この予算のうち、教育や科学技術に目を移せば、これまで、行政刷新会議による事業仕分けで、予算の大幅削減などが打ち出された事業の関係者、とりわけ学界を中心とした個人やグループが記者会見し、来年度の予算確保を求める声明を発表するなど、従来にはなかった抗議活動が積極的に展開されてきました。
様々な要因が考えられますが、国立大学が法人化された際、国立大学全体としての自主性・自立性に基づいた判断ができず、声を上げる前に政治や行革に押し流された苦い経験が今回のような行動を誘引したこともその一つになっているかもしれません。
また、声明は、予算の縮減で、教育研究水準の低下や優秀な学生の確保・育成が損なわれ、地域における高度人材育成の中核拠点が崩壊するといった内容がほとんどで、国立大学の場合、法人化後、運営費交付金が毎年1%づつ削減されるなど、大学経営上の深刻な状況が続いてきただけに、事業仕分けの結果がそのまま予算化されることに対する危機感が学長さん達にこういった行動を決断させたのかもしれません。
地方大学に比べれば、資金的にさほど困窮していないであろう東京大学までもが、大学のホームページに「明日の日本を支えるために-教育研究の危機を越えて-」と題する特設コーナーを設けて社会に訴える活動を行ったほどですから、事の深刻さがひしひしと伝わってきます。
さて、去る12月14日(月曜日)に、九州地区国立大学の学長さん達が共同記者会見を行ったことをもって、全ての国立大学の声明発表がひととおり終わりました。各地区の声明文を全て通読してみましたが、各地区の主張そのものは全く同感、国民の皆さんにも十分理解していただける内容ではないかと思いますし、随所にそれぞれの地区の特色というか、代表で執筆された学長さんの強い思い入れが表れていたような気がしました。しかし、僭越ながらあえて苦言を呈するならば、「教育」「学生」「人材育成」「人づくり」といったキーワードよりも、「研究」「科学技術」「経済」「競争」「地域社会」といったキーワードが多用され、「教育者よりも研究者の目線」で書かれた文章という印象を強く持ちました。大学教員の発想は相変わらず世間離れしているようです。
また、これらの主張がどこまで説得力があるのかについては、大学に身を置く立場としては、やや疑問に思うところがあります。この日記でも既にコメントしたことがあり繰り返しになりますが、果たして各国立大学は本当に真剣に血の出るような経営努力をしているのか、学長さんたちの主張と大学経営の実態に乖離があるのではないかという疑問です。
今国立大学においては、確かに国の時代に比べれば、いわゆる「人、物、金、スペース」といった資源の不足感は否めませんし、声を大にして社会に訴えることも必要なことですが、それでは国立大学(の学長さん)は、国立大学とは縁もゆかりもない社会の人達、あるいは、私立大学に多額の授業料を負担している保護者からいただく運営費交付金という名の税金を無駄なく効果的に使っているのかと問われた時に、果たして1円単位できちんと説明や証明ができるのか甚だ疑問の点があります。
国立大学の経営トップである学長さん方は、これまで、運営費交付金の削減で「資金が足りなくなり、教育研究や学生サービスに悪影響が出た」「教職員の定年退職後不補充により、特に卒業研究指導など教育への悪影響(が出ている)」「交付金の削減をやめ増大に転じることが必要」「高等教育の公財政投資を欧米並みに、現在の国内総生産(GDP)比0.5%から1%に増加させることが必要」といった国民の心に全く響かない具体性のない言葉のつながりを、教員出身者らしく能弁に語ってきましたが、それだけでは全く説得力がありません。「私達はここまでこういった努力や改革をやってきた、しかしそれもこういった点で限界域に達している」ということを、客観的なデータなど、誰もが納得できる具体的なエビデンスに基づいて説明しなければ誰も理解してくれないのではないかと思います。多額の税金や学費によって賄われていることの意味を、大学のホームページ等できちんと説明している国立大学はまだまだ少数のような気がします。
