2010年3月9日火曜日

地方大学の挑戦

国立大学では、今週末、後期日程入学試験が行われます。今期は、国公立大学入試の志願者数が前年度より1万人以上増加、しかも7年ぶりの増加となったようで、不況の影響か、学費が安い国公立大学の人気が上昇したとの見方があるようです。

地方大学は、これまで、18歳人口の減少に加え、首都圏や関西圏の大手大学が地方戦略を強化した影響を大きく受けてきました。特に、地方私立大学は入学定員割れが続出しています。

不景気の影響もあり、地元志向が高まったこのたびの入試結果を、地方大学はどのように受けとめ、経営戦略をどのように実践していくのか。今こそ地方大学の真価が問われています。

地方国立大学に対する文部科学省のスタンスを理解するひとつの事例をご紹介します。

去る2月16日、文部科学省は、橘慶一郎衆議院議員(自民、富山県3区)が提出した「地方の国立大学法人への政府の対応に関する質問」に対する答弁書を公表しました。

質問の主意書は次のとおりです。

地域において国立大学法人は、それぞれの地域の特色を生かした研究・教育の拠点として重要な役割を担っている。産学官の連携を通じた地域の経済・社会の発展への貢献や、地域の活力の源となる若者の集う場所として地域活性化の観点からもその健全な発展が期待される。一方、国立大学の法人化を通じ、大学改革が進められてきたが、一定の年数を経過し運営費や評価方法について見詰める時期に来ているものと考える。ついては、政府の考え方について、
1)地域の「知の拠点」としての国立大学法人の果たすべき役割についての鳩山内閣としての見解をうかがう。
2)景気の大幅な落ち込みにより、外部資金の導入は以前よりも困難となり、国からの運営費交付金の役割が重くなると思うが、当面の政府としての方針をうかがう。
3)個々の国立大学法人については、詳細な自己評価が義務付けられているが、文書の量にしても大部なものとなっており作成側、評価側とも多大な労力を費やしているものと思料する。これまでの実績を踏まえ、簡素化すべきではないかと考えるが、政府の見解をうかがう。
の3項目にわたり質問する。

質問に対する答弁書は次のとおりです。

1)について 国立大学法人が設置する国立大学は、各地域において、それぞれの特色をいかした教育研究を行い、地域社会の発展を担う人材を育成するとともに、教育研究の成果を広く社会に提供すること等により、地域社会の発展に貢献することが期待されていると考えている。
2)について 国立大学法人運営費交付金については、今後とも、各国立大学法人における業務の実施に必要な経費について適切に対応してまいりたいと考えている。
3)について お尋ねの「自己評価」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、国立大法人法(平成15年法律第112号)第35条において読み替えて準用する独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第32条第1項及び第2項並びに第34条第1項及び第2項の規定により国立大学法人評価委員会が行う評価については、現在、文部科学省において、平成22年度以降の業務の実績に関する評価から関係書類の簡素化等を行う方向で検討しているところである。


野党に対する答弁書であるためか、どことなくよそよそしい文脈ですが、地方国立大学の重要性、地方国立大学に対する期待感は感じ取ることができます。


これまで、この日記では、地方大学の位置づけ、地方大学の特筆すべき取り組み、地方大学が抱いている危機感などについて何度かご紹介してきました。

今回は、「これからの地方大学のあり方」(法政大学学事顧問 清成忠男 氏)を抜粋してご紹介します。

経営の再建の前提は、事業の改革である。大学の主要な事業は、教育と研究である。したがって、教学改革が不可欠である。地方大学は教学改革と経営改革を同時に進めなければならない。

こうした状況下で、トップはあらためてヴィジョンを提示する必要がある。大学には、まさにヴィジョナリーリーダーが求められる。戦略の策定・素速い実施も不可欠である。教職員との危機感の共有も当然のことである。

数学改革の方向は、地域密着と新時代への対応である。いま、地域は、それぞれ課題をかかえている。大学には、教育・研究を通じて、こうした課題の解決に貢献することが求められている。

地域振興は人材に依存する。大学は、地域力の強化のために教育・研究を行う。地域の求める多様なリーダーと専門家を育成するのである。こうした地域再生人財の教育のみならず、一般市民のリカレント教育にも挑戦することが望ましい。

こうした教育は、学部、学科、大学院などの正規の授業で行うこともあれば、エクステンション講座で行うこともありうる。いずれにしても、独自の教育内容を確立しておく必要がある。フィールドワークを活用するなど教育の新機軸を展開することが望ましい。同時に、教員の教育力の向上をはからなければならない。

また、大学は、地方自治体のシンクタンクともいうべき役割を果たすことがありうる。地域の調査を深め、自治体の政策策定に協力するのである。自治体職員の研修にも協力することが可能であろう。

さらに、大学は、新産業の創出にも貢献しうる。シーズの創出のみならず、市場調査や商業化に当たっても情報提供を行うことがありうる。こうした動きは、大学教育の変革にも貢献するであろう。既存の大学教育には限界があるからである。

こうした新産業をも含めて、大学は産業界等の協力を得て、卒業する学生の就職先を開拓する必要がある。入口と出口を連動させ、教育全体を変えていく。寄付講座の活用も有効であろう。静岡産業大学のように、資金を寄付してもらう講座ではなく、企業人による講義を寄付してもらう試みは注目に値する。こうした寄付講座の数を増やし、学生のインターンシップと連動させれば、効果は拡大する。

以上のような大学の対応は、個別大学のみの活動では限界がある。現在の地域問題は、個別大学の能力を越えた構造問題である。したがって、大学間連携や産学官連携を展開する必要がある。

大学間連携といっても、地域内で複数の大学が行う連携、地域大学コンソーシアム、地域を越えた大学間連携など、多様な形態の連携がすでに展開している。地域内での複数の大学の連携は、目的の明確な戦略的提携であれば効果が期待できる。

地域的な大学コンソーシアムは全国的に数が増えている。ただ、ライバルの関係にある大学が連携するのは容易ではない。連携しても地域内の大学教育に対するニーズが拡大するとは限らない。地域間競争の手段にはなりうる。むしろ遠隔地間の大学の相互補完的な戦略的提携のほうが、期待できる。

もちろん、大学間連携にも限界がある。産学官連携のほうが、効果が大きい。教育面においても、研究面においても産と官が参加することにより展開幅が広がる。コンソーシアムにしても、産官学のコンソーシアムはかなり有効である。

こうした産学官コンソーシアムはまだきわめて少ない。第1号は、非営利法人「三鷹ネットワーク大学推進機構」である。これは、三鷹市、20大学と50機関(企業、研究所、金融機関、業界団体など)のコンソーシアムである。三鷹市がインフラを提供し、運営は民・学・産・公で行っている。活動内容は、市民及び市内勤労者の生涯教育、市のシンクタンク、市の教員予備軍の研修、産学連携の調査・研究、等々、である。新しい時代のニーズに合致した教育を目指している。

こうした連携事業の円滑な展開のためには、強力なリーダーの存在、マネジメントとガバナンスの適ぐ転化が不可欠である。(リクルート カレッジマネジメント160号 特集 地方大学の挑戦)