桜美林大学大学院・大学アドミニストレーション研究科教授の山本眞一さんが書かれた「リサーチ・アドミニストレーター(URA)の可能性」(文部科学教育通信 No.338 2014・4・28)を抜粋してご紹介します。
進むURA整備事業
文部科学省のURA制度の整備事業は、2011年度から本格化した。同年度の補助事業のための公募要領(2011年7月)によると、URAとは「大学等において、研究者とともに研究活動の企画・マネジメント、研究成果活用促進を行うことにより、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化等を支える業務に従事する人材」とされている。また、URAはもっぱら研究を行う職とは別の位置づけであり、かつ単に研究に係る行政手続きを行うという意味ではないとされているところから、実際はともかくとして、理念的には教員でもなければ職員でもないということになるだろう。早稲田大学のホームページには「作家に対する編集者のような存在」と書かれてあるが、大変分かりやすい例えである。
文部科学省の補助事業の進展により、数十大学規模で補助対象校が増え、URAを育成する体制が整いつつある。また同時に、URAのスキル標準の策定や研修・教育プログラムの整備についても委託事業を通じて、その成果が上がりつつある。早稲田大学が2012年2月に実施した全国63大学に対する調査によれば、回答者93名のうち52%がURAを置く必要性を強く感じており、また実際に回答者の27%が自大学にURAが置かれていると回答している。また、URAに求められる機能として重要なものは、①大型プロジェクト創出機能、②全学的サービスインフラ(知的管理機能)等、③科研費応募アップ等の研究底上げ機能、④国際共同推進機能の順に高く、URAに必要と考えられる知識・能力・経験としては、①国などの研究資金情報の収集・分析、②学内研究活動の把握、③国の施策の把握、④申請書作成支援、⑤研究プロジェクトのマネジメントの順に高かったそうである。いずれも実態を反映した関係者の期待である。
多様なURAが登壇
さて、シンポジウム当日の様子に話題を移してみよう。シンポジウムでは四人の発表者が登壇した。第一番目は北海道大学で特任准教授を務める石井哲也氏である。同氏は、国立大学大学院を修了後、企業の研究所に勤めた後、科学技術振興機構(JST)に10年いたが、その間に3年間京大iPS細胞研究所(山中伸弥所長)で「特任准教授・研究統括室長」としてURAの役割を務めた。京大勤務開始時にもらった身分証に「フェロー」と書かれており、前例のない身分として雇用されたというエピソードも紹介した。研究所での仕事は「研究現場に密着して所長を補佐し、iPS細胞研究の中核拠点として立ち上げる」ことが同氏に課せられた任務であり、このため公的資金獲得や人事戦略などの「リソースの確保」、論点明確化、ルール策定、学外連携などを含む「研究環境の整備」、研究目標案の策定など「研究所の方向性」づくりに意を用いたそうである。URAとしての実務上のさまざま広経験談を紹介した後、同氏は「URAは単なる専門職ではなく、部局経営ビジョンにとって必達の人材でなければならない」と述べ、また文系機関のURAへのアドバイスとして、マイケル・サンデル教授(ハーバード大)のような人をどのようにプロデュースするか、社会教育にどのようにコミットするか、新興学際分野へどのように進出を図るか、国際雑誌への投稿をどのように促すか、など興味ある活動の一端を提示した。
第二番目は、東大社会科学研究所の学術支援専門職員を務める堤孝晃氏である。同氏は「研究者支援としてのURAの多様性」と題する発表を行い、URAの多様な実態を踏まえ、現在行われている単一の、あるいは標準的なURAの在り方議論を排しつつ、URAや教員など14名に対するインテンシブなインタビューを踏まえた分析結果を提示した。その中で、URAのキャリアは実態として多様なものがあるが、事務畑出身者については、組織運営に対する理解があること、研究畑出身者については、研究内容や研究者に対する理解があること、民間出身者については、社会的ニーズの把握に優れているというそれぞれの「処理能力」の特性を生かすべきだとした。また、URAは組織の支援か研究者の支援のためか、研究者としてのキャリア・パスの一環か、あるいは専門職化を目指すのか、などさまざまな判断を要するが、いずれにせよURAは大学や研究の転換点のための試金石であり、URA設置の結果として何が起こるかを複合的に検討する必要があるとした。
URAというキャリアの見通しを
第三番目は、同じく社会科学研究所の特任研究員である杉之原真子氏である。同氏は、URAとしての肩書はないものの、研究プロジェクトの運営スタッフであるという意味での広義のUAだと断りつつ、「米国の文系研究所におけるURAの役割」と題し、今年1月に米国の3大学内の6つの研究所で行ったインタビュー調査の結果に基づき話をした。インタビューを行ったそれぞれの人物は、いずれも研究所の事務スタッフのトップに当たるもので、その意味ではわが国で考えられているURAよりは地位と責任の高いスタッフである。米国ではこのような職が企業や大学で、経営陣に近い高級ポストとして捉えられてきたのに対し、URAがより実務スタッフに近い感覚で捉えられようとしているわが国の論調には、少し注意する必要があるようである。それぞれの研究所で彼らは「研究者である教員(ファカルティ)を補佐し、研究所の研究力の向上に大きな役割を果たす」役職を務めていたと、同氏は述べた。
最後に登壇したのは、東大政策ビジョン研究センター特任専門職員で、かつ大学本部リサーチ・アドミニストレーター推進室の属するURAである村上壽枝氏である。同氏は私立大学の正規職員として15年勤務し、その後桜美林大学大学院で大学アドミニストレーションの修士号を得た後、現職でURAとしての仕事をしている。いわばURAとしての典型例の一つである。同氏は、URAを巡る最近の全国的傾向を説明し、続いて現在勤務している東大内の組織における業務内容を紹介した後、研究者との緊密な連携によって成果が得られたときのやりがいを語り、若手研究者の成長過程とともに歩むURAの重要性を強調した。
URA推進の構想には、研究活動を積極的に支援することによってその活性化を図ることに加えて、博士人材の多様なキャリア・パスを構築しようとする考えも交じっている。前者を重視するなら職員の専門職化、後者を重視するなら研究者とURAとの関係が今後さらに検討されなければならないだろう。いずれにしてもURA自体のキャリアの最終見通しをどこに置くか、これの成否がURAの役割の大小、人材の質の良否に決定的な影響を及ぼすことだけは間違いあるまい。