためには、このような“官僚体制としての事務組織”を再構築するとともに、業務の必要性など根本に立ち返った見直し、SD(スタッフ・ディベロップメント)など職務能力の開発(専門化)、努力した者が報われる厳格な職員評価・人事考課の確立といった多様な課題の解決に向け取り組んでいかなければなりません。

そして、こういった諸改革の成否は、結局は「人」に依存します。改革成就のためには、多くの職員が一丸となって経営者(学長)の掲げるビジョンと戦略を共有し、各々がその役割・責任を全うすることが何より大事になってくるわけですが、その職員達を迷わすことなく引っ張っていける力量のある管理職の存在がカギになります。

特に、“腰掛人事”と揶揄される文部科学省の命令によって各地を2~3年ごとに転々とする課長以上の管理職と違い、副課長(課長補佐)さん方は、基本的には当該大学の生え抜きであり、深い愛校心と広い人間関係を持った人達です。中には、いわゆる年功序列によってその地位を築いた方もいらっしゃいますが、最近では、大学におけるキャリアパス制度の充実などから、優秀な人材層が整いつつあります。また、法人化以前には不可能だった「プロパー職員の管理職(課長以上)への内部登用制度」も定着しつつあり、今後10~20年先が楽しみです。

事業仕分けで指摘された文部科学省からの役員・管理職への出向が、いわゆる“天下り”あるいは“渡り”に当たるのかどうかの判断はなかなか難しいところですが、「国立大学の法人化によって、国立大学の人事権が学長に移行した(法律によって保証された)にも関わらず、相変わらず文部科学省が国立大学の役員及び事務系幹部職員の人事を行っている」ことは事実です。

諸事情あって国の時代の制度が未だに生き続けていることは理解しつつも、このことは法人制度の根幹に関わる重要な事項であり、文部科学省は直ちに法律に書かれた制度の趣旨と実態との乖離を一日も早く無くす取り組みを進めるべきだと考えます。


参考までに、「国立大学法人における外部人材の活用方策に関する調査研究報告書」(法人化後の国立大学運営における外部人材活用方策に関する調査研究プロジェクト 研究代表者:本間政雄)に示された「文部科学省の広域人事の問題」に関する指摘をご紹介します。これが現場の概ねの実態です。
  • 事務の合理化は、結局誰かが泥をかぶって様々な抵抗勢力と戦いながらでないとできない。例えば職員について形骸化している評価制度を実質化しようと提案すると、すぐに職員組合から反発が起きる。だから、事務局長が強い意志でもって何としてもやらなくてはいけない。学長が前へ出てしまうと、ややこしいことになってしまう。法人化の前から国立大学の学長がよく言うのは、「学長と事務局長とが本当に意気投合できるときにこそ改革をやる。それでうまくいかないときはやらない」と。局長が代わったときにまたやるということは事務局長の役割が決定的に重要ということ。

  • 理事は充分やる気があって、テーマによっては一生懸命にやっている。けれども体制、意識とかスピードということになってくると、やっぱり事務局のガードが強い。事務局長というのが常に組織を掌握している。各理事が自分の下に事務組織を持っているのだけれども、それは横できちんと事務局長が掌握している。言ってみれば一種の二重構造。

  • 広域人事で全国の大学を2~3年で回っている人達は、最初は国立大学や高専に採用された人達で、20代に見込まれて文部科学省に転任した人達。係員、係長として、政策立案、政策の実務設計、調査・分析、政策の執行、予算配分などの実務面をこなした経験を豊富に持っており、全国的、ポジションによってはグローバルな視野で仕事をしている。概ね38歳で、大学に課長として出て、半分くらいは40代前半で本省に戻り課長補佐としてさらに高いレベルで政策立案・執行に携わる。大体46~47歳で大学の部長として出る。こういう彼らだから、例外はあるが、知識、識見、仕事のスピード、人脈、判断力、実行力において大変優れている。彼らの問題は、在任期間が平均して短いことから、どうしても腰掛け的な中途半端な気持ちで仕事に取り組むことと、もう一つは、任期が短いこととも関連するが、彼らに中長期の目標がないこと。○○大学○○課長に命ずるという辞令をもらっても、やはり2~3年で代わるという気持ちがどこかにあるから、大学のこともあまり本気で勉強しないし、まして2年か3年の在任中に、リスクを冒してまで何か新しいことや改革をやろうかということがない。部課長の人事をどうするか、彼らに目標・課題を考えさせる、それを与えることは学長の責任である。

