2011年5月22日日曜日

国立大学法人の経営努力は果たして十分か

国立大学法人では現在、6月末を期限とする財務諸表等の文部科学大臣への提出に向けた決算作業が大詰めを迎えています。その中で、特に気になるのが決算剰余金、つまり翌年度へ繰り越して使える額がいかほどになるのかです。

今回決算の対象となるのは平成22事業年度で、第二期中期目標期間の初年度に当たります。第一期中期目標期間から第二期中期目標期間への繰り越しが原則として認められなかった、認められたとしてもかなり厳しい条件の下での繰り越しであったこと、さらには、会計検査院の指摘により、今後翌年度への繰越申請に当たっては、その使途を明確にすることが求められるようになったことから、単年度予算制度の弊害である”予算の使いきり”が復活する気配はあるものの、予算の弾力的使用を可能とする法人化のメリットを活用することの意義も捨てがたく、おそらく今回の決算でも、各大学で多額の剰余金が発生することは間違いないでしょう。

大事なことは、翌年度への繰越承認を受けたお金の使い方です。民主党発足当時は”コンクリートからヒトへ”という言葉が流行りましたが、国立大学法人では相変わらず”コンクリート”重視の風土に変化はなく、教育研究環境の整備という名目により、国民や学生から見ると必要性、必然性の感じられない投資が続いているような気がします。

さて、ずいぶん前になりますが、ある新聞が報じた全国の国立大学長アンケート結果によれば、92%(77大学)の学長が、「法人化により国立大学間の格差が広がった」と回答し、「過去の資産のある大規模大に資金が集中している」「旧帝大は余裕があるため、新たな展開を可能にしている、格差拡大は『地力の差』にある」といった意見を寄せていました。

また、法人化後の問題点として、「各大学とも毎年1%を目安に教育研究経費の効率化が求められ、全体として法人化後700億円を超える運営費交付金が減額されたこと、一律削減により、もともと財政基盤の異なる旧帝大と地方大(特に教育系単科大)の格差が広がった」ことなどを指摘していました。

このような厳しい状況の中、各大学は、例えば、運営費交付金の削減分を外部の研究資金や寄付金などで補う努力を続けてきているわけですが、ある学長が「外部資金獲得は大規模有名大学あるいは医理工系分野に有利に働く」と指摘しているように、地方大学の限界も垣間見えています。

国立大学法人に身を置く者の一人として申し上げれば、確かに法人化前に比べれば、いわゆる「人、物、金、スペース」といった資源の不足感は否めませんし、声を大にして社会に訴えることも必要なことだと思います。しかし、それでは国立大学法人(の学長)は、国立大学法人とは縁もゆかりもない社会の人々、あるいは、私立大学に多額の授業料を負担している保護者からいただく運営費交付金という名の税金を無駄なく効果的に使っているのかと問われた時に、果たして1円単位できちんと説明や証明ができるのか甚だ疑問の点があります。

国立大学法人の経営トップである学長は、これまで、運営費交付金の削減で「資金が足りなくなり、教育研究や学生サービスに悪影響が出た」「教職員の定年退職後不補充により、特に卒業研究指導など教育への悪影響(が出ている)」「交付金の削減をやめ増大に転じることが必要」「高等教育の公財政投資を欧米並みに、現在の国内総生産(GDP)比0.5%から1%に増加させることが必要」といった国民の心に全く響かない具体性のない言葉のつながりを、教員出身者らしく能弁に語ってきましたが、それだけでは全く説得力がありません。「私達はここまでこういった努力や改革をやってきた、しかしそれもこういった点で限界域に達している」ということを、客観的なデータなど、誰もが納得できる具体的なエビデンスに基づいて説明しなければ誰も理解してくれないのではないかと思います。多額の税金や学費によって賄われていることの意味を大学のホームページ等できちんと説明している国立大学法人はまだまだ少数のような気がします。

大学の中には、学長や役員の目には留まらない、留まってもあえて放置されている「あるべき姿と実態との大きな乖離」(=緊急に解決すべき課題)がいくつもあります。また、上記のように、大学の外からみた評価や会計検査院による無駄遣い検査において、毎年のように指摘されているにも関わらず手をこまねいている課題も少なくありません。今の国立大学法人には、予算(税負担)の増額を国民に求める前に改善しなければならない課題が山ほどあるのではないでしょうか。

法人化後、国立大学の財務会計制度が格段に改善されました。年度内に消化できない予算については、「経営努力」という美名のもとに翌年度に繰り越して使用することが可能になりました。文部科学省が国立大学に繰り越しを承認した金額は、キャッシュベースで1千億円以上に上ります。国立大学法人は、予算消化(予算の無駄遣い)に奔走するという悪弊の時代に逆戻りすることのないよう、また、多額の剰余金を毎年度生じさせることと、予算が厳しく教育に支障を来しているというコメントを発することとの整合性を国民に対してきちんと説明する必要があります。