2月も残すところ1週間となり、今やまさに、入試や就職を通じて人生の転機を迎えておられる方が多いのではないかと思うのですが、なかには残念ながらこれまでの努力が報われず、目標を達成することができなかった挫折感から苦悩に満ちた時間を過ごされる方もいらっしゃるのではないかと思います。
気持ちの整理はなかなか難しいものですが、こういう時こそ、目標達成に向けて、どれだけ時間がかかろうとも、目標を達成するまで少しづつでも前進し続けようと自分に言い聞かせ、ひたむきに目標を追い求める姿勢を崩さないようにすることが、成功を自分に引き寄せることにつながっていくのではないかと思います。
政府の教育再生会議担当の内閣総理大臣補佐官をされた参院議員の山谷えり子さんのエッセーをご紹介します。ご自身の経験を踏まえ、人間の無限の可能性について触れられています。
生き方見つめる教育を(2009年2月18日 産経新聞)
「20代前さかのぼると100万人のご先祖さまがおられる。応援団やで」「街の人とは仲良う。洋服も一つの店だけで買うたらあかん。趣味の合わない店では、靴下を買うたらええ。まんべんのう付き合うんや。人も店も、どっかいいとこあるもんや。お互いさまの心やで」
このところ、不況や苦しみのニュースを見るたびに、88歳で亡くなった母方の祖母の声がなぜか聞こえてくる。7人の子を産み、福井県の鯖江市の商店街で、86歳まで働いていた陽気な祖母だった。晩年は、骨粗鬆(こつそしょう)症が進んだが、私が訪ねれば、不自由な手で季節の果物をむいて待っている姿は、いくつになっても“人に与える”人生を生きているかに見えた。
“受けるより、与えるほうが幸せ”“己立たんと欲して人を立て”“忘己利他”・・・キリストも孔子も最澄も、喜びをもって人間らしく生きる生き方として、与える心や努める心をそれぞれ説いてこられた。
経済至上主義、安易な結果平等主義で、人と人が結ばれ合う心や、修養する心は、ともすれば脇に追いやられてきた。しかし、こういう困難を抱える時代だからこそ、むしろ人間としての生き方を見つめる教育の原点に立ち返ることができると考えている。
1月19日に閣議決定された「経済財政の中長期方針と10年展望」には“すべての子供に知・徳・体バランスのとれた、自立して社会で生きていく基礎を育てる”と徳育を重要政策としていくことが書き込まれた。道徳と自立の教育は、この先10年の教育の中心指針である。
また現在国会で審議中の平成21年度予算案には、教育基本法改正に基づいて伝統と文化を尊重し、豊かな情操と道徳心を培うことや、家庭教育、幼児教育、職業教育支援などが盛り込まれている。ゆとり教育の見直しと教材の充実▽道徳教材の国庫補助制度の創設▽子供農山漁村交流プロジェクト▽全国2万3000校すべての公立小学校での放課後子供プランの実現▽中学校武道の男女必修化に向けた条件整備費▽食育推進など、教育再生実現に向け、思いきった財政支援体制がとられている。
人生はむしろままならぬことだらけである。そんな中で自尊の心をもって前進するエネルギーは周囲の知恵にみちた愛の言葉や教育の力にあると信じている。
私の中学時代、父が失業し、借金を返そうと、母が内職をしすぎて失明したことがあった。しばらくして母の眼は見えるようになったものの、薬害で体調はすぐれぬまま。そんな時、父は母に「人生80年というよ。あと40年泣いているの?」と励まし、勉強をすすめた。苦しみの中で、母は40歳を過ぎて猛然と勉強してカウンセラーの資格をとって働きはじめ、80歳の今日も、働き続けている。
人間は自分が思っている以上に、可能性に満ちているのではないだろうか。苦しみの中にあればこそ、教育と周囲の応援が一層の光と力となることを、私は母の後姿から学んだ。
山谷えり子さんプロフィール等
http://www.yamatani-eriko.com/