2008年4月3日木曜日

高等教育政策の動向

恒例になりつつありますが、文部科学省高等教育局が配信しているメールマガジン(2008.3.31 No25)のうち主なものをご紹介します。

[政策動向] 中央教育審議会大学分科会第67回について


■大学分科会について-2つの評価機関の認証について答申-

3月25日、大学分科会(分科会長:安西祐一郎慶應義塾長)第67回が開催されました。

1)各部会等の審議状況について

○教育振興基本計画特別部会関係
 ・答申素案 等
○大学分科会制度・教育部会関係
 ・新制度(「共同学部・共同大学院」(仮称)制度)の概要(案)及び骨子(案)
 ・国公私立大学等を通じた大学間連携支援の在り方について(論点整理メモ)
○大学分科会大学院部会関係
 ・専門職大学院に関する今後の検討課題について(案)
 ・博士課程修了者等の諸問題について(論点整理メモ) 等
○大学分科会留学生特別委員会関係
 ・留学生特別委員会の設置
 ・「『留学生30万人計画』の骨子」を取りまとめるにあたっての検討課題(案)

2)「学士課程教育の構築にむけて」(審議のまとめ)

制度・教育部会長から「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」について報告が行われました。

3)認証評価制度

認証評価制度や実施の在り方について専門的な調査審議を行うため、大学分科会の下にある現行の「評価機関の認証に関する審査委員会」を改組し、「認証評価特別委員会」を設置することが決定されました。
また、平成19年12月18日付けで諮問があった「特定非営利活動法人日本助産評価機構」及び「財団法人大学基準協会」に関する専門職大学院の認証評価機関としての認証について審議が行われ、答申されました。
具体的には、「特定非営利活動法人日本助産評価機構」については、専門職大学院の課程に係る助産分野の評価を行う機関として認証すること、「財団法人大学基準協会」については、専門職大学院の課程に係る経営分野(経営管理、会計、ファイナンス、技術経営)の評価を行う機関として認証することについてそれぞれ適当と認める旨答申されました。
今後、両法人は、文部科学大臣の認証を経て、平成20年度から当該分野の専門職大学院の評価を行う予定です。

4)その他

「大学における厳正な学位審査体制等の確立について」(平成20年3月19日19文科高第854号通知)等について報告されました。
■「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」について

3月25日に開催された中央教育審議会大学分科会では、制度・教育部会(部会長:郷御茶の水女子大学長)から、「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」の報告が行われました。
この報告書は、昨年9月に同部会の学士課程教育の在り方に関する小委員会が公表した「審議経過報告」を基に、その後の審議を踏まえて修正を行い、部会レベルで了解を得たものです。
今後、学士課程教育に関しては、今回の「審議のまとめ」に関する意見募集等を経て、夏前を目途に答申をまとめるべく、更に議論を進めていく予定です(近く報告書の全文を当省のウェブサイトに掲載し、パブリックコメントの開始について告知をさせていただきます)。

「審議のまとめ」は最終的な答申とは異なりますが、文部科学省としては、報告書の中でいただいた提言については、できるところから実行していくこととしております。
当面は、報告書の内容の周知を図るとともに、平成20年度からスタートする、学士課程教育の充実に関する新しい制度や予算事業(例えば、教育研究目的や成績評価基準等の明示、FDの実施に関する大学設置基準の改正、従来のGP事業を統合した「質の高い大学教育推進プログラム」や「戦略的大学連携支援事業」などの新規予算措置)の円滑な実施などに当たっていく予定です。

また、「審議経過報告」と同様、提言されている「改革の方策」については、「大学の取組」と「国による支援・取組」とが明確に区分して示されております。各大学におかれては、主として前者を参考にして主体的な改善の取組を進めていただきたいと思います。

【関連報道】

「大学淘汰不可避」 質向上求め提言 中教審 (2008年4月2日付産経新聞)


中教審大学分科会制度・教育部会は、大学の学部教育の質向上を求める提言をまとめた。

大学志願者数と定員が同数となる「大学全入時代」の到来を「少子化の中、学士レベルの能力を備えた人材の供給は重要」と積極評価。
その一方で「質の維持・向上の努力を怠り、社会の負託に応えられない大学の淘汰(とうた)は避けられない」と警告した。
平成19年度に57%となった大学・短大進学率について提言は「先進諸国に比べて高いとはいえない」との見方を示し、意欲や能力がある若者を積極的に大学に受け入れることが必要とした。
その上で、質向上の方策の1つに、大学に入学する際の高校生の学力をみる手段として、高校と大学が協力して実施する「高大接続テスト」(仮称)の創設を検討することなども求めた。
中教審は、引き続き大学改革に向けての審議を進め、夏ごろをめどに答申をまとめる予定。

