このような中、大学情報の社会への公表については、これまで、平成10年の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」において、「大学の教育研究活動に関する情報を社会に対して提供することは、公共的な機関として大学の社会的責務であり、近時、大学の教育研究活動について正確な情報を知りたいとの社会的な関心は急速に高まってきていることから、各大学は、国民の適切な理解を得るために、教育研究活動の状況やその成果、教育研究活動の改革充実に向けた取組の状況を広く社会に対して積極的に公表していくことが必要である」との指摘がなされました。
以降、平成11年には、国立大学の教育研究活動の状況を社会に対して説明する責務を制度上明確化する観点から、国立学校設置法、国立学校設置法施行規則、大学設置基準等の改正が行われ、国立大学の教育及び研究並びに組織及び運営の状況を公表しなければならないとの規定が設けられるとともに、公表すべき内容や公表方法も規定されました。
さらに、最近では、平成17年の「大学における情報の積極的な提供について」(文部科学省高等教育局長通知)、同年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」 、平成20年の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」においても、情報公開の促進に向けた指摘がなされています。
このような状況を踏まえ、各大学は、これまで、大学概要、学生案内等の刊行物、ホームページ等の各種媒体を通じた学内外向けの多様な情報提供の充実を図ってきたところですが、公表する情報の内容、公表方法、受信者のニーズ、双方向性等についての検討や取り組みが未だ不十分として、現在、中央教育審議会大学分科会大学規模・大学経営部会において、大学の自主的な経営改善と財務・経営についての情報公開の促進に関する審議が行われています。
この審議会における配付資料「大学の自主的な経営改善の取組への支援と情報公開の促進についての論点整理(案)」では、大学の設置者が財務・経営情報を公開する際には、財務諸表のみならず、学校経営にあたっての基本理念・目標や入学定員、入学者数などの基本的な情報を明示すべきことなどが検討課題(例)として挙げられています。
また、情報公開については、質保証システム部会でも審議されており、同部会において配付された資料には、「大学が公開すべき情報の項目」として次のような内容が記載されています。
大学が公開すべき情報の項目について
1 法令上の情報公開関係規定
- 自己点検・評価の結果を公表すること(学校教育法第109条第1項)
- 認証評価の結果を公表、文部科学大臣に報告(学校教育法第110条第4項))(※公表義務は認証評価機関に課せられている)
- 教育研究活動の状況について、刊行物への掲載その他広く周知を図ることができる方法によって、積極的に情報を提供(学校教育法第113条)
- 人材の養成に関する目的その他の教育研究上の目的を学則上定め公表(大学設置基準第2条)
- 授業の方法及び内容ならびに一年間の授業の計画を、学生に対してあらかじめ明示(大学設置基準第2条の2)
- 入学定員及び編入学定員を明示(大学設置基準第18条)
- 学修の成果に係る評価及び卒業の認定に当たっては、学生に対してその基準をあらかじめ明示(大学設置基準第25条の2)
2 現在、答申等で公開することを提案されている情報(カッコ内は記載元)
- 大学の設置の趣旨や特色(高等局長通知*1)
- 開設科目のシラバス等の教育内容・方法(高等局長通知、学士課程答申*2)
- 教員組織(高等局長通知、学士課程答申)
- 施設・設備等に関する情報(高等局長通知、学士課程答申)
- 大学に係る各種の評価結果に関する情報(認証評価や自己点検評価の結果等)(高等局長通知、将来像答申*3、学士課程答申)
- 学生の卒業後の進路(高等局長通知、学士課程答申)
- 受験者数(高等局長通知、学士課程答申)
- 合格者数(高等局長通知、学士課程答申)
- 入学者数(高等局長通知、学士課程答申)
- 財務・経営状況(大学規模・大学経営部会で検討)(将来像答申)
- 設置審査関係情報(認可・届出に関する情報、設置計画履行状況等調査報告書)(将来像答申、学士課程答申)
- 学則(将来像答申)
- 入学者受け入れの方針
- 学位授与の方針
- 教育課程の編成・実施に関する方針
- 教育研究業績
- 学生の在籍状況
国立大学の場合、法人化を機に、役員会・経営協議会・教育研究評議会等の会議録をホームページ等を通じて公開する大学が増えてきています。これまで社会に閉ざされてきた大学内部の意思決定システムをさらけ出し、適切な経営、教育研究活動を行っているかどうかを社会の皆さんに評価・検証していただくことは、運営資源を負担している納税者や学生・保護者の立場から見れば、至極当然のことです。この際勇気を持って、教員組織における意思決定プロセス(教授会や各種委員会の会議録)、運営費交付金(税金)の配分のしくみ、配分先・配分額の内訳、具体的な使途とその成果なども「見える化」すべきではないでしょうか。
(関連記事)大学の情報公開指針作りへ 文科省、項目や方法を検討(2009年8月14日 共同通信)
文部科学省は14日、受験者数や入学者数、学生の卒業後の進路などの情報を大学に積極的に公開してもらうため、公開が必要と考えられる項目や方法を定めた指針を作ることを決めた。秋以降、中教審の部会で議論する。
指針を示すことで受験生の進路選択の参考になるほか、大学側も積極的に改革に取り組み教育内容を向上させる結果になることを狙う。
全国に765ある大学すべてがホームページで情報を公開しているが、多くは学部や教育内容の紹介といった基本的な情報にとどまっているのが実情。文科省は学生や教員の数、財務状況、外部評価の結果などを指針に盛り込むことを想定している。
文科省は「社会への説明責任を果たすために積極的な情報公開が必要」として、公開が不十分な場合、ペナルティーの必要性も考慮。情報公開に向けて学部や学科、研究室の情報をまとめる専門部署設置の支援も検討している。
http://www.47news.jp/CN/200908/CN2009081401000030.html