大学の中には、学長さんや役員さんの目には留まらない、留まってもあえて放置されている「あるべき姿と実態との大きな乖離」(=緊急に解決すべき課題)がいくつもあります。また、大学の外からみた評価や会計検査院による無駄遣い検査において、毎年のように指摘されているにも関わらず手をこまねいている課題も少なくありません。今の国立大学には、予算(税負担)の増額を国民に求める前に改善しなければならない課題が山ほどあるのではないでしょうか。
法人化後、国立大学の財務会計制度が格段に改善されました。年度内に消化できない予算については、「経営努力」という美名のもとに翌年度に繰り越して使用することが可能になりました。文部科学省が国立大学に繰り越しを承認した金額は、キャッシュベースで約1,500億円(平成19年度現在)に上ります。
なお、このお金は、平成22年度からの次期中期目標期間には繰り越せないしくみになっていますから、全国の国立大学では、今年度中に全ての積立金(税金)を無理やり消化することになります。予算消化(予算の無駄遣い)に奔走するという悪弊の時代に逆戻りすることになります。予算が厳しく教育に支障を来しているという学長さん達のコメントとの整合性を国民はどう理解すればいいのでしょうか。
それでは、日本の北から順に学長さん方の主張をそのまま全文ご紹介しましょう。皆さんはどのようにお感じになりますか。
◇
北海道地区(北海道、北海道教育、室蘭工業、小樽商科、帯広畜産、旭川医科、北見工業の7大学) (平成21年12月2日)
大学界との「対話」と大学予算の「充実」を -平成22年度予算編成に関する緊急アピール-平成22年度の予算について、これまでに行われた事業仕分けの結果やこれを受けての行政刷新会議の議論に接し、今後行われる予算の編成に向けて、道内の7国立大学は下記の点について緊急のアピールを行います。
記
1 大学予算の縮減は、国の知的基盤、発展の礎を崩壊させます。
わが国の高等教育への公財政支出の対GDP比、政府支出に占める投資額の割合などの指標は、先進諸国中最低レベルの水準です。総理は、所信表明演説の中で、「コンクリートから人へ」の投資の転換を強調されました。資源小国であるわが国にとって国力の基盤は何よりも「知」と「技」にありますから、今後の国づくりは、国家の知的基盤である大学の教育研究の振興を抜きには考えられません。大学に対する公的投資の拡充に向け、政治のリーダーシップを強く発揮されることを切に望みます。
2 国立大学財政の充実に関する基本姿勢を貫いて下さい。
道内7国立大学における運営費交付金は、5年間で73億円の減少、道内単科大学の2校分の消失に相当します。選挙時の民主党の政策文書には、「世界的にも低い高等教育予算の水準見直しは不可欠」、「国立大学法人に対する運営費交付金の削減方針を見直し」等の記述があります。
日本の教育研究の水準の維持・向上、教育の機会均等の確保に関わる国立大学の存在意義に照らして、「見直し」の原点に立ち返ったご対応(削減方針の撤廃、国立大学への投資の充実)を願う次第です。
3 政府と大学界との「対話」は、大学政策にとって必須不可欠です。
大学は、公共的な使命を果たし、社会に貢献し得る存在です。他の分野にも増して、大学に関わる政策形成過程は、透明で開かれたものであるべきであり、それには政府と大学界との緊密な「対話」が必須不可欠であると考えられます。
今後、国立大学政策に関して政府と大学界は、新たな国づくりに向けた対話を深めることが最も大切です。
終わりに
北海道の国立大学は、それぞれの地域に根ざし、地域と一体となって、教育・文化の振興、地域を支える人材の育成、産業の発展、地域医療の充実などに取り組んでいます。今後とも北海道の国立大学が「知の拠点」として、重要な役割を果たしていくためには、若手研究者育成、先導的な教育研究等を推進するための各種競争的資金、地域科学技術振興予算、運営費交付金等の確保・充実が必須であり、平成22年度予算においても、必要な予算が確保されるよう、ご理解とご支援を切にお願いいたします。
