2010年2月19日金曜日

国立大学法人の在り方の検証

国立大学法人の第一期中期目標期間が今年度で終了すること、あるいは先の行政刷新会議事業仕分けにおける指摘を踏まえ、現在、国立大学法人の在り方について、様々なところで議論が行われています。

今後、枝野行政刷新担当大臣の下で独立行政法人改革が進められることになっていますが、このことが国立大学法人に影響を及ぼしかねないという懸念も広がっています。

事業仕分けのように短期間に答えを出すような改革では、ともすれば感覚的な議論が進む危険性があり、乱暴な話が出てくる懸念があります。文部科学省が主体となって、全国の国立大学法人はもとより、多くの国民の意見をしっかり反映したものとして作り上げていかなければならないと思います。

そのためには、現在文部科学省が行っているパブリックコメント「『国立大学法人の在り方』に対する意見募集」に様々な立場の多くの方々が意見を投じていただきたいと切に願っているところです。


■検証事項(例)
  1. 法人化後の教育研究活動の成果・課題
  2. ガバナンスに関する事項(組織・運営に関する事項、教職員に関する事項(人事関係含む)、内部監査機能に関する事項)
  3. 資源配分に関する事項(学内の資源配分に関する事項、自己資金調達に関する事項)など
■意見提出期限 平成22年3月末

■意見提出方法等詳細はこちらをご覧ください。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/1289380.htm


参考までに、最近ある団体によって行われた「国立大学法人の現在の状況」についてのアンケート調査の結果を抜粋してご紹介します。パブリックコメントを考える際の参考になるかもしれません。

1 法人化による自主的な大学経営


  • 法人化されたとはいえ財政面での自由度は限定的。国立大学全体の方向性については政府の所管であり、個別大学の自主性はその方向性のきわめて狭い範囲内のものにすぎない。
  • 中期目標、中期計画の記載内容や評価への対応、運営費交付金に係る効率化係数、中期計画最終年度終了時における剰余金の処分権限や競争的研究資金の拡大など、政府の意向も依然として大学経営に影響を与えている。
  • 「自主的な大学経営」のためのマネージメントスタッフ育成の取組みが物足りない。
  • 大学経営に対する執行部の意識も未だ未成熟であり、構成員まで法人化に対する認識が十分徹底したとはいえない状況。
  • 財政自主権も財源(パイ)そのものも乏しい状況の中で、大学経営を大学の自由な判断で自律的に行うことは難しい。
  • 財政基盤が脆弱な小規模・地方大学では、基盤的経費の継続的削減と人件費抑制策の下で、財政的窮迫が常態化 している。その結果の、人事の停滞・縮小、教育研究費の傾向的減少等々は、枚挙にいとまがない。
  • 外部資金獲得にシフトし、そこに多大なエネルギーを割かざるを得ない経営戦略の下では、教育重視の大学づくりや自由な発想による息の長い基礎研究等が後背に押しやられ、将来にわたる社会の均衡ある発展を支える、大学の基礎体力・ポテンシャルの低下は目に見えている。問題の根源は、「行財政改革」を高等教育機関・大学に無定見に持ち込んだ政治判断の錯誤にあり、内実において、すでに経済の世界で、その矛盾を露呈した「市場原理」による効率主義・成果主義を大学経営に機械的に導入したことにある。「独立した法人格」や「予算、組織等の規制の大幅な縮小」の効果を、形式ではなく実質的なものにするには、まず先進国並みの公的経費を高等教育につぎ込むことである。もはや個別の大学の経営努力で解決できる限界を超えている。大学版「格差」と「貧困」を見過ごすのでなく、文字通り「国家100年の計」に立った大学政策こそ喫緊の課題。
  • 中期末の精算などを含め、文部科学省からの縛りが制約となっていたり、余りに形式的判断を重視した評価機構による中期計画の評価などを意識すると、大胆で柔軟な大学運営の改革は難しい。大学の側にも、自主的な大学経営の最終的な着地点に関する十分な認識が不足している。
  • 予算や評価制度によって文科省に縛られているので、真に自主的な大学経営など程遠い。

