2009年6月9日火曜日

平成22年度予算に係る財政審の建議

毎年のことではありますが、衣替えの時期になると、次年度予算の獲得拡大に向けた財務省VS各府省のつばぜり合いが始まります。今年も概算要求シーリングを有利に確保するためのいわゆる夏の陣が始まっています。

昨年、理論・データの両面において、くしくも財務省に勝ることができなかった文部科学省は、この1年、来るべき財務省との闘いに備え、準備に余念がなかったのではないかと思います。

今年は、経済財政諮問会議だけでなく、「教育再生懇談会」や「安心社会実現会議」における文部科学省が示した資料を拝見すると、「教育経費負担の軽減」問題を前面に据え、豊富なバックデータを用意し、国民や世論に訴える努力を惜しみなく発揮しているように思えます。

一方、財務省も相変わらずしたたかで、去る6月3日に取りまとめた財政制度等審議会による建議「平成22年度予算編成の基本的考え方について」においては、昨年度より精度の高いデータを裏付けとして、より高度な理論(というより持論)を展開しているようです。

しかもこの建議では、高等教育関係の記述が、昨年度まではお決まりパターンであった「文教予算(高等教育予算)」「科学技術予算」という構成から一変し、「大学予算」という独立した括りを設けた上で、大幅な紙面拡大を図っており、国民の興味関心を意識した独自の視点に基づいた「大学予算を減らすこと」のみに集中した持論が展開されています。


「歳出引き締め」後退、再建は消費増税頼み 財政審(2009年6月4日 朝日新聞)

財務相の諮問機関の財政制度等審議会(財政審)は3日、10年度予算編成に向けた意見書を公表した。経済危機を受け、これまでの「引き締め路線」の軌道修正が目立つ。政府の経済財政諮問会議が着手した財政再建の新目標づくりも増税が前提。高齢化や格差拡大で社会保障費の抑制は難しくなり、将来の消費税アップは避けられないとの思いがちらついている。大学予算については、国立大学法人に、横並び意識を捨てて研究や教育成果を評価した上で予算の配分を決める「成果主義」を強化することを促した。・・・
http://www.asahi.com/politics/update/0604/TKY200906030428.html

国立大学に「埋蔵金」3000億円 07年度段階(2009年6月6日 朝日新聞)

全国に90ある国立大学に07年度段階で約3千億円の「埋蔵金」があることが財務省の調査で分かった。各大学の毎年度の予算の剰余金を合計したもので、財務省は今後、文部科学省や各大学に積極的な活用を促し、当面の交付金の抑制につなげたい考えだ。・・・
http://www.asahi.com/national/update/0606/TKY200906050446.html

大学予算の実状を知る立場にある方々にとっては、この建議の内容が、財務省一流の独断と偏見を多分に含む内容であり、財務省の戦略に基づく政策誘導そのものであることは容易に理解することができると思います。また、多くの記述やデータが誤解を招くような形で作成されており、正確な情報が必ずしも一般国民の皆さんに提供されているとは思えません。

国立大学法人の予算剰余金を「埋蔵金」と呼ぶ財務省(2009年6月6日 大学プロデューサーズ・ノート)

独立行政法人の予算剰余金を「埋蔵金」と呼ぶ発想には、「私たちが認めたこと以外はするな。お金の使い方は財務省が決めてやる。それ以外は無駄だ」・・・という、昔から変わらない中央省庁の(特に財務省の)悪い部分が見え隠れします。この発想から脱却するために国立大学を独立行政法人化させ、独立採算の仕組みを採り入れたというのに。これではせっかく改革した諸制度も、骨抜きになりかねません。「余っているお金があるくらいなら・・・」というキャッチフレーズを安易に使いすぎると、各所での無駄な税金の使い方を招くように思います。・・・
http://www.wasedajuku.com/wasemaga/unipro-note/2009/06/post_432.html