◇
東北地区(弘前、岩手、東北、宮城教育、秋田、山形、福島の7大学)(平成21年12月8日)
大学予算の充実で地域の知的基盤の強化を全ての国立大学法人を会員とする国立大学協会は、さる11月26日「大学界との『対話』と大学予算の『充実』を」とした、平成22年度予算編成に関する緊急アピールを発表しました。これは、これまでの概算要求の内容や予算編成の動向、さらに行政刷新会議の下で行われた事業仕分け結果に対し、以下の三点について意見表明したものです。
- 大学予算の縮減は、国の知的基盤、発展の礎を崩壊させます。
- 国立大学財政の充実に関する基本姿勢を貫いてください。
- 政府と大学界との「対話」は、大学政策にとって必須不可欠です。
しかしながら、先の行政刷新会議における事業仕分けにおいて、「地域科学技術振興・産学官連携」関連事業が廃止となり、「競争的資金(先端研究)」や「国立大学運営費交付金(特別教育研究経費)」が予算縮減となったことは、地方国立大学が地域において築いてきた知的基盤を脅かすものであり、事態を深く憂慮するものです。
これらの事業の廃止・削減により、地域から大学に寄せる負託に十分応えることが出来なくなり、ひいては地域の知的創造サイクルに重大な影響を与えることが懸念されます。関係者の方々には、上記の点をご賢察の上、地方における国立大学の存在意義に照らして、関係事業の継続及び関係予算の確保・充実を図るなど、地域の高等教育及び科学技術の振興に係る各施策の推進について、積極的なお取組みをいただくことを切に願うものであります。
◇
東海・北陸地区(富山、金沢、福井、岐阜、静岡、浜松医科、名古屋、愛知教育、名古屋工業、豊橋技術科学、三重、北陸先端科学技術の12大学) (平成21年11月27日)
地域を支える人材育成と研究開発(共同声明) -最先端技術を支える国立大学の基礎研究力を次世代へ-現在、平成22年度の概算要求総額95兆円を削減するために、行政刷新会議による「事業仕分け」作業が行われました。そこでは、可能な限り無駄な支出を排除するために、様々な角度から予算案の見直しが検討されています。こうした作業などは、国の予算配分にあたって、国民に対して透明性を高めるという観点から意義のあるプロセスであると考えられます。しかしながら、資源の乏しい我が国が、国家の将来を託すために行っている政策的投資、例えば、人材育成、学術の推進、研究開発、国際化などが、当面する予算削減の視点と即効性の観点から議論されることに、われわれ東海・北陸地域において教育・学術研究を担う大学人として大きな危惧の念を抱いております。
人材育成
国立大学は、教育の機会均等を担う公共的性格の下で、優れた教育を提供し、人材の育成に寄与しています。地域になくてはならない優れた資質を有する医師や教員の養成もその大事な役割です。特に、この東海・北陸地域は、自動車産業を初めとして材料、エレクトロニクスなどの最先端技術開発を必要とする様々な基幹産業のみならず、農業、水産、製薬などの地場産業に及ぶ幅広い分野で日本の発展を支えています。そこで中心となって働いている人々の多くは、地域の要請に応え、我々が育ててきた人材であると自負しており、地域に根ざした大学の存在を無視して語ることは出来ません。
基礎研究の重要性
昨年は、名古屋大学関係者がノーベル賞を同時に受賞するというビッグニュースが日本中を駆け巡りましたが、こうした研究の成果も、一朝一夕に可能になるものではなく、十数年から、時には数十年にわたる地道な研究活動があって初めて達成された快挙です。また近年、省エネルギー・CO2排出量の削減は、国家的な重要課題となっていますが、例えば、LEDによる照明は、まさに省エネルギー・CO2排出量の削減に大きな役割を果たしています。これは、本年京都賞を受賞された赤﨑勇博士(名古屋大学特別教授)の二十数年にわたる息の長い研究の成果が「青色発光ダイオード」の発見に繋がり、その後、幾多の研究者の努力によって初めて実現したものであります。
