この説明会は、本年6月に文部科学省が示した「大学改革実行プラン」を具体化するための「ミッションの再定義」を文部科学省と各国立大学間で進めるに当たり、文部科学省からその趣旨や必要となるデータ等の提出についての説明が行われたものです。
◇
説明会の概要は以下のとおりです。(出典:文教速報 第7785号 平成24年10月15日)
板東高等局長「ビジョンを示し強み・特色を打ち出す」
国立大学の機能強化の充実へ-。文部科学省は、国立大学の機能強化に向けた大学改革実行プランに基づく「国立大学のミッションの再定義」に関する説明会を10月11日午前10時30分から学術総合センター2階の一橋講堂で開催した。
説明会の冒頭、板東高等教育局長は、今回のミッションの再定義について「国立大学のそれぞれの分野の果たしている役割を明らかにし、“強み、特色”を打ち出していく。将来に向けてのしっかりとしたビジョンに立って、これからどういう社会的な機能を果たしていくのかを明らかにしていくことが求められている」と意義を強調した。
また、大学改革実行プランの策定の背景には、大学全体に対する社会、経済の切実な期待があり、期待の裏腹としての厳しい意見があると指摘。様々な課題を抱える産業界が求める人材育成のミスマッチ、依然としてある敷居の高さ、国際的な視点からみたときの我が国の大学全体の競争力の低下傾向-などがあり、昨年の東日本大震災を契機として、改革のスピード、規模の充実が求められているとの認識を示した。
その上で、国立大学には、国の中核となる人材育成、国際水準の研究、産業、地域の課題など、様々な対応が期待され、教育研究の成果を通じた社会貢献、地域貢献、国際貢献が求められ、激しい変化の中でどう機能の再構築のためのガバナンスの改革充実に取り組んでいくのかが問われていると訴えた。
引き続いて高等教育局の芦立国立大学法人支援課長が国立大学改革の概要について説明。この中で芦立課長は、「国立大学運営費交付金は法人化以降、900億円減ってしまったけれども、現状において、1兆2千億円を超える経費として今も存続している。他の経費が大幅にシュリンク(縮小)している中で、単一の事業で1兆円を超える経費というのは今、霞が関では、非常に少ない状況になっている。財政的に見て、ある意味ですごく目立っている。1兆円を毎年投下するだけのコストパフォーマンスはどうかなんだという視点が今、むき出しで問われるようになってしまっている」と現状を分析。
さらに、「受身のままだとずるずるとお金を減らすモーメントになってしまう」と述べ、「この厳しい風を“大学の機能強化”というロジックで、いかに社会に打ち返していくかが求められている」とし、ミッションの再定義によって、社会に向かって「“国立大学が大きく変わろうとしているんだ”と情報発信していくことが大事だ」と指摘し、「対財務省だけでなく、大学セクター以外の多くの人々に、国立大学が機能をより一層強化して、社会に貢献するのだということを見せていきたい」と文科省の考え方を強調した。
ミッションの再定義の進め方について高等教育局の合田企画官は、「今月中に多様性や強み、重視する特色や社会的役割についてのデータを提出していただき、11月から大学と文科省との双方向の意見交換を行う。教員養成、医学、工学の先行3分野は平成25年3月までに確定、公表する」と今後のスケジュールなどについて説明した。また、他の分野も並行して準備を進め、今年度中に国立大学改革基本方針を示し、平成25年央までに国立大学改革プランを策定するとの文科省の方針を説明した。
◇
合田高等教育局企画官の説明に用いられた資料のうち、「『ミッションの再定義』について」をご紹介します。(下線は拙者)
1 ミッションの再定義の位置づけ
(1)国立大学の機能強化
「大学改革実行プラン」(平成24年6月、文部科学省)及び「日本再生戦略」(平成24年7月31日閣議決定)は、「ミッションの再定義」、「国立大学改革基本方針」(本年度中)及び「国立大学改革プラン」(平成25年央まで)といった国立大学改革のロードマップを提示している。
