東日本大震災の発生から2か月が経ちました。犠牲者の方々のご冥福をあらためてお祈りいたします。
被災地では、いまだ行方不明者が1万人近くいる中、多くのボランティアや義援金などの支援が続けられています。息の長い支援を心から希望したいと思います。
さて、このたびの震災により日本人が学んだことはたくさんあると思います。そのなかで、大学のリスクマネジメントという観点から、吉武博通さん(筑波大学大学研究センター長、大学院ビジネス科学研究科教授)がリクルート カレッジマネジメント(168/May-Jun. 2011)に寄稿されている「東日本大震災に際しての危機対応と大学がこの経験から学ぶこと」(抜粋)をご紹介したいと思います。
全文は、こちらをご覧ください。
大震災を機にこれからの大学を考える
大震災とそれに続く原発事故は、社会における大学の役割や教育研究のあり方など、これからの大学を考える上で重要な様々な課題や視点を投げかけている。
最も重要と思われる点は、知識の獲得・蓄積・活用についてである。専門家も一般人も知識の獲得にいま以上に貪欲になり、社会全体で知識の厚みを増していかなければならない。知識を一部の専門家が囲い込むことで馴れ合いが生じ、異なる見方も黙殺されることになる。その上で、確かな部分と不確かな部分の境界を明確にし、不確かな部分に危険が潜む可能性があれば、それが顕在化した時に対処できる術を社会や個人が身につけておかなければならない。
大学や高校の授業で地震・津波や原発・放射能の基礎を学ばせる必要もあろう。日本を知ると言いながら、日本史の学習は繰り返されるが、日本列島の地質構造や地震・津波災害の歴史などは学ぶ機会が限られている。電力の3割近くを原子力に依存しながら原発や放射能の知識はマスコミ報道頼みでは心もとない。
大学は教員ポストという既得権を守ることで、学問構成に大きな変更を加えることなく時を刻んできた面がある。火山国であり、噴火被害が繰り返されるにもかかわらず、火山学者は全国でも少数という。
未曾有の体験をしたからこそ、求められる知識とは何かについて、あらためて考え直してみる必要もあるのではなかろうか。
最後に、地震予知連絡会委員を務める若手地震学者の八木勇治筑波大学准教授に寄せてもらったメッセージを紹介し、本稿を締め括ることにしたい。
「東日本大震災を引き起こしたのは、日本の近代観測史上最大のマグニチュード9.0の巨大地震であった。この巨大地震の震源域は、地殻変動データから歪みが蓄積していることが明らかになっていた領域と一致している。残念ながら、多くの地震学者は、過去の地震活動のみに注目し、地殻変動から発せられている危険信号を十分に認識することができなかった。今回の地震は、自然現象を理解し、将来を予測するために、学際的な研究を深めていく重要性をあらためて教えてくれた。これから大学が果たすべき役割は大きい。」