大学が有する人的、知的資源の交流を大学同士が自主的・主体的に連携し進めていくことは、相互の教育、研究、社会貢献活動、引いては我が国の高等教育、さらには国際競争力の強化に大きく寄与することになるでしょう。今日は、「IDE・現代の高等教育」(No508 2009年2-3月号)の特集「大学間連携」の中から、文部科学省高等教育局大学振興課が作成した「資料 大学間連携の歩み」を要約し、最近の大学間連携に関する動向について見てみることにしましょう。
1 大学間連携の経緯
大学間連携*1の取組は、それ自体新しいものではないが、昨今各大学において自発的かつ活発にその取組が進められている。
昭和46年
中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策についての答申」において、「高等教育機関の間で連携組織を作り、履修単位の相互承認を行うようにすることが必要である。」と提言。
昭和47年
提言を踏まえ、大学間の連携と交流や留学の促進を目指し、大学設置基準の一部改正が行われ、「単位互換制度」が導入。学生が国内の他の大学または国外の他の大学において授業を受け、単位を修得したものについて、当該学生が所属する大学が、30単位分まで当該学修成果を自らの大学の単位とみなしで単位認定できることとなった。
昭和49年
大学院設置基準の一部改正が行われ、いわゆる「連携大学院」の仕組みができ、教育上有益と認められる時は、博士課程の学生が他の大学院または研究所等において必要な研究指導を受けることを認めることができることとなった。
昭和57年
大学設置基準及び短期大学設置基準の一部改正が行われ、単位互換制度の拡大が行われた。具体的には、既存の単位互換制度が大学間における仕組みであったが、この制度改正により、大学が、教育上有益と認める時は、当該大学の学生が短期大学において授業を受け、単位を修得したものについて、30単位分まで当該学修成果を自らの大学の単位とみなして単位認定できるようにした。また、この制度改正以前は、短期大学においては単位互換の制度がなかったが、この時の制度改正により、短期大学間においても単位互換ができるようになるとともに、大学における学修成果について、短期大学の単位に換算できることとなった。
昭和61年
臨時教育審議会第二次答申において、高等教育機関の多様化と連携の一環として、「単位累積加算制度の導入を検討し、専修学校、教育訓練機関等一部の学校について、大学との単位互換、累積加算制度への参加の道を開くとともに、学位授与機関の創設について検討する。」と提言。提言を踏まえ、大学以外に学位授与ができる機関として、平成3年に国立学校設置法及び学校教育法の一部が改正され、「学位授与機構」が創設。
昭和63年
国立学校設置法施行規則の一部改正を行い、それまで実態上の仕組みであった「連合大学院制度」が、法令上、制度化。複数の大学が協力して教育研究を行う研究科を置くことができることとなり、当該研究科の教員は教育研究上支障を生じない場合は、当該研究科における教育研究を協力して実施する大学の教員が兼ねることができることとなった。また、国立学校設置法の一部が改正され、先導的分野の開拓や共同研究の推進の中心的役割を課している国立大学共同利用機関の優れた研究機能を活用して大学院教育を行うため、総合研究大学院大学が設置。
平成元年
大学院設置基準の一部改正が行われ、いわゆる連携大学院制度の拡大が行われた。これにより、それまで博士課程の学生に限られていた連携大学院制度について、教育研究の充実・多様化に資するため、大学が、教育上有益と認める時には、博士課程に限らず修士課程の学生に対しても、他の大学院または研究所等において必要な研究指導を受けることを認めることができることとなった。
平成10年
大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」において、「単位互換及び大学以外の教育施設等における学修について単位認定できる単位数の上限については、現在の入学前と入学後それぞれについて30単位とされている取扱いを改め、今後は、入学前、入学後に関わらず合わせて60単位に拡大するよう大学設置基準を改正することが必要である。また、大学以外の教育施設等における学修を自大学の単位として見なしうる範囲をより拡大することが必要である。」と提言。
平成11年
大学審議会答申の提言を踏まえ、大学設置基準、大学院設置基準及び短期大学設置基準の一部改正が行われ、学生の主体的学習意欲及びその学修成果を積極的に評価し、学生の選択の幅を広げ、大学間のより一層の連携・交流を促す観点から、単位互換制度の更なる拡大が行われた。具体的には、大学が、当該大学の学生が行う他の大学または短期大学における履修及び大学以外の教育施設等における学修について単位認定できる単位数の上限について、入学前と入学後それぞれについて30単位を超えない範囲内とされていた従来の取扱いを改め、入学前または入学後に関わらず、あわせて60単位を超えない範囲内とした。なお、同様の改正が、大学院(10単位を超えない範囲内)及び短期大学、(15単位を超えない範囲内/修業年限が3年の短期大学にあっては、23単位を超えない範囲内)においても行われることとなった。
平成13年
大学設置基準の一部改正が行われ、大学等が、当該大学等に所属する学生が外国の大学または短期大学が行う通信教育による授業をわが国において履修することにより修得した単位を、60単位を上限に当該大学において修得したものと見なすことができることとなった。
平成15年
国立大学の法人化の動向に伴い、それまで国立学校設置法施行規則において規定されていた「連合大学院」の仕組みについて、国公私にまたがる仕組みとして制度改正。具体的には、大学院設置基準の一部が改正され、複数の大学が協力して教育研究を行う研究科を置くことができることとし、当該研究科の教員は、教育研究上支障が生じない場合は、当該研究科における教育研究を協力して実施する大学の教員が兼ねることができることとなった。
