2014年5月31日土曜日

教育の本質

ブログ「教授のひとりごと」から革新起こす人材育てる教育」(2014年05月20日)をご紹介します。


日経産業新聞(5/16付け)の「ウィリアム氏と明日を読み解く」欄に『革新起こす人材育てる教育』とした記事があった。


氷上で生活するイヌイットと、パソコンモニターの前に座るモダンなサラリーマンとではどちらが人間としての能力に優れているでしょうか。イヌイットは家の建て方を知らなければ生きていけませんし、魚の釣り方、料理の仕方も身に付けなければいけません。必要な知識や習得すべき能力は多岐にわたり、身の回りの何もかも自分ですることは当たり前です。

一方、サラリーマンはコンピューターを駆使して世界中と瞬時につながれます。ですがコンピューターの中身がどうなっているのかや、電気やインターネットの回線がいかにして提供されているのかなど、ごく身近な仕事道具にさえ、特別な関心を払うことなく生活しています。仕事に関わりのない領域に対する能力は、ややもすれば不要です。住む家を自ら建てるサラリーマンは変わり者と言われるでしょうし、料理がまったくできない人でも食べるのに困りません。

どちらが人間として優れているのか。
それは正解のない問いです。現代社会とは明確な役割分担による分業によって成り立っている、高度にスペシャライゼーション(専門分業化)の進んだ社会であるとの指摘はできそうです。日本は特にスペシャライゼーションの進んだ国です。終身雇用制度へとつながる縦割り型の社会構造は、世界に最たるスペシャライゼーションの事例。ただし、これは褒め言葉ではありません。行き過ぎたスペシャライゼーションには、人間の素晴らしい能力をスポイルしてしまう側面もあるのです。

その能力とは想像力と創造力。
つまりイノベーションを生み出す源泉です。ダイバーシティが前提となった世界の現状においては、経済問題、民族紛争、環境汚染など現れる問題は、常に未知のもの。閉ざされた「村空間」の中だけで最適化を追求していればよい時代はもう終わりました。私たちはそれを理解しなければいけません。

残念なことに、日本の教育システムは過剰なスペシャライゼーションの維持・推進に寄与してしまっています。日本の教育が重視してきたのは、適合性、従順性、そして規則性。その価値観は、近代教育の黎明(れいめい)期以降ほとんど変わることもなく今に伝承されています。その間、世界は大きく変化しているのにも関わらずです。

適合性を重視する学校は、効率性重視のマシンのようです。非実用的で時代遅れのカリキュラムを学生に押しつけ、それを画一的な基準で評価する。これではひとりひとりの人間に備わった個性を発見することはできません。従順性を重視する学校は、生徒の自主性を育てる機会を自ら失っています。ビジネスの成功例はその多くがルールへの疑問や寄り道から生まれるものです。規則性を重視する学校は、人間の成長速度に違いがあることを認識すべきです。同じレールの上を同じ時刻表に沿って進む子どもたちには、失敗を挽回するチャンスも、成功を機に近道する選択肢も与えられていません。

レールの上を進んだ先に用意されたスペシャライゼーションからは、イノベーションは決して生まれません。イノベーションとはルールの中で効率性を上げていく努力のことでなく、ルールそのものを変えてしまうような素晴らしいアイデアの実用化のことなのです。


わが国でも、高校教育ではスーパーサイエンスハイスクールだとか、大学では「21世紀COEプログラム」などの取り組みが行われている。それはそれで成果を上げているのかもしれないものの、多くの教育機関では「横並び」であり、各教育機関が特色をだしているとはいいがたい。それは戦後の発展の時期に構築された20世紀型の教育プログラムから抜け出せていないからかもしれない。

教育によって若者は大きく成長することができる。単に入試を突破したり、大企業に就職することが教育の目標ではないはずだ。もっと教育というものを考える時期に来ているようにも思う。世界に誇れる研究成果を出すことも、産業界が求める人材を輩出することも大切なことだろうけど、もっと教育の本質について議論することも必要ではないだろうか。

大学はスポーツ強化にも取り組んでいる。有名な選手を輩出したり、著名な競技会に大学の看板を背負って出場することで、大学の宣伝効果も高くなる。しかし、最近スポーツだけでなく、大学の授業にもちゃんと取り組んで留年などしないようにする取り組みが広がっている。いわゆる、「文武両道」の実現だ。ある意味、当たり前のことにようやく取り組みだしたとも言える。大学卒業者に向けられる社会の目が厳しくなったという事情もあるかもしれないが、大学教育のあり方についても議論が必要だと思われる。

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