私立大学などを運営する学校法人のガバナンス(統治)改革の骨格がまとまった。肝心なのはその実践だ。私大への信頼を取り戻すことができるか否かは、関係者のこれからの取り組みにかかっている。
政府は今国会に私立学校法改正案の提出をめざす考えだ。その元となる報告書を、有識者でつくる文部科学省の特別委員会が先ごろ公表した。
相次ぐ私大の不祥事の背景には、業務を執行する理事長に権限が集中するなどのシステム不全があるとして、学内の機関が互いに牽制(けんせい)しあう必要性を訴える内容だ。具体的には▽理事会をチェックする評議員会の機能強化▽理事と評議員の兼職禁止▽監査体制の充実▽理事らに対する贈収賄罪や特別背任罪の新設――などを提唱している。
社会福祉法人の統治制度を参考にしたものだ。ただし、学問の自由の保障や建学の精神といった私大特有の事情に配慮して、具体的な設計を大学側の判断にゆだねた部分も多い。各学校法人はその趣旨を理解し、今後、理事・評議員のあり方や選出方法を検討して、社会の評価を仰ぐ必要がある。
ここに至るまでには曲折があった。文科省が昨夏に設けた有識者会議は、評議員会を学外者だけでつくる組織に衣替えし、経営上の重要事項の決定権を与える考えを示した。
ところが、現場の実態を踏まえぬ教育や研究を押しつけられる恐れがあるなどとして、私学側が反発。新たな議論の場として特別委が急きょ設置され、評議員会の権限を絞り込むことなどで合意にこぎつけた。
混迷に区切りがついたのは歓迎すべきだが、今後も逸脱が見られるようでは、厳しい規制案が再浮上することにもなりかねない。関係者は危機感をもち、自らを律してもらいたい。
折しも前理事長らの脱税事件で揺れる日本大学が、きょう文科省に再発防止策を提出する。
有識者らによる「日大再生会議」の先月末の答申には、理事や評議員の3分の1程度以上を学外者とするなど、法改正を先取りした改革案が盛りこまれた。多岐にわたる提言が実行されるか、同会議としてモニタリングを続けるという。
「うちは日大とは違う」との考えは当たらない。補助金や税の優遇措置などを受けながら問題が絶えない私大全体に、厳しい視線が向けられていることを忘れてはならない。
文科省の特別委の報告書は、「現状において問題がないとしても」と前置きしたうえで、ガバナンス改革の必要を説いた。待ったなしの課題であることを肝に銘じるべきだ。