  • 学長に人事権があるわけだし、事務局長をはじめ部課長が学長のビジョンを共有して、学長のために働いてくれるかどうかは、大学改革を進める上で極めて重要。逆に言えば、漫然と事務局人事を容認しているようでは何も変わらない。特に、事務局長は学長の右腕であり、事務局長が大学改革、教育改革、事務改革に意欲を持っているかどうかは決定的に重要。学長の人事権は、なかなか教員には及ばないが、職員には直接発動することが可能なのだから、幹部職員人事、若手の抜擢、外部人材の登用などで、是非特色を出してほしい。いずれにしても、学長は、幹部職員候補に直接会って、私のビジョンはこれだと説明をした上で、協力してくれるかどうか「踏み絵」をすべき。特別な事情があれば別だが、学長がこれをしてほしいと言っているのに、そんなことはできませんとは絶対言えない。学長が無理無体な要求、理不尽なことを言っているのでない限り、文部科学省の人事課長は「君は明目から○○大学の人間になるのだから、学長の方針に従ってしっかり頑張れ」というしかない。大学に人事案を提示した段階では、もう全国の大学のポスト調整は終わっているから、今更人事の差し替えはできない。いずれにしても、学長がもっと人事権をしっかり責任持って行使をする責任がある。

  • 学長がその人を評価して、その人にいてもらいたいと思えばいてもらえばいい。ただ、学長も6年しかいない。だからその人の人事に責任を負えない。すると「45歳でお前を理事にするからこの大学に残ってくれ」と言われても、学長が代った途端に「お前はもう要らない」と言われることがあると困るわけで、結局は定年まで面倒を見てくれる文部科学省の指示に従って2年ぐらいで代わる道を選ぶ。文部科学省が理事にするのは、平均して50代半ば。いくら大学の要請だからといってそのルールを破って、若くして理事になったら、文部科学省は「じゃあ、これからは自分の人事は自分で面倒を見るということだな」となる。6年やって51歳になって、「今度学長が代わって、私クビですから、何とかしてください」と言っても、「知らん」ということになる。「お前は自分で横破りをやったんだから、あとは自分で勝手にしろ」となる。だからみんな文部科学省の人事に忠実に動いている。

  • 文部科学省は管理運営の効率化を求めているが、ひょっとするとこれは口先だけかもしれない。国立大学の幹部職員の人事を見ていると、少なくともこれまでは「改革ができるかどうか」という観点から適材適所をしているようには見えず、従来の年功序列型に戻っているように見える。具体的に言うと、改革を行っても行わなくても、具体的な成果を挙げても挙げなくても、その後の人事にあまり影響がないということ。

  • 部課長の面談をやった。事前にこちらで質問内容をいろいろ練り、来てもらって1入最低30分、長ければ1時間の個別面談を全部やった。それをやって明らかに失望した。「この人達は大学改革とか法人化ということに体を投げ打ってやるという気概はない」と痛切に感じた。この人達はもう一度面談をやってもあまり意味がないと思った。

  • 全国異動で回っている人は腰掛けが少なくなく、愛情もない。国立大学の事務部の中枢と言われ、本人達もそう考えている財務部の機能の多くは、いわゆる統制機能。言い換えれば、教育研究の現場である学部や大学院、図書館や病院などがきちんと規則、法令に則って会計処理をしているかのチェックが財務部の仕事の過半を占めていて、それはしばしば現場の教育、研究上の要求に縛りというか制約をかける動きになる。逆に、学生部や国際交流部といった学生支援、教育研究支援機能を担う組織は人的資源の面からも財政的にもおざなりになっている。だけどそれを変えようと思ったら、それこそ身内から袋叩きに遭うような改革をやらなければいけない。そういう状況の中で、どうすべきか。生え抜きの人を育て、抜擢し、広域人事で回ってくるいわば任期付きの部課長や民間から登用した外部人材を組み合わせ、有効活用しなければならないのだが、学長や教員出身の総務担当理事ではなかなか難しいし、2年、長くても3年くらいで代ってしまう文部科学省出身の理事も、それだけの意思と理解と胆力を持った人材はそうそういるわけではない。企業から優秀な人をとっても、1人や2人では、大学内におけるインパクトは限定的。学長にリーダーシップがあって大学改革にかける思いがあっても、それを形にする人、要するに教授会に出かけていって、反対意見に凝り固まっている教員を説得して勝てる人間、最後はそういう人間を育て、外部から登用するというのが1つのキーだ。

