2009年2月5日木曜日

国立大学の組織等の見直しに関する視点

国立大学法人の第1期中期目標期間の終了(平成21年度)を間近に控え、文部科学省が、国立大学法人法第35条において準用する独立行政法人通則法第35条*1に基づく国立大学法人の組織及び業務の全般にわたる見直しに関する検討を開始したことは、既にこの日記「国立大学の組織等の見直し議論がスタート」においてご紹介しました。

本日、文部科学省から、国立大学法人評価委員会における専門的観点からの議論を踏まえた「見直しの視点」なるものが、各法人あて通知されましたので、その内容をご紹介したいと思います。

この通知、よく眺めてみますと、これまでの年度評価、中期評価における評価の視点や、これらの評価を通じて文部科学省が第2期に力を入れたい内容で構成されているような気がします。

中期目標期間の評価結果については、既に各法人への資源(運営費交付金)配分に反映させることが決まっていますが、未だ詳細は公表されていません。今回の評価結果に基づく組織等の見直しが、各法人の業務運営にどのように反映されることになるのかについても今後の文部科学省における検討状況を注視しておく必要があります。今後文部科学省では、この「視点」を踏まえた組織や業務等の見直しの内容を作成し、本年6月を目途に各法人に示す予定のようです。


国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点

文部科学大臣が第1期中期目標期間終了時に行う組織・業務全般の見直しに盛り込むことが必要と考えられる内容のうち、主として現在各国立大学法人が行っている第2期中期目標・中期計画の素案の検討に資するものとしては、以下の視点を挙げることができるのではないか。

1 見直しの基本的な方向性
  • 国立大学は、第1期中期目標期間において、我が国の学術研究と研究者養成の中核を担うとともに、全国的に均衡のとれた配置により、地域の教育、文化、産業の基盤を支え、学生の経済状況に左右されない進学機会を提供するなど、重要な役割を果たしてきた。第2期中期目標期間においては、さらにこの役割を十分に果たしていくとともに、第1期において必ずしも国民の期待に応えられていない点は改善していく観点から、第2期中期目標期間を迎えるこの機会にしっかりと組織及び業務を見直すことが必要である。

  • その際、個々の国立大学法人を見ると、規模、特性、状況等は千差万別であり、国民が各法人に期待する役割等も同じではないことから、第2期中期目標期間は、大学の機能別分化を進めるため、各法人の目指す方向性が明らかになるよう、各法人の特性を踏まえた一層の個性化が明確となる中期目標・中期計画とすることが必要である。

  • また、世界の様々な状況が大きく変わる中、国立大学法人をとりまく状況も変化し、新たな課題が生じている。このような課題にも留意した中期目標・中期計画とすることが必要である。

  • さらに、我が国の人口が初めて減少局面を迎え、各種の社会システムの見直しが求められ、中央教育審議会において我が国の大学全体の量的規模の在り方について検討が行われている。また、地方分権についての議論や独立行政法人の見直しも進められている。国立大学法人の組織及び業務全般の見直しが全体として、このような状況を踏まえたものとすることが求められる。

2 組織の見直しに関する視点
  • 大学院の博士(後期)課程においては、法人のミッションに照らした役割や国立大学の機能別分化の促進の観点、又は学生収容定員の未充足状況の観点等を総合的に勘案しつつ、大学院教育の質の維持・確保の観点から、入学定員や組織等の見直しが必要ではないか。

  • 法科大学院においては、入学者選抜における競争性の確保が困難で、修了者の多くが司法試験に合格していない状況がみられる場合等は、法科大学院教育の質の向上の観点から、入学定員や組織等の見直しが必要ではないか。

  • 教員養成系学部においては、教員採用数の動向等も踏まえ、入学定員や組織等の見直しが必要ではないか。

  • その他の学部・研究科等においても、当該分野に係る人材の需給見通し等を勘案しつつ、必要に応じ、入学定員や組織等の見直しが必要ではないか。

  • 附置研究所においては、大学評価・学位授与機構の現況分析の結果等を踏まえ、当該研究所の設置目的や特色ある研究の達成、COE性の発揮に加えて、共同利用・共同研究機能の向上等の観点を総合的に勘案しつつ、研究の質の向上に向けた研究体制等の見直しが必要ではないか。