国立大学は、総体として、高度な学術研究の推進、計画的な目的養成、全国的に均衡のとれた配置による地域活性化への貢献及び大学教育の機会均等の確保といった重要な役割を果たしている。平成16年の国立大学の法人化以降、各大学は拡大した自律性を活用し、特色ある教育研究の推進や国内外の大学等との連携の推進などに取り組んでいる。他方、未曾有の国難である東日本大震災、グローバル化などの法人化以降さらに顕著となっている社会経済の構造的な変化の中で、国立大学がその機能を再構築の上さらに強化し、社会変革のエンジンという能動的な役割を果たすことが求められている。前述のロードマップは国立大学の機能強化のためのプロセスであり、機能強化の必要性という点において、「国立大学の機能強化-国民との約束-(中間まとめ)」(平成23年6月22日、国立大学協会)や中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(平成24年8月28日)などと共通の認識を有している。
(2)信頼と支援の好循環の確立
大学の自律性は社会制度としての大学の本質であり、国立大学が自主的・自律的に自らの機能の再構築により機能強化を図ることが必要である。他方で、文部科学省は、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るために、国立大学の組織の在り方や各専門分野の振興について、上記のような社会的要請等を踏まえつつ、一定の責任を果たすことが求められている。
それぞれの大学が、国立大学や各専門分野の振興に関する政策的な方向性を踏まえながら、一層の機能強化に主体的に取り組むことを社会に対して分かりやすく発信することは、社会と大学との間に信頼と支援の好循環をさらに確立していくことにつながるものである。
(3)ミッションの再定義を始点とする国立大学の機能強化のプロセス
このような観点から、国立大学の機能強化は次のようなプロセスにより文部科学省と各国立大学が共同して行う。
①下記3以降で示す進め方に沿って、文部科学省においては、各大学からデータ等の資料を得て、意見交換を行いながら、各大学の専門分野ごとに、当該専門分野にかかわる教育研究組織の設置目的、全国的又は政策的な観点からの強みや大学として全学的な観点から重視する特色、国立大学として担うべき社会的な役割を把握する(「ミッションの再定義」)。
教員養成、医学及び工学を先行して実施し、本年度中にとりまとめを行う。それ以外の分野についても、先行実施の分野の状況を勘案しつつ並行して準備を進め、平成25年央までにとりまとめる。
②各大学においては、①のプロセスで把握されるそれぞれの専門分野の強みや特色を伸ばし、その社会的な役割を一層果たしていくための戦略(例えば、学内外の資源の有効な活用や教育研究組織の再編成等)を、学長を中心に御議論、御検討願いたい。
③文部科学省においては、国立大学全体の機能強化のための政策的方向性、①のプロセスで把握されるそれぞれの専門分野の強みや特色、社会的な役割を踏まえた当該専門分野の振興、②の各大学の戦略を支援するための財政的・制度的な工夫、充実の在り方等を検討の上、明確化しその実施を図る。
④本年度中に、先行実施の分野について、各大学の強みや特色、社会的な役割及び当該専門分野の振興の在り方等をとりまとめた国立大学改革基本方針を策定する。
⑤平成25年度央までに、すべての分野についての各大学の強みや特色、社会的な役割、②の各大学の戦略及び③の文部科学省としての検討結果等をとりまとめた国立大学改革プランを策定する。
このような各大学と文部科学省の共同作業により明確になるそれぞれの国立大学の強みや特色、社会的な役割及びこれらを踏まえた各大学の機能強化のための戦略は、第二期中期目標期間の中期目標・中期計画の変更や第三期の中期目標・中期計画の立案・策定の際の前提となることが考えられる。
2 ミッションの再定義を踏まえた各専門分野ごとの振興の観点
このように国立大学改革基本方針や国立大学改革プランに盛り込む各専門分野ごとの振興については、今後、文部科学省において、各大学ごとの強みや特色を伸長し、社会的な役割を一層果たすといった観点から、中央教育審議会や科学技術・学術審議会等において示されている高等教育の将来像、国立大学の担うべき役割、学士課程教育の質的転換、大学院教育の実質化、教員養成課程の改善、学術研究の振興等の政策的方向性を踏まえ、国立大学関係者や有識者、地域社会や企業の関係者等の御意見も聴きつつ検討を行った上でその在り方をとりまとめることとしている。その際、例えば、
