国立大への寄付規制が緩和、無償貸与可能に 喜ぶ自治体(2008年01月09日朝日新聞)
地方自治体が国立大を誘致する際の「壁」となっていた地方財政再建促進特別措置法(地財特法)*1の寄付規制が1月、大幅に緩和された。
総務省は現行制度の運用を弾力化することによって、自治体が国立大に寄付できる範囲を広げた。同省は、自治体が国立大に施設を無償貸与することなど、今回の緩和で可能になる寄付の例をすでに自治体に通知。さらに緩和の幅を広げる政令改正の検討も始めた。
地財特法は55年、国が整備すべき施設まで自治体が造って国に寄付をしたことによって、当時の自治体財政が悪化した反省から生まれた。04年に法人化した国立大への寄付も、国に準じて禁じられている。
制定から半世紀、自治体が支出を厳選するようになった現在、規制緩和を求める声は自治体側から高まっている。02年には施行令を改正して国立大の研究開発などに限って寄付を認めた。しかし、学生の教育に使う施設については「整備するのは国立大の本来業務だ」として、無償で貸したり譲渡したりすることは禁じたままだった。
だが、07年11月、政府の地域活性化統合本部が規制緩和の必要性を提言。総務省は制度の運用による緩和に踏み切った。施設の無償貸与のほか、国立大が行う公開講座などの事業の経費負担や、ベンチャー企業などを育成する施設への国立大の入居などが可能になる。
今回の緩和を喜ぶ自治体の一つが、愛媛県南部の愛南町。04年の5町村による合併で使われなくなった旧西海町役場の元議場や車庫などを、愛媛大に無料で貸して水産研究センターを誘致しようとして、総務省に「待った」をかけられていた。
今回の緩和で無償貸与が実現する見込みだ。同町企画財政課の長田岩喜課長補佐は「学生たちが来てくれれば、過疎高齢化が進んだ町が活性化する。施設料を取ると大学が長く使ってくれるか心配だったので、緩和は大歓迎だ」と話す。
東京芸術大から2施設の使用料として年1400万円を受け取っている横浜市の担当者も「もともと無償で貸すつもりだったので、実現できるか検討を始めた」と話す。
さらに総務省は政令改正を行う検討も始めた。実現すれば、自治体から国立大への土地や建物の無償譲渡や、国立大付属病院の運営費に対する補助金支出などが可能になる。規制緩和の幅が広がることで、地域活性化の手段として国立大を誘致する動きが活発化しそうだ。
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地財特法施行令改正と運用の弾力化
上記記事にもありましたが、地財特法第24条では、地方公共団体は、原則として国立大学法人に対して「寄付金等」を支出してはならないこととされています。しかしながら、以下のような事情を背景として、平成14年11月1日付けで地財特法施行令の一部が改正されました。
- 総合科学技術会議をはじめ、経済財政諮問会議や地方分権改革推進会議など様々な場において、科学技術の振興、地域経済の活性化や地方自治体と国立大学等との連携強化の必要性が相次いで指摘されたこと。
- 構造改革特区構想においで地方公共団体の要望が多数寄せられたこと。
- 「国立大学の法人化に関する調査検討会議の最終報告」において「国立大学への地方公共団体からの寄付金等については、一定の要件のもとに可能とすべき」との提言があったこと。
平成14年の改正は、地財特法施行令第12条の3に第7号として、次のような「寄付金等の支出の制限の特例」を追加する形で行われました。
第12条の3 法第24条ただし書に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
7 国立大学法人が、地方公共団体の要請に基づき、科学技術に関する研究若しくは開発又はその成果の普及(以下この号において「研究開発等」という。)で、地域における産業の振興その他住民の福祉の増進に寄与し、かつ、当該地方公共団体の重要な施策を推進するために必要であるものを行う場合に、当該研究開発等(当該特定法人において通常行われる研究開発等と認められる部分を除く。)の実施に要する経費を当該地方公共団体が負担しようとするとき。
これにより、次の要件を満たす場合については、地方公共団体から国立大学法人への支出が可能となったのです。