大学の地域貢献
各大学は、地元産業界との共同研究などにより優秀な人材の育成や再教育を行うとともに、研究成果の還元により様々な機能を支え地域の発展・活性化に貢献しています。例えば、福井大学では福井県内を中心に企業215社と連携、産学官連携プロジェクト・共同研究プロジェクトを推進し地域産業の活性化に資するとともに、福井県の教員数の4割、医師数の3割、エンジニア・科学研究者の3割を大学の卒業生が占めています。
憂慮すべき事態
ここで挙げた例は、大学が日本を支える産業、技術革新、学術研究で果たしてきた役割のほんの一部でしかありません。そして、それは日々の継続的、かつ地道な努力によって積み上げられてきたものばかりなのです。万に一つでも、目前の予算的都合からその価値を忘れ、ないがしろにするようなことが始まるとすれば、それは、今後数十年の長期にわたって、日本経済や産業、特に先端技術開発に大きなダメージを与え続ける事が危惧されます。
法人化以降、毎年運営費交付金が1%減額され、今年度の運営費交付金は、法人化初年度と比較して720億円が削減となっています。各大学では、様々な経費節減努力を行ってきましたが、限界に達しています。この状況が続くと地域の教育・研究・医療の拠点としての機能が弱体化し、地域の発展を阻害しかねない状況となります。
日本の高等教育への公財政支出(対GDP比)は、OECD加盟国中最下位であり、高等教育費の伸び率は、OECD加盟国中、日本が唯一のマイナス(△2.6%)とのことであります。一方で、欧米や中国などを中心に各国は、現在の経済危機を乗り越え、さらに国家の持続的発展のための戦略に基づいて大学予算を含む教育研究・学術関連予算の大幅な引き上げを行っています。資源の乏しい日本が生き残るには、技術発展を生み出す「人」への投資が不可欠です。このような中、知識創造の源である高等教育機関への投資をひとり日本のみが減らし続ければ、世界の中で日本は着実に落伍していきます。
まとめ
こうした状況に危機感を抱いた東海・北陸地域の国立大学の学長が、本日、一堂に会し、共同声明を発表することになりました。政策決定過程の透明性を高める試みの意義は否定しませんし、また、私たちは各種業務の効率化や経費節減などの改革努力を今後も惜しまず実行してまいります。
政府におかれましては、われわれの声や幅広い国民の声に耳を傾けていただき、大学界との密接な対話などにより我が国の持続的発展と国際社会における役割を再度確認され、日本が進むべき方向とその将来像を明確にした上で、教育研究・学術予算を吟味されることを強くお願いするものであります。
◇
中国地区(鳥取、島根、岡山、広島、山口の5大学)(平成21年12月9日)
-国家百年の計における国立大学再生を-(共同声明)財政状況が厳しい我が国において、平成22年度予算の編成に向けて、新たな手法である行政刷新会議による「事業仕分け」は、国民に対して透明性を高めるという観点から意義のあるプロセスであると認識しております。
しかしながら、行政刷新会議ワーキンググループの事業仕分け評価結果では、大学関係の基盤的経費、学術・科学技術振興予算など高等教育機関としての大学が果たすべき役割・機能が衰退するような根幹に係る予算の削減や見直し等が提案されております。今回の事業仕分けについては、当面する予算削減の視点と即効性の観点から議論され、また、国立大学への事実誤認もあります。地方において未来社会を担う人材育成と人類の発展に資する科学研究を推進し地域貢献を使命とする高等教育機関の責任者として、資源の乏しい我が国においては、「人材」が国の基盤をなし、その人材育成を支えているのは国立大学です。明治期以来の我が国の高等教育施策の根幹をなし、国の発展の原動力となっているのは周知の事実です。