○将来にわたる人口動態や産業構造等の変化を踏まえ社会変革をリードするための国立大学全体の機能強化の方向性(学士課程教育や大学院教育のバランス、社会人の学修需要を含む教育研究上の需要への対応、部局や大学の枠を超えた組織運営システム改革の推進等)
○科学研究費補助金の獲得状況や論文被引用数などが示す研究活動の状況、入学者選抜、教育課程、学位授与、就職などが示す教育活動の状況を踏まえた教育研究活動の活性化
○それぞれの専門分野固有の課題(例えば、教員養成については、教員養成の修士レベル化や今後の教員需要を踏まえた教員養成課程及び大学院の課程の在り方、学習指導要領改訂など教育改革に対応した教育研究の推進等。医学については、超高齢社会やイノベーションに対応した教育研究の実施、地域医療への貢献等。工学については、地域・産業界等との一層緊密な連携や社会人の学修需要に積極的に対応した大学院教育の充実等)への対応
などのほか、国際的通用性や将来を見通して大学として全学的な観点から重視する特色の可変性といった要素も含めた幅広い観点を踏まえることが必要と考えている。
3 ミッションの再定義の進め方
(1)データ等の資料の収集
各専門分野ごとの強みや特色、社会的な役割を把握するに当たっては、それぞれの学部等には、創設の由来やその後の教育研究活動の展開に応じた多様性があることに留意する必要がある。
また、強みや特色、社会的な役割については、社会に対してわかりやすく説明できるようにしておくことが必要であり、各種のデータ等の資料を整理して示していくことが必要である。
このため、下記の(イ)及び(ロ)に示す各学部等の沿革、創設時の設置目的、中期目標・中期計画の関係する記述、データ等の資料を文部科学省と大学との連携により収集の上、意見交換を行うという形でミッションの再定義を進めていくこととしたいと考えており、各大学の御協力をお願いしたい。
(イ)沿革及び設置目的等
沿革や創設時の設置目的等は、設立根拠となった法令の目的規定、法令改正の提案理由説明、中期目標・中期計画の関連の記載などをもとに文部科学省において整理するので、各大学に内容の御確認をお願いしたい。
文部科学省において沿革や創設時の目的等を整理する際には、文部科学省が保存している資料とともに、各大学において保存されている資料も参照させていただくことで、創設の由来や理念をより明らかにしたいと考えており、各大学からも関連資料等の提供をお願いしたい。
(ロ)データ等の資料
以下のようなデータ等の資料を文部科学省と各大学との連携により収集、検討していくこととしたい。
①科学研究費補助金の交付や被引用論文数等に関して文部科学省及び関係機関において保有する既存のデータ等の資料
②文部科学省から各大学に提供を依頼するデータ等の資料
○各大学から毎年度、独立行政法人大学評価・学位授与機構(以下「評価機構」という。)に提出しているデータ(平成23年度まで「大学情報データベース」に入力していたデータ)のうち、資料2「提出いただきたいデータについて」に掲げるもの
○その他、必要に応じ、文部科学省から各大学に別途専門分野ごとに提出を依頼するデータ等の資料
③上記2で例示した幅広い観点を踏まえ、各大学の判断に基づき提出いただくデータ等の資料
○全国的又は政策的な観点からの強みについてのデータ等の資料
○大学として全学的な観点から重視する特色や国立大学として担うべき社会的な役割についてのデータ等の資料
(2)大学と文部科学省の意見交換
専門分野ごとの強みや特色、社会的な役割の把握は、前述のとおり、文部科学省と各大学との間の緊密な意見交換によって進めることとしたい。
具体的には、各学部等の沿革、創設時の設置目的、中期目標・中期計画及びデータ等の資料を踏まえ、文部科学省においては各大学の専門分野ごとの強みを中心に、各大学においては特色や社会的な役割を中心に、それぞれ整理した上で、双方向の意見交換を重ね、各大学における専門分野ごとの強みや特色、社会的な役割を確定する。意見交換は対面や電話等により必要に応じ適時行い、双方向の丁寧なプロセスを通して各大学の強みや特色、社会的な役割を把握したいと考えている。
