政権与党である民主党がマニフェストに書き込んだ公約がいかにして実現するか注目されるところですが、政策実現のための財源確保は、景気の悪化を受けた税収の大幅落ち込み等の影響もあって、思いのほか大変なようです。
再提出された概算要求のフレームについては、財務省のホームページ(2009年10月16日「マニフェスト(「三党連立政権合意書」を含む)を踏まえた平成22年度一般会計概算要求額」)に掲載されてあります。(内容は全く見えませんが・・・)
このうち、大学関係者にとって気になる高等教育関係予算については、国立大学協会のホームページ(会員専用ページ)に掲載されてありましたので、主な内容を抜粋(一部編集)しご紹介したいと思います。
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平成22年度文部科学省概算要求の概要
1 概算要求額
- 一般会計 57,562億円+α(対前年度4,745億円+α増)
2 要求に関する基本方針
- 平成22年度概算要求においては、特にマニフェストや総理指示に基づく施策に重点的に取り組み、知識社会において最も重要な社会全体の資産である知的財産(ソフト)と人材(ヒューマン)への効果的な投資iこ厳選。
- 一方で、既存事業を「見直しの観点」に基づきゼロベースで見直し、事業数の削減など徹底的な見直しを実施。
3 文教関係
文部科学大臣就任時の総理指示を踏まえ、
- 高校を実質無償化し、大学は奨学金を大幅に拡充するなど、教育にかかる国民の負担を軽減し、すべての意志ある人が教育を受けられる仕組みの構築
- 将来の日本を支える人材を育てるため、教員の資質や数を充実することなどによる質の高い教育を実現する施策を展開。
▼マニフェスト工程表関係事項
(1)高校の実質無償化 4,624億円(新規)
1)高等学校等就学支援金 4,501億円(新規)
国公立高校生のいる世帯に対し、授業料相当額を助成して実質的に授業料を無料にするとともに、私立高校生等のいる世帯に対しても同等額を助成。年額118,800円以内(低所得世帯に対しては237,600円以内)
2)高校奨学金事業等の充実・改善 123億円(新規)
高等学校等就学支援金の支給とともに、高校の実質無償化を図るため、各都道府県に対し、従来の奨学金に加えて入学時に必要な経費などを対象とする就学支援策(給付型奨学金等)を付加的に行うために必要な資金を交付。
- 対象者:収入350万円以下の世帯の生徒等 約45万人
- 対象費目:入学科、教科書費
医師不足解消に向けた医学部定員増に伴う教育環境の整備などの取扱いについては、今後の予算編成過程で検討する。
(3)大学奨学金等の充実 ※事項要求
無利子奨学金貸与人員の増などの取扱いについては、今後の予算編成過程で検討する。
▼主要事項(高等教育の基盤整備と質の向上)
(1)国立大学法人運営費交付金 11,708億円(13億円増)
医学部定員増に伴う教育環境の整備充実や、授業料免除枠の拡大(全学免除換算5.8%→6.3%)、救急医療・周産期医療等地域医療のセーフティネットである診療部門への重点支援等を図りつつ、国立大学法人の基盤的経費を確保。
(2)国立大学法人等施設整備費 451億円(10億円増)(他に、財政融資資金 390億円(13億円増))
耐震化等の老朽再生等の対策が必要な事業のうち、真に緊急性の高い事業に厳選。
(3)私立大学等経常費補助 3,222億円(4億円増)
授業料水準の抑制、経営の健全性の向上、教育条件の維持向上のため、私立大学等の運営に必要な基盤的経費を確実に措置するとともに、医師不足の解消等や経営基盤の強化に取り組む大学等を重点的に支援。
(4)私立高等学校等経常費助成費等補助 1,043億円(4億円増)
各都道府県が、地域の実情に応じて低所得者世帯の私立高校生への授業料減免補助を引き続き実施できるよう、国庫補助を充実。
(5)私立学校施設・設備の整備 192億円(▲8億円)
地震により倒壊の危険性がある私立学校施設のうち耐震性の低い施絞(Is値0.3未満)を優先した耐震化等を推進するとともに、教育研究機能の高度化のための施設・設備の充実や低炭素社会の実現に向けた私立学校施設の整備の推進を図る。
(6)アジア等における高度産業人材育成拠点支援事業 10億円(新規)
第2回日中韓サミット(平成21年10月10日)において、三国の大学間交流の促進が合意されたことを踏まえ、アジア地域等からの外国人学生を受け入れ、産業界と連携して、アジア等で急速な成長が期待される、先端技術分野等で実践的な教育を提供する取組を重点的に支援。(10拠点)