平成16年
学校教育法施行規則等の一部改正が行われ、学習機会の国際化及び我が国の大学の国際展開の観点から、いわゆる外国大学日本校のうち当該外国の学校教育制度において当該外国大学の一部と位置づけられるものについて、外国大学に準じて取り扱うこととなった。この制度改正によって、大学が、当該大学に所属する学生が海外大学日本校で文部科学大臣が別に指定するものとの間で行う単位互換について、同改正以前にはできなかったものが可能となるようになった。
平成17年
学校教育法施行規則等の一部改正が行われ、大学が、当該大学に所属する学生が外国の大学または短期大学の教育課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置づけられた教育施設であって、文部科学大臣が別に指定するもの(例:海外の大学等の日本校)の当該教育課程における授業科目をわが国において履修し修得した単位についても、教育上有益と認める場合は、当該大学の定めるところにより、60単位を超えない範囲で当該大学における授業科目の履修により修得したものと見なすことができることとなった。
2 大学間連携の課題と対応等
以上のように、これまでの大学間連携については、
- 連合大学院制度や単位互換制度等のように大学間連携を行っても、最終的には1つの大学名での学位授与となることから、大学間連携の一層の進展のためには、制度面の対応として、各大学が対等な立場で連携し、責任の所在が明らかになるような組織体制や学位授与の仕組みが必要となっていたこと
- 既存の大学間連携や大学コンソーシアムの場合、財政的な基盤の脆弱さがあり、その機能が限定的であったり、必ずしも各大学の教育研究資源の有効活用が十分とは言えない状況であったことから、予算面での対応として、大学間が連携する取組を支援し、有機的な大学間連携を推進する必要があったこと などの課題があった。
平成17年
中央教育審議会答申「わが国の高等教育の将来像」において、「地方における高等教育の支援や地方振興に資するため、高等教育機関相互のコンソーシアム(共同事業体)形成支援や高等教育機関を核とした知的クラスターの形成支援を充実することも重要」であることについて提言されるとともに、「設置形態の枠組みを超えた高等教育機関間の連携協力による教育・研究・社会貢献機能の充実・強化を一層促進する必要がある」ことが提言。
平成19年6月
教育再生会議第二次報告「社会総がかりで教育再生を」において、「地域の人材育成や地域経済の活性化のため、国公私を通じた地方における大学地域コンソーシアム(特定の事業を目的として、大学間または複数の大学と地域等で構成される連携組織)を形成することを支援する」ことについて提言されるとともに、「国公私を通じ複数の大学が大学院研究科等を共同設置できる仕組みを創設する」ことが提言。また、「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月閣議決定)において、「国公私を通じた地方における大学地域コンソーシアムの形成を支援するための措置を平成20年度から講ずる」ことについて提言されるとともに、「国公私を通じ、複数の大学が大学院研究科等を共同で設置できる仕組みを平成20年度中に創設することを目指す」ことが提言。
中央教育審議会答申等におけるこうした提言を踏まえ、文部科学省では、以下のような制度面での対応と予算面での対応を行っている。
- 制度面の対応として、文部科学省では、平成20年11月に大学設置基準等の一部を改正し、複数の大学がそれぞれ優位な教育研究資源を結集して共同で1つの共同教育課程を実施し、魅力ある教育研究・人材育成を実現する大学間連携の仕組みを整備。これは、経済・社会のグローバル化の中、大学が「知の拠点」として各地域の活性化への貢献とともに、国際的な大学間競争の中で新たな学際的・先端的領域への先導的な対応ができるように促すことを目指したもの。
- 予算面の対応として、平成20年度予算において、新規事業として「戦略的大学連携支援事業」(30億円)を立ち上げ、全国の各地域において多様で特色ある大学間の戦略的な連携の取組を促進。この事業は、平成20年度において54件採択(94件申請)し、今後3年間継続して支援。これにより、複数の大学の連携・協同による教育の質保証や大学と地域が一体となった人材養成等を通じて、各大学の個性化や機能別分化を推進。また、本事業は、平成21年度政府予算案において、「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」に名称を変更し、30億円増の60億円を計上。
さらに、大学の任意の大学間連携の動きとして、複数の大学間の連合体組織である「大学コンソーシアム」が形成されつつあり、平成20年7月現在で全国に40団体が存在。そのうち、2団体(社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩及び財団法人大学コンソーシアム京都)については、法人化されている。コンソーシアムの具体的な活動内容は、その規模や趣旨等に応じて様々であるが、例えば、コンソーシアムを構成している大学間での単位互換、教員・学生問交流、インターンシップの共同実施、FD・SDの共同実施、共同で地域社会への生涯学習プログラムの提供、高校生等に対するオープンカレッジの共同実施又はeラーニング等の取組が行われている。
*1:「大学間連携」は多義的ですが、ここでは、単位互換や連合大学院などのように「複数の大学間等が協力して教育研究活動を行う取組」として整理されています。