  • 分野を融合した学際的な学部・研究科等の組織に関しては、当該組織の理念が達成されているか、社会の要請や時代の変化に対応した教育研究が行われているか等の検証を行い、各法人の実態に応じ、組織等の見直しが必要ではないか。

  • 学内の様々な体制整備に際しては、必要に応じ、既存の組織の見直しも併せて進め、責任ある教育研究体制の維持・形成に努めるべきではないか。

3 業務全般の見直しに関する視点

(1)教育研究等の質の向上
  • 教育研究の内容に関しては、各法人が大学評価・学位授与機構による教育研究組織ごとの現況分析等の結果を十分踏まえ、自主的に見直しを行うことが必要ではないか。

  • 教養教育について、その内容や実施体制を含めた改善の観点が必要ではないか。

  • 国立大学法人等の公的な役割に鑑み、各地域における知の拠点として、社会貢献や地域貢献を一層果たしていく観点が必要ではないか。

  • 高等教育のグローバル化を受け、国際化を一層推進する観点が必要ではないか。

  • 教育研究資源を有効活用し、質の高い教育研究を行う観点から、教育課程の共同実施を図ることが必要ではないか。

  • 教員の採用や配置に当たり、女性、外国人、若手等の比率を考慮した教員構成を多様化することや、女性等の能力の一層の活用に努めることが必要ではないか。

  • 経済的に困窮している学生等に対する支援の充実や、雇用情勢への対応を含めた就職支援の取組など学生支援機能の強化を行う必要があるのではないか。

  • 附属病院は、社会の要請に応えられる優れた医療人を養成する教育研究機関であるとの基本的認識を踏まえつつ、卒前教育と卒後教育の一体的な魅力ある教育プログラムの構築や地域との連携を推進すること等により、特色ある病院運営の強化を図ることが必要ではないか。

  • 附属学校は、学部・研究科等における教育に関する研究に組織的に協力することや、教育実習の実施への協力を行う等を通じて、附属学校の本来の設置趣旨に基づいた活動を推進することにより、その存在意義を明確にしていくことが必要ではないか。

  • 全国共同利用機能を持つ附置研究所は、大学評価・学位授与機構の現況分析の結果等を踏まえて、共同利用・共同研究機能の向上に向けて業務を見直すことが必要ではないか。

(2)業務運営の改善及び効率化、財務内容の改善、その他業務運営
  • 法人本部が各部局等を含めた法人全体をマネジメントできるような仕組みとするよう、法人内部のガバナンスの在り方を検討することが必要ではないか。

  • 法人の特性を踏まえつつ、学長等の裁量による経費や人員等の配分など、学長のリーダーシップが図れる取組みを進めることが必要ではないか。

  • 法人の運営改善に資するよう、経営協議会の運用の工夫改善等により、学外者の意見の一層の活用を図ることが必要ではないか。

  • 監事監査や内部監査等の監査結果を運営改善に反映するサイクルの構築を図ることが必要ではないか。

  • 外部資金の獲得や多様な資金調達による自己収入の増加、管理的経費の一層の抑制等、財務に関する各法人のさらなる努力が必要ではないか。

  • 資産を有効活用するため、農場、演習林、船舶等について、他の大学等との共同利用の推進を図ることが必要ではないか。

  • 効率的な法人運営を行うため、他の大学との事務の共同実施の推進や、アウトソーシングの推進を図ることが必要ではないか。

  • 既存施設の有効活用、施設の計画的な維持管理の着実な実施等の施設マネジメントの一層の推進を図ることが必要ではないか。

  • 国立大学法人には多額の公的な資金が投入されていること、成果等が社会に還元されるべきものであることを十分認識し、各法人の実情や果たしている機能等を国民に分かりやすい形で示すように情報提供することが必要ではないか。

  • 経営協議会は審議すべき事項が法定されていることから、報告事項として扱うことのないようにする等、法令遵守(コンプライアンス)体制を確保する観点が必要ではないか。

*1:第35条:主務大臣(※文部科学大臣)は、独立行政法人(※国立大学法人)の中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人(※国立大学法人)の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、所要の措置を講ずるものとする。