新年のあいさつ(高等教育局長)
わが国の成長、発展にとって、大学・大学院の改革は喫緊の課題であり、今年度は次の3つを重点に取り組んで行く。
- 学位の水準の維持・向上に向けた枠組み作りを通じて、学士課程教育の構築を図る。学士号が保証する能力、すなわち「学習成果」を明確化し、それを保証していく。既に欧米諸国でも様々な取り組みが行われており、去る1月11、12日に東京で開催されたOECD非公式教育大臣会合においても高等教育による学習成果の評価やその国際比較が議題としてとりあげられたところ。
- 大学院教育の実質化を図るとともに、世界的な教育研究の拠点やグローバル化に対応した教育研究の推進を図る観点から、外国の優れた大学院との共同学位の授与プログラムなどの戦略的な推進を図る。
- 少子化等の中で、地方の、特に私立大学等がおかれている小規模化、経営困難等の厳しい状況を踏まえ、限られた資源の最大限の活用を図るため、大学院や学部、研究所での活動の共同・連携を思い切って促進する。
1 中央教育審議会教育振興基本計画特別部会について
昨年12月27日に中央教育審議会教育振興基本計画特別部会(第11回)が開催された。
この会合では、昨年11月から12月にかけて行われた同特別部会における審議の状況に関する公聴(地方公聴会、関係団体ヒアリング、国民からの意見募集)において寄せられた意見の概要が報告された。
また、教育振興基本計画の策定に向けて今後検討が必要な「施策の総合的かつ計画的な推進のために必要な事項について(案)」について検討を行い、教育に対する公財政支出の充実や地方公共団体の役割、進捗状況の点検等について意見交換が行われた。
今回の部会の中で、委員からは、高等教育財政を充実すべき、施策の重点化や数値目標の設定が重要である等の意見が出された。
教育振興基本計画特別部会では、今後、答申案に関する具体的な検討を進めていくこととなっている。
2 留学生ワーキング・グループの発足について
平成19年10月29日に開催された中央教育審議会大学分科会の制度・教育部会において、留学生政策について集中的な議論を行うための「留学生ワーキング・グループ」が設置され、12月25日に第1回が開催された。
中教審で留学生政策について集中的に議論するのは、平成14年から15年にかけて設置された留学生部会以来のこと。
当該留学生部会を中心に取りまとめられた、平成15年の中教審答申「新たな留学生政策の展開について」では、留学生受入10万人計画の達成を受け、「今後5年程度を目途に」早期に実現すべき施策について取りまとめたもので、平成20年度がその5年度目となるため、答申に掲げられた施策についてフォローアップをし、各施策の実施状況を確認するとともに、今後の施策の在り方に反映させる必要が出ている。
また、最近では、アニメ、マンガなどの日本のポップカルチャーへの関心の高まりが日本への留学の動機の一つとなっていることなど、留学生交流の状況は変わりつつあり、昨年5月に発表された「アジア・ゲートウェイ構想」では、日本文化の魅力を活かした留学生獲得といった新たな留学生交流を提唱している。
このように急速に変化する留学生交流の状況に合わせて、平成15年の答申を基にしつつ議論を行い、平成21年度以降の留学生政策に反映させる必要があることが、今回の留学生WG設置の理由として挙げられる。
主な検討事項として、
- 外交戦略に対応した柔軟な留学生受入れの展開、学種や学問分野の特性に着目した留学生受入れなど新たな留学生交流の意義・形態等に着目した留学生交流の在り方
- ダブル・ディグリーや国際コンソーシアムなど大学の人材獲得インセンティブがより発揮されるような各大学の国際戦略に基づく受入から卒業後の一貫した留学生交流の在り方
- 宿舎やカウンセリングなど生活者の側面での留学生支援の在り方
- 世界で活躍できる日本人を育てるため、短期留学プログラムや博士課程学生の派遣などを含め、日本人の海外留学機会の拡大
また、昨年、アジア・ゲートウェイ戦略会議や教育再生会議で話題となった我が国の留学生数の将来予測についても議論がなされる見込み。