さて、国民の皆さんは、経済対策を錦の御旗に、数次にわたり組まれたこのたびの補正予算について、どのように受け止めていらっしゃるでしょうか。官邸主導・政治主導で事が進められたとはいえ、国民の血税を預かる財務省は、結果的にバラマキと揶揄される税金垂れ流しの予算を作り続けています。しかも、補正予算の財源は、借金により調達され、返済の負担は将来を担う私達の子どもに押しつけるという相変わらずの愚策を続けています。

財政審の建議に示された論理と、税金のバラマキという言行不一致について、財務省は国民にどう説明するのか、財務省の場当たり的なご都合主義で我が国の財政が果たして将来にわたって健全に運営されるのか、財務省は、国家財政を預かる重責を国民に対して果たすことを怠っているばかりか「省益」のみを優先しているのではないかと思われても仕方ありません。

前置きが長くなりました。省益優先にまみれた財政審の建議のうち、「大学予算」関係を抜粋してご紹介します。

平成22年度予算編成の基本的考え方について(平成21年6月3日 財政制度等審議会)【大学予算関係抜粋】

全文はこちら→http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseia/zaiseia210603/zaiseia210603_00.pdf

■大学の現状と課題

平成16年(2004年)に国立大学が法人化されてから6年目に入り、国立大学法人は来年度から第2期の中期目標期間に入る。そこでまずは、公費投入の対象となっている国公私立大学を通じた現状を検討する。

1 納税者の要請から見た大学の現状

(1)若者人口と大学数の逆転現象

若者人口(18~24歳人口)は平成に入ってから、ピーク時の約1,400万人から1,000万人を割り込むまで、約3分の2に減少している。一方で、この間、累次の参入規制の緩和により大学の新設が大幅に認められ、大学数は5割増となり、若者人口の減少と重ね合わせると、逆転現象が生じている。また、既に、若年層(25~34歳)の大卒者割合は先進国でトップクラスの水準(OECD諸国中2位)に達しており、この観点からも、我が国の大学数・定員数をこれ以上増やす意義は認めがたい。

(2)大学過剰が招いた定員割れと学力低下

私立大学の定員割れが急増しており、約600のうち半数近くは定員割れを起こしている。これと並行して、国立大学・私立大学を通じて、通常の学力試験を経ない、推薦入試・AO入試による入学者が増加しており、私立大学では約50%を占めている。こうした中で、大学生の学力低下が進んでおり、「中学生レベルの学力」の大学生が増えているとの調査結果もある。

(3)企業からの評価及び国際的な評価

企業が求める能力と大学が養成している人材には乖離が見られる。大学の人材育成について、産業界からは「基礎学力の不足」を始めとした多くの問題点が指摘されている。一方で、産業界は、人材採用に当たって「大学での成績」や「学部・学科」をあまり考慮していない。また、国際的に見た日本の大学の評価はおしなべて低い。例えば、イギリスの「世界大学ランキング」において世界の上位20位以内の評価を付されているのは、我が国では東京大学のみである。また、スイスのシンクタンクによれば、「大学教育は、競争的な経済の要求を満たしているか」との評価指標で、日本は55か国中40位との評価であり、G5諸国で最下位である。

2 「質」「量」両面からの見直し

このように少子化に伴う若者人口の減少、成長力・国際競争力強化の要請の中で、我が国の大学は「質」「量」両面からの見直しが迫られている。「質」については、教育面では、社会が求める人材を養成するために、各大学が教育の質を向上させる仕組みを、研究面では、世界トップレベルの研究成果(国レベルで求める研究成果)を挙げる仕組みをそれぞれ構築する必要がある。この点、各地域の活性化のために求められる研究成果については国としてどこまでバックアップするのか、改めて検討が必要である。「量」については、大学の数、各大学の入学定員を適正規模に抑える仕組みが早急に必要である。その中で、教育については、「社会から評価され、個人の人生にとって価値のある大学卒業資格」を生み出すことを目指し、研究については、「世界トップレベルの研究拠点の構築」をすることが優先課題である。こうした観点から、国公私立大学のそれぞれの役割及び公費投入について、その根本に立ち返った検討を行い、大学の機能分化及び選択と集中を図っていくことが必要である。特に巨額の国費を投入している国立大学に着目すると、法人化以降、公費投入の意義が更に厳しく問われており、上記の観点に基づいた改革が必要である。