2 民間的発想のマネジメント手法の導入


  • 民間では評価されることが、公務員としては評価の対象とならない。
  • 経営協議会で具体的な資源配分に関わる意見が議論される状況には至っていない。
  • 役員会・経営協議会とも、民間的発想に近い。しかし、国立大学法人は今も国の支援のもとで”倒産”はしない。
  • 大学の教職員の大部分は、法人化前の大学教職員であり、その時代の発想、思考法は大きく変わっていない。大学運営全体に民間的発想を導入しようとする姿勢に乏しく、浸透するのにはまだ時間を必要としよう。
  • 役員会の権限の強化、教職員の評価制度の導入などは民間的発想の例であるが、まだ、学部自治に配慮するとか、縦割りの事務組織の課題などもあり、過渡的な段階。
  • やりくりできる手持ちの「資源」に乏しい地方大学は、「トップマネジメント」を実効的に機能させて、自らの大学ミッションを全学的・戦略的に展開しうる基礎的条件を欠いている。大学は、「利潤の極大化」や「採算」、「効率」を第一義とする民間企業とは 異なる組織原理で運営される機関である。大学同士が切磋琢磨し、自らの教育研究のレベルと質を高めあう競争的環境は必要としても、いわゆる「民間的発想」をそのまま持ち込み、大学経営を競争原理の駆動にまかせて、性急に効率や成果を求めるのは、「角を矯めて牛を殺す」ことになりかねない。大学が、激変する社会と時代の要請に応えるには、絶えざる教職員の意識改革の下で、教育研究組織の改革・進化と業務の特性にあった経営システムの構築、一体的で活力ある組織運営を図ることに如くはない。
  • 学長直属のマネジメント組織を構築し、トップダウンによる施策が実施可能となった点で民間手法が一部取り入れられた。しかし、大学という組織の特性から従来からの教授会等の合意によるボトムアップの体制も残っており、両者をうまく併用していく必要。
  • 文部科学省の行政組織としての規制が、予算・人事の面で依然として残っているので、民間的発想によるマネジメントには相当な隔たりがある。
  • 全学的意思決定に極めて時間を要し、権限委譲も不十分且つ 業務の効率化・合理化への対応にも、時間を要している現状。

3 学外者の参画による経営システムの制度化


  • 経営協議会の実態は大学側の膨大でかつ詳細な 書類説明に大部分の時間が費やされ、学外者との実質的な審議が出来ない形式的な会議になっている。
  • 日常の大学運営において、学外者(特に民間)の参画は限定的であり、現時点でシステムが実質的に制度化されたとは言い難い。
  • 経営協議会にかけるべき事項として文科省から求められている事項は、形式的な判断を求めることになりかねない事項が多い。より一層学外の民間委員を資産として生かす工夫を試みるべき。
  • 学外者の人選の問題や、大学経営にどう活かすか、まさに大学自体の力量が問われる。
  • 実態的には人件費抑制を理由に、監事とともに学外理事の非常勤化が広がっている。もちろん、「学外者の参画」を実効的に機能させるには、人選(アテ職的な)とともに会議の持ち方(テーマや時間設定、運営、開催 頻度、情報提供など)の検証と、「参画」の実を確認できる仕組み等が工夫されなければならない。大学経営への「学外者の参画」が形骸化しているという声が少なくないのは、その点に問題を残しているから。
  • 役員会の活力、経営協議会メンバーの構成等は良いが、”経営へ”更により特化した討議に乏しい。
  • 経営協議会などは回数も少なく、現実的な具体的提言や指摘を戴くには、現時点の大学の置かれている状況について精通した深い意見をもつ適切な人材の人選も問題。委員の任命も学長任命であり外部意見が取り入れやすい方策といえるのか疑問。運用上の問題も今後検討が必要。