努力怠る大学「淘汰は不可避」・中教審が報告案 (日本経済新聞)

大学の学部レベルの教育水準向上策を検討してきた中央教育審議会は、これまでの審議の結果を盛り込んだ報告案をまとめた。
大学を取り巻く環境が急速に変化する中で「質の維持向上への努力を怠る大学の淘汰は不可避」と強調。取り組みが不十分な大学に対しては補助を大幅カットするなど「厳格な対応が必要」と指摘している。
中教審がこうした報告などの中で、大学の将来について「淘汰」を明言するのは異例。「大学全入時代」の到来などで大学の経営が厳しくなっていることを受け、各大学に危機感を持ってもらう狙いがある。
報告の題名は「学士課程教育の構築に向けて」。冒頭で「我が国の大学の大きな問題の一つは『質』の管理が緩いことだ」と明確に指摘し、学生や社会のニーズを顧みない「旧態依然とした大学もある」と厳しく批判。
入り口から出口まで総合的に大学の質を保証する仕組みづくりが急務になっているとした。

■「教育再生懇談会」の開催について

平成20年3月25日に「教育再生懇談会」の初会合が首相官邸で開かれました。
福田首相は、あいさつで、教育再生会議のフォローアップに加えて、「各方面から学生の学力低下が危惧されている中、国際的に通用する人材育成のため、大学全入時代における高校教育、大学入試、更には大学教育の在り方、また、留学生受入れの拡大や英語教育の在り方についてもご議論いただきたい」と、大学生の質向上に向けた具体策をまとめるよう指示しました。
また、首相は、子どもにとって有害な情報への対策、幼児教育の在り方などについても議論するよう指示しました。
座長には、安西祐一郎慶應義塾大学塾長が互選で選出されました。
「教育再生懇談会」は、今後月1回のペースで会合を開き、フォローアップのために現場視察も行われる予定です。

【関連報道】

大学全入時代の対応検討へ=教育再生懇 (2008年3月25日付時事通信)


政府は25日、教育再生会議の後継組織「教育再生懇談会」(座長=安西祐一郎慶応義塾長)の初会合を首相官邸で開いた。主な役割は同会議報告書の具体化の点検だが、福田康夫首相は「21世紀にふさわしい教育の在り方の議論をお願いする」として、「大学全入時代」を見据えた学力確保の方策やインターネットの有害情報対策など、同会議が積み残した課題の検討も指示した。
首相が言及したのは、(1)大学全入時代の高校教育、大学入試、大学教育(2)国際競争力向上に向けた留学生受け入れ拡大や英語教育(3)ネット社会におけるコミュニケーション能力の養成や有害情報対策(4)家庭教育や幼児教育-など。同懇談会は毎月1回の会合でこうした問題を話し合うが、報告書をまとめるかどうかは未定。
安西座長は記者会見で、家庭教育に絡み「子どもと付き合う時間が長くできる雇用形態、社会の在り方も考えないといけない」と指摘した。

トピックス

■大学等に関する認可申請に係る不認可期間の決定について

文部科学大臣は、平成20年2月27日、学校法人夙川学院、学校法人純真学園の2学校法人に対し、「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準」及び「学校法人の寄附行為及び寄附行為の変更の認可に関する審査基準」に基づき、不認可期間の決定を行いました。

具体的には、

1)学校法人夙川学院

平成19年4月に開設した神戸夙川学院大学に係る寄附行為変更認可申請において、
・運動場という重要な教育用の資産が寄附行為変更認可申請書に記載されていなかったこと
・また、当該事実を記載したとしても、校地を借用する場合は20年以上の借用保証が必要であるにも係らず、運動場計画時の借用期間が不足していたこと
等により、平成21~24年度開設までの大学等の設置に係る寄附行為変更を認可しないこととした。

2)学校法人純真学園

平成19年11月、純真短期大学の学科設置に係る認可申請書において、学長の個人調書に事実とは異なる記載がされていることが判明したことにより、平成21~22年度の開設までの大学等の設置に係る認可申請を認可しないこととした。