■国立大学法人の運営費交付金の見直し

1 国立大学法人化の目標

国立大学法人化は、平成13年(2001年)に遠山文部科学大臣が示した「遠山プラン」において本格的に提唱されたものである。同プランにおいては、国立大学に民間的発想の経営手法を導入するため法人化を行い、各大学に外部評価を義務付けることとした。さらに、国立大学の数の大幅な削減を目指し、国公私立大学の「トップ30」を世界最高水準に育成することとした。この提案に基づいて平成16年度(2004年度)に実現した国立大学法人化が目指したものは、「護送船団方式からの決別」であった。具体的な目標として挙げられるのは、以下の通りである。
  1. 第三者評価を通じて競争的環境を醸成し、教育研究の質を向上させること
  2. 運営の効率化の観点から、独立行政法人と同様に運営費交付金に効率化係数▲1%を導入すること
  3. 自己収入の増加のインセンティブを付与するとともに、学生納付金(授業料等)を一定程度自由化すること
  4. 情報公開により説明責任を確保すること
2 第1期中期目標期間の検証

(1)第三者評価

先般、独立行政法人大学評価・学位授与機構から、第1期の中期目標期間(平成16~21年度(2004~2009年度))のうち平成16~19年度(2004~2007年度)の教育研究に対する評価結果が公表されたが、各評価項目をあわせて、「期待される水準を下回る」との評価を付したものはわずか1~2%程度であり、大学間でも評価結果にほとんど差異が見られなかった。また、同法人による各大学の年度別の現況分析結果を見ても、例えば、提出資料が不明確、あるいは、「所属教員の数に比べて成果が多いとは言えない」との判断理由が示されているにもかかわらず、「期待される水準にある」との評価を下しているなど、評価が客観性に欠ける例が見られた。これらの評価を機能させるためには、評価自体を客観的で定量的なものとする必要があるが、そもそも中期目標自体をより具体的な内容として、客観的に評価可能なものとする必要がある。第二期の中期目標・中期計画策定に当たっては、文部科学省・各大学があらかじめ中期目標・中期計画が客観的に評価可能なものとなっているか確認すべきである。また、上記の独立行政法人の国立大学教育研究評価委員会の委員の8割(30名中24名)が大学関係者であり、評価委員に企業関係者や評価専門家を抜本的に増やす等の工夫が必要である。

(2)予算の配分実績

現在、運営費交付金約1.2兆円のうち、約0.9兆円は「基礎的な運営費交付金」として、機械的・一律に配分されている。一方で、約0.1兆円は「特別教育研究経費」として、優れた教育研究に競争的に配分されることとなっている。しかし、この両者について、実際の各大学別の配分シェアを比較すると、シェア差は1~2%程度にとどまっており、優れた教育研究を個別に客観的に評価した結果とは認めがたい。国公私立大学を通じたいわゆるGP(Good Practice)補助金についても、特別教育研究経費に比べればシェア差が開いているものの、同様の状況にある。そもそも法人化以降の国立大学予算は、機械的・一律に配分する経費を削減して、優れた教育研究を伸ばすため、競争的に配分される経費を増額している。しかし、こうした理念と現実に落差があり、各大学の努力や実績を反映した競争的な配分が実現していないとすれば非常に問題である。今後は、個々の教育研究の評価を更に客観的・定量的なものとし、予算配分が実質的に一律に近いものとならないよう配意する必要がある。この中で、特別教育研究経費の存在意義もあわせて検討していく必要がある。

