九州などではこの週末がちょうど桜の見頃を迎えるようですが、キャンパスに咲く満開の桜の下を通学する新入生の姿を見るのは毎年のことながらとてもいいものです。
新入生とともに足取りが軽やかなのは大学職員の新人さんです。
新社会人としての大きな夢と少しばかりの不安を持ちながらの仕事や生活のスタートだったここ1週間はとても大変だったのではないかと思います。お疲れ様でした。
今、大学はいろんな意味で変動の最中にあり、大学職員やその業務の在り方については、かつてない大きな変革が求められています。特に、若い職員の方々の肩には、将来の大学の運命がかかっていると言っても過言ではないほど、彼らの役割は今後益々重要となり、彼らが中核となり様々な分野で大学の改革を積極果敢に進めていくことが、引いては我が国の高等教育、国民生活の発展につながっていくものだと思います。
今日は、この春に新しく採用された大学職員の皆さんにエールを贈る気持ちで、上杉道世氏(前東京大学理事、現独立行政法人日本スポーツ振興センター理事)が書かれた「誇りある大学職員となる」(文部科学教育通信2008・1・14掲載)の主な部分をご紹介します。
教員と職員の関係を変える
大学職員をめぐる将来のイメージを私は次のように捉えている。
これまで職員と教員の関係は、職員は事務室にこもって、同じ大学の中なのに教員と職員の二つの別の世界があるかのようだったが、将来は、職員は学長や部局長と一体となって大学経営を担い、教員の教育研究を専門的な知識能力を持って直接に支えるようになる。
そのためには、これまで膨大に存在した間接業務を徹底的に縮小し、経営判断や教育研究に直結する業務を仕事の中心とする。これまで縦割り階層性のピラミッド型の組織であったが、フラットで柔軟な業務本位の組織になる。
職員は自分と大学の将来を見据えながら、幅広い経験を積むと同時に、各自の能力適性に応じて専門性を高めていく。職員はコミュニケーションを基本とした納得性の高い評価を通して、実力と業績に基づく処遇を受ける。
職員が教員や学生とともに働き、交流する機会が増え、大学経営と教育研究を支えているのだという実感を持つことができるようになる。これらを通して自分の存在感を持つことができる。誇りを持つことができる。
大学という職場のすばらしさ
世の人々から大学で見えるのは、もっぱら教員と学生の姿である。職員の姿はなかなか見えない。
大学は舞台芸術に似ている。ステージに立つスター(教員)が、すばらしいパフォーマンスをして拍手喝采を受ける。その舞台が成り立つためには、舞台装置を作り照明を当てる人がいる。台本を書き、切符を売り、物品を仕入れ、給料を計算し、経営判断をする人がいる。
魅力あふれる舞台が成り立つためには、有能で多彩な職員集団が不可欠である。
一方、最近の学生の職業に対する志向を見てみると、もちろん高い収入を目指してチャレンジする人もいるけれど、むしろ世の中の役に立つような仕事を真面目にやっていきたい、高い収入のために身を削って家庭生活も犠牲にするような職業生活ではなく、仕事も一生懸命して、幸福な家庭も築き、趣味や個人の生活も大事にしていきたい、という良質の学生層があることが感じられる。
そのような学生にとって、大学は好適な職場であろう。特に、仕事も生涯を通して一生懸命やりたいし、幸せな家庭を持ち子育てもしたいという有能な女性にとって、大学は両立を実現しやすい職場である。
今日、国立大学は大きく変わりつつある。一昔前のように、毎日早く帰れる、定年までのんびりすごせる安定した職場だという姿はもはや無い。次々と出てくる課題に対し、あるいは自ら課題を発掘し、知恵を出し、努力を重ね、切磋琢磨していかなければならない職場である。
逆に、各職員が力と個性を発揮し、物事を動かしているという実感を得られる変化の時でもある。なんとしても、能力の高い、やる気のある、積極果敢でチャレンジ精神に飛んだ若者に職員として参加してもらいたいものである。
そのためには、大学という職場の魅力をもう一度考えてみよう。
大学には教員と学生がいる。日々の仕事の場で、世界的に著名な学者や、知的な探究心に富んだ研究者や、青春の喜びや悩みを持ってすごしている学生と出会い、ともに活動するという職場はめったに無い。
企業などの世界で長く活動してきた方々が、最後は教育にかかわる仕事をしたいと希望することがしぱしばある。人の成長に貢献できるというのは大きな喜びであろう。
知的な好奇心に富んだ人にとって、あらゆる学問分野がそろっている環境も貴重である。宇宙の果ての謎から人間の心理の奥底まで、地球環境の変化から人間社会のうごめきまで、あらゆる事柄を研究している人たちが身近におり、学内の仕事の経歴の中で自然に接していくことができる職場である。
教育も研究も、基本に公共的な性格を持っている。直接あるいは間接に、社会のため、日本のため、世界のために役立つ仕事である。であればこそ、国民の税金が投入され、厳しさが増しているとはいえ、基本的には安定した職場である。
同時に今、国立大学はかつて無いほど変化しようとしている。ただの安定した職場ではなく、新しい課題にチャレンジし、新しいアイデアや工夫が次々に求められている、実力本位の職場になりつつある。
そして多くの国立大学は、それぞれの地域では知の拠点として、人々に知られ、頼られ、敬意を払われている職場である。職員が誇りを持って仕事ができる職場である。
世の中に数々の職業があり、それぞれ良い面を持っているが、その中でも大学職員という職業は、適性のある人にとっては恵まれた良い職業だと言えよう。
プロフェッショナルな職員となる
大学という恵まれた職場で、生涯を通して充実した仕事をしてもらうためには、高度な専門的知識や能力を持ち、積極的に行動するプロフェッショナルな職員になってもらわなければならない。
ではどのようにすればプロフェッショナルな職員が出現するのか。掛け声をかけているだけでは進展しないので、具体的な仕掛けを作っていかなければならない。
まず、それぞれの専門分野ごとに必要とされる知識や能力の体系を描いてみる。初めから理想的な人はいないので、レベルに応じていくつかの段階を考える必要があろう。
その知識と能力を養うのに必要な職務経験を人事で実現する。高度な専門性と幅広い視野を両立させることが大切であろう。その分野について、学内にどのような組織があり、どのようなポストがあるのか、全学的に合理性のある組織作りを進める。そしてその専門性の度合いと仕事の達成度を判定する仕組みをつくり、処遇の体系をつくる。これらは大学職員のあり方のトータルな改善の中で実現していくであろう。