1 対象事業
科学技術に関する研究若しくは開発又はその成果の普及
2 条件等
1)地方公共団体の要請に基づくこと。
2)地域における産業の振興その他住民の福祉の増進に寄与するものであること。
3)地方公共団体の重要な施策を推進するために必要であるもの。
3 負担範囲
1)研究開発等の実施に要する経費
2)通常行われる研究開発等と認められる部分を除く
このうち、上記第12条の3第7号に示された対象事業については、これまで、地域における産業振興等との関係が不明確なことや、一般に学生への教育は国立大学の本来業務である可能性が高いことから厳しく運用されてきましたが、このたびの弾力化により、「地域における産業の振興や住民福祉の増進に寄与する特定の人材育成のために、新たに行われる部分や拡充される部分については原則対象」とされました。
具体的には、次のような事例が対象になりました。
- 地域のものづくり振興の観点から、そのために必要な人材を育成するための講座や課程に必要な施設の無償貸与(通常より廉価での貸与を含む。以下同じ)
- 地域の農林水産業振興の観点から、そのために必要な人材を育成するための遊休施設の無償貸与
- 地域の食品産業の振興の観点から、地方公共団体が要請した研究開発等とともにその成果を学生に教育する経費を含む寄付講座への支出
また、次の事例についても原則として寄付金等の支出が可能となりました。
- 国立大学法人が行う地域の活性化につながる研究開発等の経費負担や当該研究開発等の用に供される研究施設に対する土地、建物等の無償貸与(「経費負担」の場合も想定される。)
- 国立大学法人と公立大学が連携して実施される研究開発等に対する経費負担や土地・建物等の無償貸与
- 地域における産学官連携の推進や住民の福祉の向上を図るため設置される国立大学法人へのサテライトオフィス、社会人等を対象とするサテライト教室等に係る経費負担や土地、建物等の無償貸与
- 地方公共団体の施設を活用した産学連携型のインキュベーション施設への国立大学法人の入居への無償貸与
- 地域における産学官連携の推進や住民の福祉の向上を図るため実施される公開講座等各種事業に係る経費負担や建物等の無償貸与
- 科学技術の理解増進を図るための各種イベントの開催、展示施設整備等のための経費負担や土地、建物等の無償貸与
これまで認められた(総務大臣の同意がなされた)事例は、50件に上っており、寄付内容、金額は、総務省のホームページで紹介されています。
http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/pdf/nuc_kifu.pdf
総務省では、今後、1)土地・建物の無償譲渡や、2)大学附属病院への施設整備・運営費補助等についても、地方団体関係者等の意見を伺いつつ必要な政令改正等を検討することとしているようです。
地方自治体の財政状況の悪化も懸念される今日ですが、国立大学法人についても、運営費交付金の効率化減や総人件費改革による減など骨太方針によりさらなる運営費の減が政府として決定されており、今後、特に地方に位置する大学は、民間企業との連携のみならず、地域に根ざす地域の知の拠点として、自治体との強力な連携関係の下に教育研究、そして社会貢献活動を維持・発展していかなければならない状況に置かれています。
国立大学の法人化そのものが、ある意味では規制緩和の側面を持つわけですが、国立大学に関わる様々な規制緩和や制度運用の弾力化の推進が、今後、国立大学における財政基盤の強化を図ると同時に、名実共に自主的・自律的な経営改革を進めていく一つの促進剤として重要な意味を持つことになるのかもしれません。
*1:地方公共団体の財政再建の促進、財政の健全性確保のための特別措置を規定する日本の法律。赤字の地方公共団体が、財政再建計画の承認を受けることで財政再建団体として財政の再建を目指す場合に用いられる。地方公共団体の倒産法ともいえる。特別措置法であり、昭和29年ないしは昭和30年における地方自治体の財政の再建のために制定された法律であるが、昭和30年以降も同様の旨を準用し適用することが可能とされているために平成に入ってからも適用を受ける団体が存在する。(出典:ウィキペディア)