(3)公表
先行実施の各分野の強みや特色、社会的な役割は、別添の様式(略)により、平成25年3月までに確定、公表する。その際、関連するデータ等の資料についても必要に応じ添付する。
4 大学に提供をお願いしたいデータ等の資料と提出方法
各大学に提出をお願いしたい先行して実施する分野に関するデータ等の資料とその提出先、提出方法等は以下のとおりである。御不明な点や御相談等がある場合には、提出先の区分ごとに下記7(略)に記載している担当までお問い合わせいただきたい。
(イ)ミッションの再定義に関する連絡担当者の登録
ミッションの再定義に関する各大学の全学及び各専門分野の連絡担当者の御名前や御連絡先等を資料3「資料の提出方法等について」に示す様式により、10月18日(木)までに国立大学法人支援課支援第四係まで提出をお願いしたい。
(ロ)沿革及び設置目的等に関する資料
各学部等の沿革、設置目的の説明、中期目標・中期計画の記載等の関連資料について、資料3「資料の提出方法等について」に示す手順に則って、10月25日(木)までに国立大学法人支援課支援第四係に提出をお願いしたい。
(ハ)データ等の資料
○各大学から毎年度、評価機構に提出しているデータ(平成23年度まで「大学情報データベース」に入力していたデータ)のうち、資料2「提出いただきたいデータについて」に掲げるもの→ 資料3「資料の提出方法等について」(略)に示す手順に則って、10月25日(木)までに国立大学法人支援課支援第四係に提出をお願いしたい。
○専門分野ごとに別途各大学に提供をお願いするデータ等の資料→ 専門分野ごとに下記7(略)に記載する担当宛に別途お示しする方法で提出をお願いしたい。なお、意見交換の過程で、追加でデータの提供をお願いする場合があることをお含み置き願いたい。
○各大学の判断に基づき提出いただくデータ等の資料→ 資料3「資料の提出方法等について」(略)に示す手順に則って、10月31日(水)を目途に専門分野ごとに下記7に記載する担当宛にお送りいただきたいと考えているが、意見交換の過程で必要があれば随時追加して提出をお願いしたい。
5 対象となる教育研究組織
ミッションの再定義は、国立大学のすべての専門分野を対象にして行い、先行して教員養成、医学、工学について実施する。
中期目標別表の記載事項となっている学部、研究科等、共同利用・共同研究拠点のうち先行実施の対象となる分野に係るものは、学校基本調査における分野の区分、当該学部等の名称や組織編制等を考慮し、資料4「中期目標別表に記載する各専門分野の対象組織(教員養成、医学、工学)」の一覧(略)のとおりとしている。これ以外の学内の教育研究組織(例:共同利用・共同研究拠点以外の附置研究所、センター等)についても、専門分野ごとの強みや特色、社会的な役割の把握の観点から必要な場合は、当該教育研究組織に関するデータ等の資料の提出をお願いしたい。また、複数の専門分野を複合的に対象としている教育研究組織については、先行して実施する専門分野にかかわりの深い教育研究に関するデータ等の資料の提出をお願いしたい。
なお、対象となる教育研究組織について御不明な点がある場合には、国立大学法人支援課支援第四係までお問い合わせいただきたい。
6 スケジュール
先行実施の分野については、おおむね以下のスケジュールで実施する予定である。
(イ) 説明会の実施【10月11日(木)】
(ロ) 大学からの資料・データ提出
①各大学におけるミッションの再定義担当者の御名前等【締切:10月18日(木)】
②各学部等の沿革、設置目的等に係る資料【締切:10月25日(木)】
③評価機構への提出データで別紙に掲げるもの【締切:10月25日(木)】
④各大学の判断に基づき提出いただくデータ等の資料【締切:10月31日(水)】
※ 同日以降も提出可能であり、必要に応じ随時提出願いたい。
(ハ) 意見交換【11月~】
(ニ) 先行実施の分野の確定、公表【平成25年3月】
先行実施の分野以外の分野についても、先行実施の分野の状況を勘案しつつ、並行して準備を進めることとしており、詳細については改めて御連絡させていただきたい。
7 文部科学省の担当部署(略)