  • 最近、文部科学省の幹部に「今のような緊張感を欠いた、従来の延長型の幹部職員人事を続けているようでは、法人化は失敗する。大学の現場は、運営費交付金の削減や評価の強化、新たな業務の急増で疲弊しており、早急にガバナンス改革、事務改革、人事制度改革、財政改革を断行しないと大変なことになる。こういう改革に本気で取り組む意欲のある人材を、ある程度の期間送るようにしないと、そのうちにもう文部科学省の人はお断りしょうということになる。そのくらい、現場の学長や生え抜き職員の目は厳しい」と頼まれもしないアドバイスをしてきた。

  • 幹部職員の人事権は学長にあるわけで、学長が代わったときに部課長全員を呼んで「踏み絵」をさせるぐらいでなくてはいけない。もちろん、これは学長が大学運営に関して明確なビジョンを持っているという前提。ビジョンを持っている前提で、そのビジョンを共有できるかどうかと。学長ビジョンは全部事務職員組織に還元できるはず。それぞれ課長、部長にそれを具体化する方策を考えさせるということ。そういう具体的な目標を与えられれば、必死になって考える。文部科学省から来る人でも内部登用する人でも最低限そのポストには4年は居ていただかないときちんとした成果の見える仕事はできないし、結果責任も問われない。もちろん最初の6ヵ月は、いわゆる「試用期間」ということにして、緊張感のある仕事をしてもらう。この段階で、うちの大学の管理職としては不適格ということになれば、残念ながらお引取りをいただく。

  • 文部科学省と国立大学の関係は、世間で言う本社と支店、子会社の関係ではない。人事面で対等の、メリット・ベースの採用をする必要がある。文部科学省の人も、元々仕事はできる人が多いが、大学に出た途端に、あるいは2年ごとに大学を変っていくうちに管理職としての緊張感が薄れる人がいる。いずれにしても、幹部職員の人事に関しては、発令の2~3週間前に文部科学省から人事異動の内示があってから、適任かどうかなんて考えていたのでは間に合わない。内示から着任まで課長で2週間、部長でも3週間しかない。この段階で、本人に会って能力や意欲を確かめても、人事の差し替えはほぼ不可能。どの部課長がそろそろ変わる時期か、というのは人事課に聞けばだいたいわかるから、その前に学長自ら本省に出かけていって「うちの大学では、こういう人(例えば、「広報体制を一新し、志願者の50%増を実現する課長」、「本部事務組織の職員を3年間で10%削減する事務局長」)がほしい。最低4年間は、大学にいてもらう」という具合に、具体的な条件を出して交渉すべき。事務職員、とりわけ幹部はそのくらい重要。

  • 「若くて元気がいい」というような、抽象的で曖昧模糊とした条件は、本当に意味のある条件ではない。「若くて元気が良くて、何もしない」事務局長だっている。問題は、「改革マインドがあるかどうか」「学長のビジョンを共有してくれるかどうか」「文部科学省ではなく、大学を向いて仕事をしてくれるかどうか」であり、そのことを明らかにするために、重点課題を示した「課題リスト」を提示し、できるかどうか具体的に尋ねること。改革できるのであれば、年齢や東大を出ているかどうか、キャリアかノンキャリかなんていうことは大して意味がない。だからそれを言わない人事であれば、はっきり言うと文部科学省は楽。だからごまかしの効かない条件を出すべき。そうすれば文部科学省は、○○大学の事務局長候補として考えている人を呼んで「学長からこういう条件を出されたから、従ってほしい」と言うしかないし、当人もとんでもない条件でない限り、その段階で「できません」とは言えない。できませんと言ったって人事をはめ込んでしまったからお前はここに行くしかないと言われるだけ。何事も、最初が肝心。いったん理事や事務局長として来てもらったら、あれこれ条件をつけるわけにはいかない。