▼その他新規事項等
(1)初等中等教育関係
1)コミュニケーシヨン教育の拠点充実 1億円(新規)
学校教育におけるコミュニケーション教育の充実を図るために拠点校・拠点地域を指定し、実践的研究を実施し、その成果の普及を図る。
- 民間団体等と連携・協力した演劇などによるモデル授業の展開
- 国際社会で地球的視野に立って主体的に行動できる人材の育成
学校や教育委員会における新型インフルエンザ対策の具体的な方策について指導参考資料を作成・配付(60万部作成 幼稚園~大学に対し各10部配付)するとともに、在外教育施設に対する健康管理マニュアル等の整備を行う。
3)高等学校に通学する離島出身の生徒に対する寄宿舎等居住費 6億円(新規)
中学校を卒業して高校に進学する者で、やむを得ず、自宅を離れて通学しなければならない者に対する居住費を市町村が負担をしている場合に、一定割合を国が補助。
(2)科学技術関係
1)先端的低炭素化技術開発 35億円(新規)
鳩山イニシアチブ(1990年比で2020年までに温室効果ガス25%の削減)の達成、その後のさらなる温室効果ガスの削減に向けて、低炭素技会の実現に必要な革新的技術の研究開発を行う。
2)低炭素社会実現のための社会シナリオ研究 3億円(新規)
産業構造、社会構造、生活様式等の相互連関や相乗効果の検討等を行い、低炭素社会実現に向けた研究開発の方向性等を提示する。
3)科学研究費補助金 2,000億円(30億円増)
人文・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたり、あらゆる学術研究(研究者の自由な発想に基づく研究)を支援する。
4)戦略的基礎科学研究強化プログラム(仮称) 20億円(新規)
潜在能力の高い研究者を国内外のノーベル賞級研究者等が厳選し、長期(最長10年)にわたり、基礎研究を支援する。
5)ポストドクター等の参画による研究支援体制の強化 10億円(新規)
特色ある優れた研究活動を行う大学等において、ポストドクター等の高度専門人材の参画による研究マネジメント・技術支援体制の強化を図る取組を支援する。
6)産学官連携による地域イノベーションクラスター創成事業(仮称) 15億円(新規)
地域をフィールドに研究開発から技術実証、社会還元まで一貫した研究開発・社会実装システムを構築し、地域における新たなイノベーションの創出及び地域実装を図る。
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なお、文部科学省所管全体の削減・見直し額は、▲640億円であり、その内訳は次のようになっています。
- 事業仕分けによる指摘事項 ▲53億円
- 独立行政法人・公益法人向け支出 ▲83億円
- 類似事業の整理・統合 ▲116億円
- 決算結果の反映などその他の見直し ▲388億円
- 施設整備:新たなハコモノ整備事業の着手については凍結
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なお、残念なニュースですが、今回の概算要求の見直しに伴い、平成22年度科学研究費補助金の新規募集課題が以下のとおり公募停止になったようです。
平成22年度科学研究費補助金の新規募集課題の公募停止について(2009年10月16日 文部科学省)
平成22年度科学研究費補助金については、一部研究種目を除き本年9月から公募を開始しておりますが、平成22年度「概算要求の見直し」に伴い、下記研究種目については平成22年度の新規募集課題の公募を停止することとなりました。つきましては、本件を貴研究機関に所属される研究者に周知いただくとともに、今後、応募研究課題(研究種目)の変更を希望される方の手続き等に際し、貴研究機関内における締切り等についてご配慮くださいますようよろしくお願い申し上げます。なお、下記研究種目の「研究計画調書」の提出(送信)が既に完了している方については、当該応募情報を取り消すことを予定していますが、その方法等については、準備が整い次第あらためて通知させていただきます。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/1285813.htm
(関連記事)国の予算の都合で科研費公募停止(大学に関する話題日記)
http://d.hatena.ne.jp/daigaku_jiken/20091017#p4
(関連報道)