2014年5月2日金曜日

人間としての大事なつとめ

世代をつなぐ人材育成」(2014年4月15日PHP人材開発)を抜粋してご紹介します。


4月の後半にさしかかり、今年入社の新入社員に対する導入教育が終わった企業・団体も多いのではないでしょうか。会議室・研修室での知識教育を経て、いよいよ現場での実地教育へとステージが切り替わるわけですが、ほんとうの人材育成はまさにこれからです。これから始まる現場でのOJTの質が、新社会人の成長に決定的な影響を及ぼすと言っても過言ではありません。

心理学者 E・エリクソンの提唱した「世代継承性」という概念を拡大解釈すると、今の世代が次の世代を育て、次の世代がその次の世代を育てることによって、事業や組織が継承されていくとされています。[育て-育てられ]の関係が連鎖していくという発想ですが、その逆も然り。上司や先輩から愛情をかけられずにきちんと育てられなかった体験をした人材は、自分が後輩や部下をもった時、人を育てようという発想をしにくくなると言われています。

新入社員にきちんとした教育を施していくことは、今年の新入社員を育てることだけにとどまらず、人を育てる風土づくりにも影響を与えることをOJTの担い手である現場の上司・先輩の人たちは正しく認識しておく必要があります。

松下幸之助は、「教えずしては、何ものも生まれてはこないのである。教えるということは、後輩に対する先輩の、人間としての大事なつとめなのである。その大事なつとめを、おたがいに毅然とした態度で、人間としての深い愛情と熱意をもってはたしているかどうか」(『道をひらく』PHP研究所)と述べ、次の世代を教え導く重要性を説きました。

おたがい、たくさんの実務を抱え余裕のない中、人を育てることは簡単なことではありません。しかし、今の自分があるのは、かつての上司や先輩だった人の導きに負うところが大きいのではないでしょうか。そうであるならば、今度は自分が次の世代のためにできることをしてあげる。そんな思いをもった人が増えることで、人が育つ風土が醸成されていくのではないでしょうか。


著者 : 松下幸之助
PHP研究所
発売日 : 1968-05