(3)運営の効率化

国立大学法人化に当たって、他の独立行政法人同様、運営の効率化を目指して各年度の運営費交付金に▲1%の効率化係数を導入した。しかし、法人化以来、教職員の1人当たり学生数はほとんど変化がなく、私立大学と比べて学生規模当たりで見ると2倍以上の教員がいる状態が続いている。また、職員数についても、私立大学と比べて学生規模当たりで1.5倍以上の状態が続いており、今後、更なる効率化、及び経営能力の高い職員の登用・育成が求められる。一方、法人化以降の各大学の支出内容を見ると、学長のリーダーシップが高いほど、予算配分の効率化が進んでいるとの指摘があり、大学内の予算配分には未だ効率化余地があると考えられる。また、法人化以後、国立大学には毎年度多額の決算剰余金が発生し、ストックベースでは約3,000億円の積立金等が累積していること、いわゆる遊休資産(減損処理を行った資産、減損の兆候が認められた資産)が約300億円あることを考慮すれば、国立大学法人が資金不足に陥っているとは言いがたい状況にある。

(4)自己収入の確保

法人化以後、運営費交付金は削減されたものの、自己収入(授業料、病院収入等)、寄附金、産学連携研究収入、競争的な補助金等を合わせれば、国立大学法人全体の収入・事業費は増加している。この点に関して、理事会、監事組織の意思決定や学長のリーダーシップが高まることで、運営費交付金依存度が低下し、寄附金や、受託研究、受託事業の割合が高まるとの指摘があり、今後とも学内のガバナンスを工夫しながら、外部資金の導入を促進していくことが重要である。一方で、授業料の「横並び」は全く解消されていない。平成17年度(2005年度)以降授業料の改定もストップしたままであり、教育内容等に応じた授業料設定の多様化が課題となっている。このため、運営費交付金の配分において、授業料の改定を促すことも検討すべきである。

(5)情報公開

文部科学省は、学部等ごとのセグメントの財務情報の積極的開示を求めているが、各国立大学法人の対応は進んでいない。学部・学科別の活動成果を客観的・正確に評価し、予算配分を効率化するためにも、学部等ごとの財務情報の開示が求められる。

3 今後の議論の方向性

国立大学法人については、今後、年末までに、第2期の6年間(平成22~27年度(2010~2015年度))の運営費交付金の取扱いについて、方向性が実質決定されることになる。文部科学省は、大学院博士課程・法科大学院・教員養成系学部等の入学定員・組織等の見直し、評価結果を踏まえた教育研究の質の向上、法人のガバナンスの充実、自己収入の増加、管理的経費の抑制等による財務内容の改善、資産の有効活用、教育研究の評価結果を踏まえた運営費交付金の配分等を進めることとしている。今後の議論に当たっては、上記「2」で指摘した第1期の運営状況に対する要改善点を踏まえ、国立大学法人化の当初の考え方に立ち返って、引き続き、各大学の教育研究の質の向上を目指すべきである。その際、以下のような観点についても議論していくべきである。
  1. 運営費交付金を機械的・一律に配付するよりも、各大学が自ら質を高める取組を促すため、引き続き運営費交付金の削減を行い、できる限り、教育は授業料、研究は科学研究費補助金等の競争的な資金で賄うことを目指すべきではないか。
  2. そのために、欧米の例にならって、教育・研究に会計を分離して、公費を投入すべきではないか。
  3. 例えば同一都道府県内に教員養成課程(教育学部)等を始め、同様の学部を有する複数の国立大学や公立大学が多く見られる。重点的な資金配分、あるいは地域活性化のため、それぞれの目的に応じて国立大学法人の再編・統合を推進すべきではないか。
  4. その中で、我が国の成長力・国際競争力を高めるため、国立大学法人として今後ともトップレベルの教育研究を行わせる大学として、どの程度の数の大学を想定するのか、国・地方公共団体の役割分担の観点を含めて、検討すべきではないか。
これらの点について、文部科学省は納税者の観点も踏まえて、早急に議論を進め、結論を出すべきである。