留学生WG今後、毎月1回のペースで開催され、概ね1年間に渡って議論を重ねて、年末を目途に報告書を出す予定にしている。会議資料等留学生WGに関することは文部科学省のホームページでも掲載し公表することとしている。
総合科学技術会議「大学・大学院改革の研究システム改革」について
平成19年11月28日に第71回総合科学技術会議において、「大学・大学院の研究システム改革」が提言された。
これは、「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定)をふまえ、学術研究の国際競争力を高めるために提言されたもの。
- 研究人材育成の改革としては、人材の国際的好循環を構築するために、我が国の研究人材の海外での活躍の場を拡大するとともに、優れた外国人研究者及び外国人留学生を日本に積極的に受け入れのさらなら拡大を同時に進めること
- 大学院教育においては、入口管理と出口管理を徹底し、博士の質の国際的通用性を向上させることにより、多様なキャリアパスを開いて、博士及びポスドクの社会的好循環を構築すること
- 国際的に魅力ある研究環境基盤の整備として、柔軟な編成等により大学内の研究・組織マネジメントの体制を整備すること、若手研究者の自立的環境の整備を図ること、中・大型研究設備の整備方策を検討すること、電子ジャーナル等の学術情報基盤整備をすること、大学横断的な研究支援者養成システムを構築すること
- 研究の進展に応じたシームレスな支援、ハイリスク研究の推進、間接経費30%の確実な措置等、競争的資金の拡充と効率的な配分を図るとともに、寄附を促進するためのインセンティブシステム構築の検討と、地方公共団体から国立大学への寄附の範囲の明確化、手続の簡素化等を行うことによって、財政面での自助努力の推進を図ること
政策担当者の目(大臣官房審議官(高等教育局担当)
先週11日(金)と12日(土)に、東京お台場にて、渡海文部科学大臣が議長を務められて、OECD非公式教育大臣会合が開催された。
本会合には、19カ国及びECが参加し、高等教育の学習成果の評価について活発な議論がなされた。
我が国をはじめ各国の問題意識は、高等教育は、社会経済の発展の原動力として重要性は増大しているが、社会の期待に応えているかとの点。
会合では、高等教育に対する社会の期待は多様であるとともに、期待自体を測ることも難しい面もあり、成果の評価のためには多くの課題があるが、適切に評価を行うことは、高等教育の質の向上を図る上で極めて重要であるとの観点に立って、議論された。
議論のまとめとしては、各国における評価の改善に資するため、高等教育の学習成果の国際的な評価に関する検討の可能性調査研究の具体化を図ることとなったが、国毎の差異や多様な側面を有する点などに十分留意するとともに、次段階については調査研究の結果を踏まえて行われることになった。
議長サマリーを取りまとめられた大臣は、記者会見において、グローバリゼーションが進展する中、教育研究活動は国内にとどまることなく、ボーダーレスに展開しており、高等教育の評価について、国際的な取り組みが行われる中で考えていくことは重要である旨所感を述べられ、我が国として調査研究に参加の方向で検討していきたいと表明された。
なお、調査研究について、OECDでは、学生に対する試行的なテストと言う形で実施する予定とのこと。
また、OECDから、本調査研究は、“高等教育版PISA”と呼ばれることもあるが、PISA*1とは異なるものであり、個々の大学が教育における自らの強みや課題を把握することが目的である旨説明があった。
今回会合に参加した各国の共通認識は、研究成果の評価に比べ、学習成果の評価は難しいが、学生を教育することは基本であり、一層の改善に向け積極的に取り組むべきとの考えだった。
中教審において学習成果の国際的通用性確保や質の向上に関する提言がなされ、今後、教育力強化を目指し抜本的な改革が必要な我が国にとって、本会合は、参考となる意見が多く出され、非常に有意義なものだった。