産業界の目線で、各高等教育機関が取り組むべき喫緊の課題と今後の方向性が明確に整理されています。各機関の強み・特色を踏まえた機能強化のための選択と集中が必要になります。
Ⅱ 求められる教育改革
1 高等教育
(1)学長のリーダーシップによる大学改革の推進
グローバル競争が激化する中、日本の大学が、世界のトップ大学と伍して優秀な教員・学生を獲得し、教育力・研究力を高めていくためには、学長がリーダーシップを発揮して、各大学のビジョンや特色・強みを明確に示し、それらを最大限に活かすかたちで、学部・大学院の再編や予算編成・配分、入試制度や学事暦、教育カリキュラムの見直し、国際化の推進などに戦略的に取り組むことが不可欠である。
政府は、本年2月の中教審大学分科会の取りまとめ【表1参照】を踏まえ、今国会に教授会の役割、審議事項の明確化に関する学校教育法の改正案を上程するほか、2015年度までに国立大学の運営費交付金の配分や評価方法を抜本的に見直し、改革を進める大学に重点的に傾斜配分することで、改革に取り組む大学を側面的に支援する方針を打ち出している。
しかし、改革の主体はあくまでも大学であることに変わりはない。各大学は、主体的に自らのガバナンスを総点検し、学長のリーダーシップを確立するための取り組みや、学長を補佐する体制の強化(改正される学校教育法の趣旨に整合しない内規の見直し、総括副学長の設置、学長を支えるスタッフとして企業人や高度な専門性を持つ専門職を安定的に採用・育成等)を進めるべきである。また、社会的ニーズや高等教育を取り巻く国内外の環境変化等を踏まえ、学部や研究科の組織再編を考える中で、教授会の設置単位についての見直しも推進されるべきであろう。
その前提として、学長の選考方法の見直しも重要である。見識・能力に優れ経営能力のある人材を広く学外も含め募集するほか、学内の有望な人材はまず理事に就任させてマネジメント能力を育成することなども必要である。また、国立大学については、学長のリーダーシップを確立するために学長の任期を見直す他、学長の権限と責任が一致するよう、学長選考組織や監事は、学長の業績評価を適切に行い、不適格者については、解任等の対応も検討すべきである。
他方、学長は、教職員に対して大学のビジョン実現に向けた学長としての考えや方針、取組みについて丁寧な説明を行い、彼らからの理解を得るほか、理事会・評議員会や経営協議会等の大学の経営組織と緊密に意思疎通を図り、自らの経営方針への支持を得るよう努めるべきである。
(2)情報開示の徹底と客観的指標に基づく外部評価
外部評価や情報開示を通じて、外から大学改革へのモメンタムを高めることも必要である。
2014 年度から大学の教育情報の活用・公表のための共通的な仕組みである「大学ポートレート」が本格的に実施されるが、現在の対象は教育活動に限定されている。開示される情報に、退学率や卒業率を含む教育・研究活動の結果、第三者機関や在校生による評価、国際性や地域貢献のデータ等を含めることとし、当該の大学に関心を持つ国内外の様々な人が、各大学の強みや特徴を共通のウェブサイトで比較可能なかたちで閲覧できるような仕組みにすべきである。
外部評価に関して政府は、国立大学の第三期中期目標期間(2016年度~2021年度)における運営費交付金の配分や評価方法については 2015年度までに「抜本的に見直す」としているが、その際には、教育・研究・産学連携・国際などに関する客観的な評価指標を開発し、それぞれの分野で高い評価を受けた大学に競争的に配分すべきである【グラフ1:イメージ参照】。
(3)高大接続の改善と入試改革、出口管理
①高校教育と大学教育の継続性の確保
高校教育の質保証、高大連携教育、大学入試改革などの一連の取り組みを通じて、高校と大学における教育が継続性をもって一貫したかたちで行われるようにすることが重要である。高校生を対象に大学レベルの授業を実施する「APP(Advanced Placement Program)」などを拡大することにより、高校生が大学教育に触れる機会が増えれば、高校から大学教育への移行が円滑になるとともに、高校生が将来の進路を考える上でも有効である。
②大学入試のあり方
各大学は、内外の環境変化や自らの特徴・強み、養成する人材像等を踏まえて、受験生に求める素質や能力を「アドミッション・ポリシー」で明確に示す必要がある。その上で、現在、中教審で検討されている「達成度テスト・発展レベル」(9頁、表2参照)を活用しつつ、求める学力・能力の判定という観点から入試科目を再検討するとともに、求める人材像に基づき、各大学が創意工夫をして、面接や小論文、グループ討議など、生徒の意欲・能力、高校時代の学習成果、各種の体験活動(社会貢献・ボランティア活動への参加、就業体験、海外留学等)を総合的・多面的に判断する入試を実施すべきである。また面接等では、外部人材(企業人など)の活用を図ることも考えられよう。
多様な選抜法の一つとして、世界的に認められている大学入学資格である国際バカロレア(IB)ディプロマ資格を活用する大学を増やすほか、TOEFLや実用英語検定、GTEC11、TEAP12などの英語の4技能を測る外部検定試験や職業分野の資格検定試験等の活用も積極的に推進すべきである。また、アドミッション・オフィス方式などの丁寧な入学者選抜は、手間も費用もかかるため、政府は入試改革に向けた取組みを進める大学を財政面で支援すべきである。
加えて、入試改革と合わせて、成績管理や卒業要件の厳格化など、大学の出口管理を強化し、大学教育の質保証を図ることも重要である。そのために、政府は、改革に取り組む大学の定員管理について一定の配慮を行うことが求められる。また企業も、採用においては、大学名や学部・学科のみでなく、ゼミ単位で応募者の学習内容や成績を評価するなど、大学における学習成果を評価する姿勢が望まれる。
(4)カリキュラム改革と産学連携の推進
各大学は、グローバル化社会で求められる課題探求力やコミュニケーション能力などを養成するため、教員による一方的な講義ではなく、学生の主体的な学びや能動的な学びを促す授業(アクティブ・ラーニング、課題解決型授業(PBL))を積極的に取り入れるべきである。既に幾つかの大学で産業界と協働でPBL型のカリキュラムを開発し、産業界の求める素質や能力を育む取り組みが行われている 13が、こうした取り組みを一層拡大することが望まれる。
また、一部の大学で導入が始まっている「ポートフォリオ・システム」(E-Portfolio, 学修ポートフォリオ等)も学生の主体的な学びや体験活動を推進する上で効果的である。「ポートフォリオ」は就職活動においても利用されることが期待される。
また、わが国は大学入学者に占める25歳以上の割合が諸外国と比べて極端に低い。産業構造の変化やグローバル化に対応するため、産業界と大学が連携して、社会人の学び直しのための教育カリキュラムを開発することも求められる。その際には、企業に勤めている社会人が履修しやすいような工夫・配慮も必要である。
(5)大学の国際化の更なる推進
大学の国際化については、2014年度から実施される「スーパーグローバル大学等事業」の認定や、2020年までに日本人の海外留学を倍増する官民協働の海外留学支援制度「トビタテ!JAPAN 日本代表プログラム」の開始など安倍政権による各種施策もあり、大学の取り組みは着実に進んでいるが、更に加速する必要がある。
各大学は、ジョイントディグリーやダブルディグリーなど海外大学との教育連携への取り組みを進めるとともに、海外大学との学事暦の整合性を高めるよう、秋入学や4学制など学事暦に見直しを行うことが求められる。政府は、海外大学との教育連携を進める上で必要な法制度の整備を迅速に進めるほか、公務員採用試験や国家資格試験の時期について見直しを行うべきである。