「私と科研費」(No.69 2014年10月号 日本学術振興会)から「科研費改革、今後の課題」(自然科学研究機構機構長 佐藤勝彦)を抜粋してご紹介します。
激動している国際社会、また我が国の少子高齢化社会の状況で学術研究のあり方も問われており、科研費制度もそれに応じてさらに改革が必要である。近年、日本経済の不調から出口指向の研究が必要と広く喧伝されている。科研費を減額し他の科学技術関係予算に変えようとする議論もされている。科研費は学術研究を通じて「知」の創造を進め人間社会に貢献するものであり、目先の出口を求めるものではない。しかしこれは当然ながら日本社会の基盤である科学技術の根幹を強化することであり、同時に研究活動を通じて人材の育成を図っていることから、日本のイノベーションに大きく貢献しているのである。企業人からも直接出口に向けた技術改良を望むような希望はほとんど聞くことはなく、研究者の独創性に基づいて、思いもつかないところに出口を新たに発見することや、さらに新たな入り口を発見することを求めている。これらこそ日本の国力を強めることに他ならない。科研費はまさにその役割を果たしているのである。
国の予算の半分が国債、借金であることを考えれば、研究費の成果を最大化するために研究費制度の不断の改革が求められている。平成26年7月に発行されたサイエンスマップ2010&2012によるならば、世界の国々と比較したとき、日本の研究分野は伝統ある確立した分野で引用数の上位論文が多いが、新しく生じた分野、分野融合的分野では相対的に少ない。将来を見据えたとき、分野融合的新分野の創生は不可欠である。科研費では、研究種目として「挑戦的萌芽研究」も設けられ、また分野分類表「系・分野・分科・細目表」も時々見直しがおこなわれ、融合分野などが時限付き分科細目として加えられ、融合分野の振興も図られている。しかしながら、そもそも細目表があまりにも細かくこれが近隣分野との融合的研究の妨げになっているのではないかと思われる。分科細目の大括り化が行われれば、自然と融合的研究も進むのではないかと思われる。もちろん大括り化は容易なことではない。分村細目は諸学会の中で年会の分科会名にもなっていることもしばしばで、研究者にとって自分の居城でもあるからである。また、大括り化したとき審査をいかに行うのかも大問題で、審査方式の大幅な変更も伴わざるを得ない。
現在私は科学技術・学術審議会学術分科会(平野分科会長)の下に設けられている研究費部会の長を務めている。学術分科会では、学術研究の意義など根本にさかのぼって審議を行い、平成26年5月に「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」(中間報告)を取りまとめた。その中で学術研究は、イノベーションの源泉そのものであり、まさに「国力の源」であることが強調されその碁盤を支える科研費の充実を求めている。この議論を受け、研究費部会では科研費改革の基本的な考え方と具体的な改革方策の一定の方向性を取りまとめ、9月に「我が国の学術研究の振興と科研費改革について(中間まとめ)」として公表している。この部会に新たに設けられる作業部会と日本学術振興会学術システム研究センターとの連携により次回研究費部会の為の具体案が作成される。是非多くの研究者から科研費改革について意見を発信していただきたい。