2014年12月1日月曜日

手紙を書く習慣

朝日新聞の天声人語「一円切手の肖像画」(2014年11月29日)をご紹介します。


「一円玉の旅がらす」がNHKの「みんなのうた」で流れたのは1990年だった。♪一円だって 一円だって 恋もしたけりゃ夢もある……。前の年に消費税が導入されて、1円玉は脚光を浴びていた。

1円切手にも出番が回ってきた。はがきが40円から41円になったためで、補充が追いつかず売り切れの貼り紙をする郵便局も出た。だが、間もなく再び地味な存在に戻る。はて、どんな切手だったかと、首をひねる方もいるだろう。

その切手が、先ごろ話題になった。日本郵便の発行する普通切手の絵が一斉に変わる中で、1円切手だけが変わらない。「郵便の父」と呼ばれる前島密(ひそか)の肖像が刷られていて、「これだけは変えられない」そうだ。戦後間もないころから続いている。

セピア色の肖像画には明治の男の威厳が光る。今年も消費増税があった。はがきも封書も2円上がったが、エゾユキウサギの新2円切手が出てかわいいと評判になった。不足分に前島さん2枚を買った人は少なかったろう。

ともあれ今の世の中、手紙を書く習慣はとみに薄れている。小中学生の多くは宛名の書き方を知らず、郵便番号欄に電話番号を書く子もいると、かつて小欄で憂えたことがある。

英語でいうポストカードに「はがき」の訳語をあてて発行したのは明治6年だった。それが年賀状としても使われるようになっていく。電子メールの便利さは社会を変えた。だからこそ、紙に書いたひとこと、ふたことが、いっそう引き立つ時代である。