毎年のことながら、今回も多くの大学が改善に向けた指摘を受けています。指摘された大学は、”教育に責任を持つ”ことをもっと真剣に考えるべきでしょうし、文部科学省は、この結果をもっとわかりやすく社会に明らかにして、志望校選びの指針として活用できるようにしてもいいのではないでしょうか。
今回公表された調査結果のうち、一般の大学等に関するものと、教職大学院に関するものを抜粋してご紹介します。
設置計画履行状況等調査結果の概要(平成21年度)
- 一部には、当初の計画策定の甘さや、設置計画を着実に履行する必要性に対する認識不足などを背景に、履行状況が不十分である事例が見られた。
- 設置認可後から完成年度に至るまでの間における各種変更計画に係る手続に対する理解不足により、教員の新規採用又は担当科目の追加若しくは昇進の場合に大学設置・学校法人審議会の教員審査を受けていないなど、変更の際必要な手続きを経ていないという、極めて不適切な事例も見られた。
- 各大学においては、認可された設置計画は「各大学が社会に対して着実に実現していく構想を表したもの」であること、大学設置・学校法人審議会会長が大学の設置・運営に関わる全ての方に対して、改めて大学を設置する責任の重みを十分に自覚いただくよう要請するコメントを出していることを十分認識するとともに、適切な対応をとるように改めて強く求めたい。
注意を要する主なもの
1 教育課程関係
- 開設初年度より、専任教員の就任辞退による未開講科目があるので、当初の設置計画の履行に支障が生じないよう、教員の年齢構成に配慮しながら適正な人員配置に努めること。
- 授業科目中、対策講座等の資格取得を目的とした科目については、大学の教育として相応しくないため、当該科目の内容等について見直すこと。
- 医療栄養学科においては、教育課程の必修等の区分の変更や廃止科目が多数見受けられるため、改めて教育課程の体系性を確認するとともに、教育課程に変更があった場合には、学生に対して十分に説明すること。
2 教員関係
- 専任教員について、大学以外に業務を持っている者が多く、教員全体の週当たり勤務日数の水準も低い。また、専門学校の教員と兼務している実務家教員については、大学院と専門学校の業務を渾然一体として行っているという点も見受けられる。大学設置基準第12条において、専任教員は「専ら」大学における教育研究に従事するものとされている点に留意し、専任教員の役割・責任の在り方に関し、教育研究上の体制、管理運営への参画、勤務形態などの面の改善について速やかに取り組むこと。
3 ファカルティ・ディベロップメント
- 単に講演会を開催することをFDとするのではなく、その趣旨は大学院設置基準第14条の3に規定される「当該大学院の授業及び研究指導の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究」であることを十分に理解し、取り組むこと。
4 施設設備関係
- 学生のニーズを踏まえ、引き続き専門図書の充実、電子ジャーナル及び電子ブック等の整備に努めること。特に、通信教育課程であることに鑑み、本へのアクセスについて特段の配慮をすること。
- 当初計画における運動場が駐車場として使用されていることについては不適切であるため、今後早急に運動場として使用できるよう整備すること。
5 管理運営、その他
- 編入学者の単位認定について、大学教育の水準に相応しい内容であるか精査した上で、科目毎に個別に認定を行うこと。
- 届出により設置された学部等については、専任教員が未就任となった結果、大学設置基準に照らして専任教員数が不足している事例など、学部等の設置計画に対する準備不足が見られたものがあった。
- 一部の大学院大学では、施設・設備等をはじめとして、設置計画を十分に履行しているとは言い難い面が見られるとともに、大学の運営においても事務組織等に課題が見られる大学があった。
- 単位数に見合う授業時間の確保、シラバスの記載内容の統一、授業評価アンケートのフィードバック、自己点検・評価、情報公開への取組などが不十分であった大学が散見された。これらについては、各大学において、法令等の正しい理解のもとに再度確認し、必要に応じて改善に努めていただきたい。
- 設置後の履行状況を記載したアフターケア報告書を、大学として積極的に公開することは大変意義のあることから、引き続き、大学側の承諾が得られたものについて、文部科学省のホームページに大学のリンクを貼ることにより、情報提供を行うこととしたい。
教職大学院設置計画履行状況等調査結果の概要(平成21年度)
1 教職大学院に求められる役割の再確認
教職大学院が、教員養成政策の大きな柱として創設された経緯を踏まえ、大学教員一人一人の教員養成に係る意識改革を進め、学部と大学院を通した教員養成のモデルを示し、我が国の教員養成の改革に資することが教職大学院の使命であることを踏まえた取組が求められる。
(1)学部段階を含め教職課程全体の改善のモデルの提示
今後、学部段階を含む教職課程全体に具体的にどのような改善が図られたのか、各大学で教育委員会等の視点を加味した検証を行うとともに、これらの取組をさらに系統的・組織的に広げることが重要である。
(2)学部との一貫性の中での学部新卒学生の養成
教職を目指す学生や教育委員会等に対し、教職大学院で学ぶことの意義が広く伝わるようにすることが重要である。また、教育委員会との連携は、現職教員の派遣に際して教育委員会との協議を重ねている大学が多いが、学部新卒学生の養成については十分な議論が行われていない。学部新卒学生の採用試験合格者への名簿搭載期間の延長や採用試験・研修の免除等を実現するためにもさらなる連携が期待される。さらに、学部段階からの接続コース(現在3大学)の設置を種々の形で促進することは、学部との一貫性の中で教職大学院の意義を広げる上で有益である。
