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分析②:職員の改革は経営改善につながっているのか
では、続いて、分析②に話を移したいと思います。職員の改革が経営状態の改善につながっているのかを分析するために、我々は図表5(略)のようなモデルを設定しました。経営状態ですが、ここでは定員充足率で捉える事にします。学納金収入の占める割合が大きい日本の私立大学にとって、学生確保は経営上、最も重要な課題であり、この成功なしに経営状態が良くなることは基本的にはありません。定員充足率は、規模や選抜性といった組織特性によって大きく異なることがよく知られています。ただこうした組織変数は大学にとっては所与の条件に近いので、「規模が小さいほど定員充足状況が悪い」「選抜性が高いほど定員充足状況が良い」傾向がみられるなどといっても大学にとっては全く役立つ情報になりません。大学にとって統制可能で、なんらかの努力可能な取り組みが、こうした条件をコントロールしたうえでも経営改善に効果があるのかを明らかにすることが重要かと考え、このようなモデルを設定しました。
以下では、「組織特性」「ガバナンス」「人事制度」「組織風土」のそれぞれの間の関係について確認したうえで、最終的には組織特性を統制してもガバナンス、人事制度、組織風土が経営改善につながっているのかを見ていくことにします。図表が多くなってしまい、申し訳ありませんが、数字でお示しするよりも視覚的にわかりやすいかと思いますので、ご容赦ください。
組織特性とガバナンスの関係
図表6(略)を見てください。オーナー理事長は、規模が小さいほど、選抜性が低いほど多いことがわかります。職員理事(職員出身で理事になっているもの)は、規模が大きいほど、選抜性が高い大学ほど多い傾向が見られます。また、教授会自治は、規模が大きいほど、選抜性が強いほど強いようです。教授会自治の強さについては、職員から見て、その大学の教授会自治が強いと思うかという観点からデータを取っている点には留意が必要です。どの結果もきわめて常識的な内容ですが、この当たり前とも思える結果がわかりやすい形であまり示されてこなかったかと思いますので、ご紹介しました。
組織特性と人事制度の関係
図表7(略)をご覧ください。適切な人事制度、一定キャリアモデルの提示については、どの大学でも低評価です。職員の自己啓発はさきほども述べたように、規模が大きいほど盛んです。偏差値では50-54の大学でもっとも盛んですが、この理由はよくわかりません。中途採用で有能な人材の採用は規模が大きいほど、選抜性が高いほど多いようです。自大学出身者が多いのは、規模が大きい大学、選抜性は50-54の大学でもっとも多いようです。
組織特性と組織風土の関係
図表8(略)をご覧ください。意見や提案の言いやすさ、上司の信頼、教員との信頼は、大規模大学ほど、高選抜性の大学の職員ほど肯定的な回答をしています。ここでおもしろいのは、経営方針の共有度が、規模や選抜性によって変わらないということです。私が別のところで実施した調査でも同様の傾向が確認されるのですが、「小規模大学ほど意見共有がしやすい」と思われているようですが、データから見る限り、必ずしもそうした傾向は見られないようです。
組織風土とガバナンスの関係
図表9(略)をご覧ください。組織風土とガバナンス関係ですが、一言でいえば、それほど明確な関係は見られないということになります。わずかながらに差がみられたところを申し上げておきますと、自分の意見や提案を言いやすいのは、オーナー系でない場合、職員理事がいる場合、教授会の自治が強い場合で肯定的な意見が多いようです。また、教員との信頼関係は職員理事がいる方がよい傾向が見られますし、経営方針の共有についてはオーナー系私学の方が共有が進んでいる傾向もわずかながらですが、確認できます。
組織風土と人事制度の関係
図表10(略)をご覧ください。さきほどとは対照的で、組織風土と人事制度は強く関係があるようです。適切な人事制度があるほど、キャリアモデルが提示されているほど、職員の自己啓発が奨励されているほど、中途で有能人材が採用されていると感じているものほど、業務のしやすさなどの組織風土を高く評価する傾向が見られます。(続く)