このままでは、とりわけ地方国立大学の衰退が危惧されます。そこで、以下の要望について、政府責任者として国家百年を見据えた長期的な視点に立ち、国立大学のこれまで果たしてきた役割・実績や重要性をご認識いただき、内閣として政治主導のご判断をいただきますよう強く要望いたします。
人材育成の確保
国立大学は、教育の機会均等を担う公共的性格の下で、優れた教育を提供し人材の育成に寄与しています。地域になくてはならない優れた資質を有する教員、医師、法曹人の養成も大事な役割であります。特に地方国立大学においては、比較的低所得者層の子弟を多く受け入れて教育の機会均等に大きく寄与しており、昨今の経済不況の中にあって、その役割とともに地域社会からの期待も一層増しています。
ワーキンググループの評価結果に基づく事業仕分けにより施策が行われると、各国立大学の教育研究水準の低下や優秀な学生の確保・育成・輩出が損なわれ、地域における高度人材育成の中核拠点が崩壊しかねません。このことは、地域が期待する教員・行政・企業・医療現場などで活躍する優秀な人材育成、高度で先進的な医療の提供、地域企業等への研究成果の還元にも大きな影響を与えることとなります。
基盤研究の推進
国立大学は、高度な学術研究や科学技術の振興を担い、国力の源泉としての役割を担ってきました。特に地方国立大学は、地域へ安定的かつ持続的に大きな経済効果を発揮しており、大学の研究による「新しい産業の創出と地域産業・地域文化の活性化」という地域の未来に繋がる経済基盤の創出や安心安全社会の実現という重要な役割を果たしています。
第3期科学技術基本計画の中で科学技術の戦略的重点化として、基礎研究の推進の重要性が謳われています。第4期においても、引き続き基礎研究の充実・拡充の方向で議論がなされていると承知しております。人類の英知を生み知の源泉となる基礎研究は、その研究成果が人類社会の課題解決に資するとともに、長年にわたる地道な研究活動の成果により日本人研究者がノーベル賞を受賞されたことは周知の事実です。
ワーキンググループの評価結果に基づく事業仕分けにより施策が行われると、学問分野を問わず、基礎研究や萌芽的な研究の芽を潰すなど、これまで積み上げてきた我が国の国立大学の研究基盤が歪みを生じ、やがては根底から崩壊することが危惧されます。その結果、地域や国全体の経済成長の衰退、さらに国際競争力の低下に繋がり科学技術創造立国としての価値がなくなることとなります。
以上のように、中国地方の各国立大学では、世界水準の教育研究活動を推進するとともに、地域の特色を活かした教育研究や地域のニーズに応えるための様々な取り組みを積極的に展開しています。これらの取り組みの基盤的経費である国立大学運営費交付金の毎年度の減額に対して、各大学では教育研究経費の削減、人員の効率化を図りながら懸命な経営努力に邁進しているところであります。
選挙時の民主党の政策文書には「世界的にも低い高等教育予算」や「国立大学法人に対する運営費交付金の削減方針」の「見直し」との記述があり、また、これまでの国会審議においてもこの方針に沿った対応がなされたものと承知しております。
国立大学法人の果たしてきた役割や重要性をご理解いただくとともに、内容について再度精査いただき、教育研究基盤確立のため、内閣として政治主導の判断をいただきますよう強く求めます。
◇
四国地区(徳島、鳴門教育、香川、愛媛、高知の5大学)(平成21年11月30日)
四国地域の国立大学における教育研究水準の維持・向上等について(共同声明)四国地域の各国立大学では、世界水準の教育研究活動の推進とともに、地域の特色を活かした教育研究や地域の企業・住民等のニーズに応えるための取組を積極的に行っております。
さて、先般の行政刷新会議WG「事業仕分け」では、科学技術の振興事業、大学の教育研究にかかる各種経費、事業について「廃止」、「予算要求縮減」等が結論づけられております。
