昭和36年秋、幸之助が九州のある取引先の工場を訪れたときのこと。
30分ほど工場を見学し、そのあと社長、工場長と10分間ほど歓談した。
帰りの車中で幸之助は、随行していた九州松下電器の幹部に言った。
「きみ、あそこの会社、経営はあまりうまくいっていないな」
「どうしておわかりですか」
「工場を一見したら、まあ、だいたいわかるわ。
それと、さっきのあの社長さん、あの人より経験の深いはずのわしがせっかく行っているのに、わしから何か引き出そう、何かを聞き出そうという態度にちょっと欠けとった。
自分ばかりしゃべりはったな」
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人は、自分を大きく見せようと虚勢をはるとき、自分ばかりペラペラとしゃべってしまう。
弱みを見せたくないからだ。
人にモノを尋ねることができる人は、素直さと謙虚さを持っている。
そして、尋ねる側にまわるなら、どんどん情報も入ってきて、結果として運もやってくる。
反対に、自分のことばかりしゃべる人は、情報が入ってこない。
一方的に話を聞くだけの自慢話のような独演会では、誰もが楽しくなくなり、結果として運が逃げるパターンとなる。
吉川英治氏に、「我以外皆我師(われいがいみなし)」という言葉がある。
自分以外はみな、何かを教えてくれる師匠だ、ということ。
人は、昨日より今日、今日より明日と少しでも前に進まななければならない。
自分を毎日少しずつでも向上させること、このことこそが生きている意味。
老人でも、若者でも、年下でも、あるいはモノであっても、相手が誰であれ、己(おのれ)に向上心さえあれば、そこから何かを学ぶことができる。
自分ばかりしゃべるのはやめ、謙虚に聞き、学ぶ姿勢を持ちたい。