4 非公務員型による弾力的な人事システム


  • 組織あるいは人事 (昇進・異動)に関する発想・考え方は変わっておらず、また人事制度の基本である個人評価制度は形を作りつつある段階で、「弾力的な人事システム」と言えるまでにはなっていない。
  • 労働基準法の世界に移行したとはいえ、雇用する立場と雇用される立場との関係、すなわち契約という 概念が未だ確立されていない。
  • 国家公務員に準じた給与体系となるため、退職手当等にかかる部分についての弾力化が課題。
  • 「非公務員型」と言いながら、法人化後も、実質的には総人件費「抑制」計画に組み込まれ、人事院勧告制度など「公務員準拠」の縛りの中で、大学の状況や自由な判断での「弾力的な人事システム」の構築・運用もままならない状況。
  • 教職員の能力・業務に応じた給与システムは、大学の場合、問題の「能力・業務」をどこまで適切かつ客観的に評価できるかに懸かっていよう。とくに教員の人事評価では、 本来の業務たる教育研究の特性から、その「能力・業務」の客観的評価に難しさが残り、制度化は難渋している。自己評価・申告による「教員評価」 は、制度的にはほぼ定着したが、給与・手当、研究費等、物的インセンティブと結びつけた「人事評価」制度には、学内合意になお時間を要するかに見える。
  • 「能力・成果」を生かした地域社会への還元は、さまざまな分野で広がり、定着しつつあるが、それが「産学連携」→外部資金獲得に 一般化されると、地域社会における大学の存在価値が矮小化されてしまう畏れがある。地域社会との連携の価値は、獲得した外部資金の多寡のみで測れない筈。
  • 学長に人事の「任命権」(形式)はあっても「決定権」(実質)がないのが現実であり、財政面での実質的裁量権・自主権のなさと軌を一にしている。相次ぐ人件費削減の中で、後任補充の凍結など、各部局ともぎりぎりの人員配置で凌いでいる中で、学長が実質的に「人事権」 を生かせるだけの、人件費(定数)のユトリがないのが実態。
  • 部局の長など教育研究組織の長等については選考の権限は関係部局にあり、資質に問題がある場合の任権限はあるが、教員人事に対するガバナンスは低いと言わざるを得ない。
  • 事務職員についても主要ポストに異動官職が就いており、文部科学省のコントロールを受けている感がある。
  • 給与制度も国家公務員の給与制度に準じており、独自のものは無い(事実上できな い。)。
  • 「非公務員型」と言っても「見なし公務員」としての制約は大きい。教員人事は教授会主導であり、職員人事もこれまでとあまり変らない。また、国立大学には独自の人事システムを導入するだけの法人化後の人的・ 時間的な余裕があまり無かったのではないだろうか。
  • 「能力・業績に応じた給与システム」については、民間企業人の視点では緊張感が生まれる制度とは言いがたい。
  • 能力・業績に対する本格的評価制度が確立していない。
  • 学長の任命権に実質が伴わない現状ではその主導での全学的人事は困難。
  • 根本となる給与システム、退職手当等公務員同様のままであり、相変わらず人事院の勧告遵守の姿勢が変わっていない。
  • 文科省による官職異動が続く限り、弾力的な人事システムの構築は不可能である。文科省の派遣人事が内定してから学内人事というのは”独立”した法人というには程遠い。大学の自由な裁量による人事は経営にとって重要な根幹の一つ。
  • 人材を教育し育成しようとする意識が薄く長期の人事戦略がない。特に、職員の必要能力の明示、キャリアプランの設計、一環した研修体系もない状況。

5 第三者機関による評価の導入


  • 評価を受ける大学側の対応の煩雑さ、 時間の消費、そのための人員確保等々、問題が多い。加えて第三者評価に”甘さ”が感じられる。
  • 第三者機関による評価については 評価基準、評価方法、評価委員の構成など、改良すべき点がある。将来の高等教育の在るべき姿を反映したものであって欲しい。
  • 中期目標・計画で細々と項目を列記しており、現状では評価委員が当該大学の達成状況を想像するのが困難で、結局自己評価を追認することになって、第二期の目標・計画においては、第一期のプロセスを踏まえて高評価を受けやすい計画の策定になっているのではないか。
  • 評価のための負担が大きすぎるため、重要な教育・研究・業務遂行に関する支障となっている。
  • 何よりも評価の基準が明確になっておらず、 また、高い計画目標を掲げて未達成となるよりも無難な計画目標を掲げて達成するほうが高い評価を得られる傾向がみられるので、制度がうまく機能し ていない。
  • 評価の前提となる目標及び計画のあり方、評価の基準、評価者のあり方が、評価プロセスを通じて大学の業務内容が実質的に高められていくかたちになっているか疑問。
  • 本来、個別の大学が固有のアセットに基づいて何を進めることが社会的なニーズを満たすことになるのか、本来大学のあるべき姿はいかなるものか等に関する格調の高い評価は全くなされていない。この種のレベルの評価作業に対応する大学側の準備と対応の努力を見る限り、得られるものに比して、余りに無駄が多いと言わざるを得ない。

(参考1)行政刷新会議における国立大学法人運営費交付金の事業仕分け

【判定結果】国立大学のあり方を含めて見直しを行う

【とりまとめコメ ント(抜粋)】
現在の国立大学のあり方については、そもそも独法化したのがよかったかどうかということに始まって、運営費交付金の使い方、特に教育研究以外の分野における民間的手法を投入した削減の努力、あるいは、そもそも交付金の配分のあり方、こういったことを中心として、広範かつ抜本的に、場合によっては大きく見直すということも含めてその中で交付金のあり方について見直していただきたい。

(参考2)国立大学法人について
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2010/01/28/1289460_01_1_1_1.pdf