久々に沖縄の話題です。朝日新聞社説「辺野古移設-これが熱望した祖国か」(2014年5月17日)をご紹介します。
この15日に本土復帰から42年を迎えた沖縄県で、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設をめぐって、異常ともいえる事態が進行している。
名護市辺野古への移設をめざす政府が、強引に工事の準備に取りかかっているのだ。
まず動きがあったのは4月11日。政府の担当部局である沖縄防衛局が工事に先立ち、資材置き場として使う辺野古漁港の使用許可申請など6件の申請書を、名護市長宛てに提出した。
それは事前調整もなく突然のことだった。防衛局職員が持ち込んだのは市役所の閉庁間際。提出先を間違え、他の部署に置いて帰った書類もある。
文書には、根拠のない「回答期限」が一方的に設定されていたほか、記載漏れなどの不備が目立った。
名護市は再提出を求めたが、防衛局は「適正だった」と拒んだまま。期限とした5月12日は過ぎた。防衛局は許可が得られなかったものとして、計画を進めるという構えを崩さない。
市の担当者は「申請書の形式を満たしておらず、審査に入れない」と戸惑う。
普天間飛行場の辺野古移設について、安倍首相は1月に「地元の皆様のご理解をいただきながら、誠意を持って前に進めていきたい」と語った。
ところが、現状は見ての通り。誠意のかけらもない。
1月の名護市長選で移設反対を訴えて再選され、「権限を行使して着工を阻止する」と表明した稲嶺進市長に挑むような、強硬姿勢だ。
政府は6月以降、海底ボーリング調査を開始し、来春にも埋め立て工事に着手する予定だ。
しかし、国の天然記念物のジュゴンやサンゴの群落など、近海の豊かな生態系への影響や騒音など、環境や生活に大きな支障が出るという心配に、政府は納得いく説明をしていない。
「地元の理解」を得るには、まず地元の心配に正面から答えなくてはならない。
米国の映画監督オリバー・ストーンさんらが移設反対の声明を出すなど、海外の知識人や政治家の間に、沖縄への理解が広まりつつある。米国世論に移設の不当性を直接訴えたいと15日、稲嶺市長が渡米した。
同じ15日、安倍首相は集団的自衛権の行使容認の検討を表明した。それは、平和憲法の及ばない米軍占領下、沖縄が復帰を熱望した祖国の姿だろうか。
まして、反対いまだ根強い県内移設にひたすら突き進む、こわばった顔つきの国が、望んだ祖国であるはずもない。