学校法人の寄附行為変更認可申請書及び大学等の設置認可申請書は、文部科学省における審査の前提となる大変重要なものでありますから、各申請者におかれましては、その内容の正確性・信頼性について、ご留意いただきますようお願いします。

(参考)
近年の審査を振り返って(大学設置・学校法人審議会 学校法人分科会長コメント)
大学設置・学校法人審議会会長コメント
 

■厳正な学位審査体制等の確立について(通知)

平成20年3月19日付けで高等教育局長から各国公私立大学長あてに「大学における厳正な学位審査体制等の確立について」の通知を行いました。

(通知内容)
昨今、学位審査に関連して審査委員が収賄罪により起訴された事件や学位取得に伴い金銭の授受があった事実が明らかになる不祥事がありました。

近年、大学院教育の組織的な展開の強化と学位の国際的な通用性・信頼性の確保がこれまで以上に求められている状況において、このような不祥事があったことは、学位の国際的な通用性・信頼性を損なうことにもなりかねず、極めて重大な問題であります。

各大学においては、今後かかる不祥事が生じることのないよう、下記事項に留意の上、改めて厳正な学位審査体制等を確立するようお願いします。

なお、このことに関しては、学位授与状況等調査において、その状況を調査することとしておりますので念のため申し添えます。また、今後かかる不祥事が生じた場合には、各大学において厳正に対処するとともに、文部科学省へすみやかに報告するようお願いします。

  1. 公開での論文発表会を実施すること、学外審査委員を積極的に登用すること等により、学位審査に係る透明性・客観性を確保するための体制を確立すること。

  2. 学位審査等に関わる教員の責務等を明確化するとともに、通報・相談窓口を設置し、それらを関係者に通知すること。また、問題が生じた場合には、公正な調査を実施し、その結果をすみやかに公表すること。

[政策担当者の目] 首尾一貫

小泉内閣の時、三位一体改革が金科玉条のごとく主張されたことは、皆さんの記憶に新しいでしょう。
その際、地方6団体(知事会、市長会など)からは、国の補助金を廃止して一般財源化すれば、地方の裁量度が増して、地方自治が実現できると盛んに主張がなされたところです。

これに対して、文科省は義務教育費国庫負担制度を廃止すると、地方への安定した財源がなくなり、教育の荒廃につながると主張し、徹底的に反対しました。

ところで、最近の道路特定財源の議論をみると、地方側は一般財源化すると地方の安定した財源が失われ、道路建設ができなくなると訴えています。
私は、道路財源の専門家ではないので安易な論評は控えたいと思いますが、道路財源をめぐる地方側の主張と、教育費をめぐる地方側の主張には矛盾があるように思えてなりません。
まさに、首尾一貫していないというのは、このようなことを指すのではないでしょうか?

2年前から、国立大学への運営費交付金や、私立大学への私学助成といった高等教育機関への基盤的経費に対する財政当局側の切り込みの動きが続いています。
私は、大学への基盤的経費をきちんと確保することが我が国の高等教育を安定させ、ひいては我が国が優れた人材を輩出し、かつ、世界をリードする科学技術を生み出す礎になると確信していますので、これからも引き続き、「首尾一貫」して、この問題から逃げずに取り組んで行きたいと思っています。


編集後記

大学分科会にて、学士課程教育に関する中間報告書(「審議のまとめ」)がまとめられました。
幾つかの新聞で報道されましたが、どうしても部分的な報道に止まり、メッセージが正確に伝わらないという心配を抱きます。
近く意見募集も予定しておりますが、本文は50頁程度なので、大学関係者の皆様には、ウェブサイト等を通じて全体を御覧いただければと思います。

提言のキーワードの中には、「幅広い学び」、学士課程の達成目標としての「学士力」などがあります。
カルロス・ゴーン氏は、「大学は土台づくり」と題するある新聞のコラムの中で、慌ててキャリア・プランを作ろうと焦る最近の学生の動きをたしなめた上で、勉強の方法を勉強し、学問のロジックを身に付けることの重要さを説いています。
優れた経営者の考え方と、今般の中教審の提言との間にズレは無いということを強く感じました。

しかし、一方では、3月末のある週刊誌にて、「「就活」が壊れる」という特集が組まれ、採用活動の早期化をめぐる問題の広がり、大学教育への負の影響が報じられていました。
産業界の有り様もなかなか一括りに論じられません。
「審議のまとめ」の提言を契機に、大学と産業界との関係も、改めて見直していくことが望まれます。