各大学では、これまでに国立大学の基盤的経費である運営費交付金の毎年度1%の削減により、教育、研究、診療に多大な影響が及んでいるところですが、今回の「事業仕分け」で俎上にあがった各種経費、事業は、教育研究水準の維持・向上、特色ある教育研究活動の推進及び地域貢献に不可欠なものであり、それらの廃止、縮減等は、特に教育研究基盤が脆弱な四国地域の各国立大学の教育研究水準の低下、教育研究基盤の崩壊をひきおこし、地方における優れた高等教育を受ける機会を失わせることになります。さらには大学の機能低下による地域への貢献の減退、ひいては地域経済の浮揚や県民生活の向上に悪影響をもたらします。
四国地域での優れた高等教育機会の確保、教育研究水準の維持・向上、特色ある教育研究の萌芽を育て、振興するために、下記のように平成22年度予算における大学に対する公的投資の確保・拡充を強く要望します。
記
1 大学予算の縮減は四国地域における高等教育機関、四国発の特色ある教育研究、地域の発展の礎を崩壊させます
四国地域の各国立大学は、優れた高等教育機会の確保、特色ある教育研究推進、地域医療の充実、地域の企業等との共同研究推進など、多様な分野における世界的な教育研究活動とともに地域の発展の礎としての機能を果たすべく腐心してまいりました。
これらの取組の基盤的経費である国立大学法人運営費交付金の毎年度の減額に対して、各大学では経営努力により教育研究経費の削減、人員の効率化を図ってまいりましたが、この削減方針が続く場合には大学の運営基盤が崩れ、各分野にわたる教育研究水準や学生支援の低下をもたらすものと思われます。これは、地域が期待する力量のある教員、行政・企業・医療現場等で活躍する優秀な人材の育成・確保、地域住民への高度で先進的な医療の提供、地域企業への研究成果の還元等にも大きな影響を与えることとなります。
各国立大学が、先端的、個性的、魅力的な教育研究環境づくりに取り組むことができるよう、教育研究活動及び経営基盤である国立大学法人運営費交付金について、従来の削減方針の撤廃、予算の拡充を強く要望します。
2 競争的資金(科学研究費補助金、グローバルCOE、GP事業等)の拡充が必要です
科学研究費補助金、グローバルCOE、GP事業、学術国際交流事業その他競争的資金は、運営費交付金とならんで国立大学が先端的、個性的な取組を進めるための教育研究資源の重要な柱となっています。
先日の「事業仕分け」では、各種制度の統合・合理化、予算要求の縮減等の評価結果とされていますが、この結果は、特に地方国立大学にとっては、
- 競争的資金獲得競争でのスタートラインからの脱落
- 特色ある教育研究の推進の停滞
- GP経費を活用した先導的かつ当該大学で不可欠な教育改革の取組の衰退
- 現在進行中の個性的な大学教育・学生支援事業にあっては、今まで構築されてきたシステム、軌道に乗りつつある組織的な取組の継続が困難
- 若手研究者をはじめとした各研究者の教育研究活動の減退、教育研究環境の魅力の減少による優秀な研究者の確保が困難
- 大学のみならず地域全体の国際化の停滞
- 企業との共同研究を行う際にも、基幹となる研究成果が必須であり、仮に国からの競争的資金が大幅に減少されれば、教員の研究のみならず、研究を通じた学生の教育、共同研究、受託研究にも影響を与え、地域への人材供給、成果の還元
このため、各種競争的資金制度を柔軟なものとする方向での調整にご尽力頂くとともに、関係予算の拡充を要望します。
3 地域科学技術振興・産学官連携関係事業の廃止は地域における産学官連携を崩壊させます
「事業仕分け」評価結果では関係事業が全て廃止とされていますが、対象となる「知的クラスター創成事業」、「都市エリア産学官連携促進事業」、「地域イノベーション創出総合支援事業」は大学と県内企業の研究者と共に共同研究を推進し、大学の基礎研究成果を地域へ還元する取組です。地域に立脚する四国の大学として当該事業が廃止されることは、地域との連携のツールを失うことであり、地域経済の活性化に対しても極めて憂慮すべきことと考えております。