(3)現職教員の再教育
今後、例えば、平成20年度より学校教育法上に定められ、各県で導入が進んでいる主幹教諭や指導教諭に求められる資質・能力を養成するなど、各教育委員会が具体的に設定するキャリアパスに沿った養成を行うことで、教職大学院が現職教員のキャリアパスの一環として明確に位置づけられ、教職大学院での修学への動機付けとなることが期待される。
2 「理論と実践の融合」によるカリキュラム、教育方法の確立
「理論と実践の融合」という新しい教員養成のカリキュラムや教育方法の開発を進めるため、実務家教員と研究者教員との協働体制の整備が不可欠である。また、現職教員学生と学部新卒学生の合同教育の在り方や、実習の位置付け・在り方を十分検証する必要がある。
(1)実務家教員との協働
今後、実務家教員と研究者教員の協働体制の強化により「理論と実践の融合」による新しいカリキュラムや教育方法の確立が図られることが期待される。一方、運営面での協働体制などが不十分な大学もあり、そのような大学では、両者の協働体制を図ることが急務である。
(2)現職教員学生と学部新卒学生の合同教育の在り方
各大学では、引き続き、合同教育により十分な教育効果が得られているのか検証を行い、その良さを活かしつつ、両者の力を最大限に引き伸ばすことができるきめ細やかな指導体制を構築することが必要である。
(3)実習免除と実習体制の整備
- 免除の基準やその運用が明確でない大学も見られ、特に全部免除を行う大学では、免除の実績とそれが教育効果に与えている影響を分析し、必要に応じ、より厳格な基準への見直しを検討したり、カリキュラム全体で実践性が十分に担保されているかの検証が求められる。
- 担当教員が定期的に現任校に訪問し指導を行ったり、校務分掌の見直しなどにより職務の負担軽減を教育委員会等に依頼するなど、大学が責任を持って効果的な実習を行う体制を整備した上で現任校実習を行うことは、学校現場への影響を最小限にしながら優秀な現職教員学生を集められる点で有効な手段のひとつとも考えられる。
- 実習課題と実習校のマッチングが不適切であったり、実習の趣旨が実習校に十分に周知されていないといった大学も引き続き見受けられ、今後、実習の成果が十分にあがるよう実習校との協力体制の整備が不可欠である。
3 教育委員会等との連携
教育委員会等との連携のための組織の実質的な運用に努め、教職大学院の設置趣旨について一層の理解を図るとともに、カリキュラムや教育方法などの運営全般に関して教育委員会等の要望・意見を踏まえた改善を行うことが求められる。
- 各大学では教育委員会等との連携のための組織は設置されているが、今後、その組織の実質的な運用に努め、教職大学院の設置趣旨に関して一層の理解を図り積極的な連携協力のための共通認識を確立するとともに、カリキュラムや教育方法などの運営全般に関し教育委員会等の要望・意見を踏まえた改善を行うことが求められる。
- 連携を深めるためには、教育委員会から派遣されている実務家教員を通して結びつきを進め、教職大学院のみながらず学部段階を含めた教育委員会等との継続的な連携体制を構築する必要がある。
4 入学者の確保
学生の質を保ちつつ、安定的に定員を確保する方策が重要である。そのためには、各大学で入学者の確保に向けた改善方策を一層進めながら、長期的視点に立ち、上記1~3の教育内容の質の保証を図るための取組を積み重ねていくことが基本となる。
- 平成21年度入学者選抜で24の教職大学院中、11の教職大学院で定員未充足となっている。主な理由は、1)教育委員会からの派遣者数の伸び悩み、2)学習・成果の理解への不十分さ、3)修了後のインセンティブの問題、4)都市部の教員採用数増加による進学者の減少、5)学生の経済的負担の問題、6)現職教員の多忙のための学習機会の確保の困難さ、7)広報期間・募集期間の不十分さ(特に21年度新設大学)といった点があげられる。
- 各大学では、学部新卒学生確保のため、教員採用試験の免除、試験合格者への名簿搭載期間の延長等のインセンティブの設定や、現職教員学生の派遣に関し教育委員会との協議を重ねたり、授業料減免や企業等から寄附を募り奨学金を充実させるなど必要な努力は進めているが、入学者確保に向け一層の努力が不可欠である。特にコース別定員を設定している場合には、コースごとの適切な定員充足に努めることが求められる。一方、学生の質を保ちつつ安定的に定員を確保するためには、長期的視点に立ち、上記1~3の教育内容の質の保証を図るための取組を積み重ねていくことが基本となる。
5 教員組織整備とFD活動
教育水準を確保するためには、教育内容の改善のための組織的な研修等を通して直接の教育活動を担う教員の質の確保・向上を図ることが重要である。また、「理論と実践の融合」という教職大学院の基本方針を踏まえ、教育課程全般にわたり科目担当者同士の授業内容に関する連携がきわめて重要である。
- 一部の大学で実務家教員の年齢構成のバランスを欠くなどの状態が見受けられており、順次是正が求められる。
- FD活動については、学生アンケートや教員相互の授業公開を実施している大学がある一方で、学生の意見等が教育課程の充実・改善に必ずしも十分に反映されていない、授業公開を行う教員が一部にとどまっているなどのケースが見られた。このような取組を組織的かつ実効性のあるものとし、さらに全学的な取組に展開するよう努めることが急務である。