また、「産学官連携戦略展開事業」は、地域における産学官連携コーディネータの配置等により、民間での経験と高い識見を持つ者を大学として活用するプログラムでありますが、これらの事業が中止されることは各地域で整い始めた産学官連携体制を後戻りさせることとなります。このように一定期間内に計画を立てて進めている研究や各種事業について、人件費に関わる部分など最低限必要な経費は継続いただくよう強く要望します。
◇
九州地区(福岡教育、九州、九州工業、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、鹿屋体育、琉球の11大学)(平成21年12月14日)
地域の知の拠点である大学への公的投資の充実を -平成22年度予算編成に関する共同声明-資源に乏しい我が国が、人口減少下においても持続的な成長を可能とするとともに、地球規模の課題解決に先導的役割を果たしていくためには、その核となる人材を育成し、新たな価値や技術を絶えず創造していくことが必要不可欠であります。その中で、大学は学術の中心として、創造性豊かな優れた人材を育成し、新たな「知」を創出、継承するという社会的責務を担っています。
先般、平成22年度予算編成に向け、行政刷新会議の下で試みられた「事業仕分け」作業において、高等教育や学術研究に係る多くの事業について縮減や見直し等の方針が示されました。科学技術や教育の分野も含め、予算編成過程の透明性を高めていくことは大切なことであります。しかしながら、人材育成や教育・研究活動は継続性が重要であり、またその成果が社会に還元されるまでに時間を要することが少なくないことを理解していただいた上で、中長期的な展望に立った戦略的なビジョンを明らかにし、それに沿って議論が行われる必要があると考えます。国際的な競争が激化する中で、仮に我が国だけが大きな中断をするような事態となれば、我が国の持続的な発展や世界の中での我が国のプレゼンスに取り返しのつかない深刻な影響が出かねないと、危惧の念を抱いています。
このため、国家百年を見据えた長期的な視点に立った、大学や科学技術分野に対する公的投資の確保・拡充に向け、地域の皆様をはじめ多くの国民の方々に、下記各事項の重要性についてのご理解とご支援をお願いします。
1 国立大学運営費交付金等公的投資の充実
知識基盤社会において我が国社会が持続的な発展を続けていけるよう、新たな「知」につながる基礎的な研究活動を担うとともに、産業界をはじめ社会のあらゆる場で活躍できる多様な人材を絶えず育成、輩出することが大学に求められています。このような社会の要請を受け、九州地域の各国立大学法人においても、それぞれの個性・特色を活かした組織的・体系的な教育研究、医療活動が展開されています。
その一方で、大学における教育研究を支える基盤的経費は減少傾向にあります。法人化以降、国立大学法人運営費交付金は毎年1%減額され、平成21年度の運営費交付金は法人化初年度と比較して720億円の削減にも及び、その規模は福岡教育大学、佐賀大学、熊本大学、宮崎大学、鹿児島大学、鹿屋体育大学、琉球大学の7学分の運営費に相当します。これまで各大学では様々な経費削減努力を行ってきましたが、仮に運営費交付金や特色ある教育研究の取組みを支援するプログラムの予算が大幅に削減されることとなれば、教育研究の水準の維持・向上は困難となり、国際競争の中で我が国の大学の地位の低下は必至と考えられます。
選挙時の民主党の政策文書(「民主党政策集INDEX2009」)にも、「先進国中、著しく低いわが国の教育への公財政支出(GDP(国内総生産)比3.4%)を、先進国の平均的水準以上を目標(同5.0%以上)として引き上げていきます。」、「国公立大学法人に対する運営費交付金の削減方針を見直します。」と明記されています。新政権発足に際してこの政策が実行されることを当然ながら期待していました。長期的な展望に立って、大学における教育研究の充実のための公的投資が着実に拡充されることを切に願います。
また、高等教育機関への公的投資に当たっては、次代を担う「人づくり」を充実する必要があります。特に、優秀な学生が安心して進学し、教育・研究に専念できるよう十分な給付型の経済支援の充実が重要です。
2 科学研究費補助金の抜本的拡充
イノベーションの源泉は研究者の自由な発想に基づく研究活動にあり、新たな「知」を創造し続ける多様で重厚な知的基盤があってこそ、学問が発展し、社会経済に大きな変革がもたらされます。ノーベル賞を受賞された日本人研究者の研究成果からも明らかなように、長年にわたる研究の試行錯誤や切磋琢磨の中から、多くの新たな「知」や革新的な技術が生まれています。
基礎研究に対する投資の中でも、「科学研究費補助金」は制度発足以降、あらゆる分野にわたって大学等の研究者の自由な発想に基づく研究活動を支え、我が国の基礎科学力の強化において重要な役割を果たしていますが、近年、応募件数が増加する一方で科学研究費補助金の直接経費は伸びず、結果として新規採択率は低落傾向にあり、研究者個人に配分される研究経費も減額されています。また平成22年度の「概算要求の見直し」に伴い、すでに「若手研究(S)」と「新学術領域研究(研究課題提案型)」の新規課題募集が停止されていますが、これによる若手研究者の育成や新しい研究課題の提案に大きな影響が出ることは必至です。
諸外国が基礎研究への公的投資を拡大している状況において、仮に我が国がこれまで以上の予算の縮減を行った場合、我が国の国際競争力の低下が危ぶまれます。絶えざるイノベーションの創出のためには、目先の成果にとらわれず、研究開発の萌芽期を支える公的投資の着実な拡充が必要不可欠であります。
3 地域社会に貢献する大学への支援強化
地域の人材・知識が集積するいわば「知の拠点」である大学が、地域の中小企業や地方公共団体と協同して地元産業の技術課題や新技術創出に取組むことは、大学等の萌芽的な基礎研究活動を通じて創出された研究成果をイノベーションに結び付け、社会に還元していく手段として有効であり、大学を核とした人材の創出と地域活力の好循環を形成するものとして期待されています。また、平成18年に改正された「教育基本法」では、これまでの教育・研究という基本的役割に加え、「大学で生まれた成果を広く社会に提供し、社会の発展に寄与する」ことが大学の役割として明記されました。九州地域においても、近年、各大学を中心とした様々な産学官連携による取組みを通じて、地域産業の発展を牽引する人材の育成や魅力ある地域社会づくりが活発化してきています。
一方、先日の「事業仕分け」作業の議論においては、「地域科学技術振興・産学官連携」事業については「廃止」との方針が示されました。しかしながら、これらの事業を通じて、各地域では大学と地域の中小企業とが協同した技術開発や地域の課題対応のための研究活動、またそれらの活動を通じた人材育成が着実に進められ、成果が集積されてきています。例えば、福岡県を中心とする北九州地域では、「知的クラスター創成事業」を通じた、「学」がリードする効果的な産官学連携の取組みにより、「シリコンシーベルト福岡」と呼ばれる先端的なシステムLSIの世界をリードする開発拠点が整備されてきており、システムLSI関連企業もプロジェクト開始時の約9倍となる189社が集積してきております。仮に「知的クラスター創成事業」が中断・廃止されれば、計画の失速だけでなく集積した関連企業189社の雇用にも影響が及ぶことは必至です。
地域経済の活性化とともに、地域住民の質の高い安全・安心な生活の実現のため、地域における国立大学の存在意義をご理解いただくとともに、地域の科学技術の振興に係る関係事業の継続及び予算の確保・充実を切に願います
4 最後に
国民の皆様におかれましては、各大学とも引き続き国民の負託に応えるべく積極的に社会貢献に努めてまいりますので、各大学がこれまで地域の「知の拠点」として人材育成や地域の科学技術振興を通じて果たしてきた役割をご理解いただくとともに、より一層のご支援をお願いいたします。