「自分を再教育できない人はお荷物になる-アサヒグループHD社長 泉谷直木氏」(PRESIDENT 2012年2月13日号)をご紹介します。
己の中心に理念や哲学はあるか
私は新しい人材育成論を展開しようと思っている。従来の育成論が「あるべき論」であったのに対し、会社が社員に求めている能力を役割、等級にわたって絶対値で示すのだ。
経営目標を達成するためには機能と能力の両方が必要である。経営者がそれを明確に示し、社員がキャリア開発に取り組む。それらが適合したとき、初めて社員と企業の成長が一致するが、現在の人材育成論は両者が噛み合っていない場合が多々生じている。
たとえば、グローバル人材にはどういう能力が求められるのか。それを考えるとき、グローバルの現場も知らず本社の机の上で「かくあるべき」という議論をしてもまったく意味がない。
グローバル企業の経営者と日本企業経営者の違いを見てみると、前者は常に経営課題を明確に認識し、意思決定が戦略的できわめてスピードが速い。グローバル人材はそんな経営者と渡り合う、あるいはその下で働く人である。まずこの点を押さえなければならない。
一方で相手企業の歴史や風土、文化をよく理解して違いを受容する能力も必要である。さらに、もし我々が相手を買収したケースでは、違いを受容しつつ我々の理念を組織に浸透させなければならない。とくに幹部層として赴く場合には、株主としての立場とビジネスパートナーとしての立場、一緒に思考していく立場という3つの立場に1人で立てなければいけない。
「国際感覚が豊か」「戦略構築力がある」といったありきたりの言葉ではなく、どこにいるときはどういう役割でどんな素養が必要かと具体的な基準を定めていかなければ、せっかくの人材を送り出しても「海外では使い物にならなかった」という事態も起こりうる。別の言い方をすればミッションを明確に与えないまま「おまえ、何とかしてこい」と全部個人任せにしてはいけない、ということだ。
グローバルに出ていくと初めての部下、商品、お客様を相手に仕事をすることになる。国内で慣れた部下、商品やお得意様と仕事をするような、いわゆるコンフォートゾーンでするような仕事は許されなくなってくる。常に自分自身を再教育し、イノベーションを起こしていく意欲が必要だ。しかも、その中心にはわが社の理念、哲学という柱がなければいけない。
そうした意欲のある人に、より多くの支援を提供するのは当然だろう。日本人のチャンス論は棚からぼた餅式で何の努力もせず「私は恵まれていない」という人が多いが、機会をつかまえるのは個人の能力である。私はどんどん機会を提供するので、社員にはどんどん手を挙げてほしい。
刺激を与えていかないと組織は平均化してしまい、競争に勝てない。勝つためにはいろいろなところにずば抜けた力を持つ人間をつくる必要があり、各部門に私よりできる人がいっぱいいるのが私の望みである。十種競技なら私の点数が一番高く金メダルを取るかもしれないが、個々の種目においては私よりもっと高い記録を出す人がいる。そんな集団が一番強いのだ。だから、各部門で私を超える社員をつくることが私の社員教育の基本方針である。もしすべての種目で私を超える人が現れたら、その人に社長の役割を渡そう。
成長している上司の背を見せよ
己の中心に理念や哲学はあるか
私は新しい人材育成論を展開しようと思っている。従来の育成論が「あるべき論」であったのに対し、会社が社員に求めている能力を役割、等級にわたって絶対値で示すのだ。
経営目標を達成するためには機能と能力の両方が必要である。経営者がそれを明確に示し、社員がキャリア開発に取り組む。それらが適合したとき、初めて社員と企業の成長が一致するが、現在の人材育成論は両者が噛み合っていない場合が多々生じている。
たとえば、グローバル人材にはどういう能力が求められるのか。それを考えるとき、グローバルの現場も知らず本社の机の上で「かくあるべき」という議論をしてもまったく意味がない。
グローバル企業の経営者と日本企業経営者の違いを見てみると、前者は常に経営課題を明確に認識し、意思決定が戦略的できわめてスピードが速い。グローバル人材はそんな経営者と渡り合う、あるいはその下で働く人である。まずこの点を押さえなければならない。
一方で相手企業の歴史や風土、文化をよく理解して違いを受容する能力も必要である。さらに、もし我々が相手を買収したケースでは、違いを受容しつつ我々の理念を組織に浸透させなければならない。とくに幹部層として赴く場合には、株主としての立場とビジネスパートナーとしての立場、一緒に思考していく立場という3つの立場に1人で立てなければいけない。
「国際感覚が豊か」「戦略構築力がある」といったありきたりの言葉ではなく、どこにいるときはどういう役割でどんな素養が必要かと具体的な基準を定めていかなければ、せっかくの人材を送り出しても「海外では使い物にならなかった」という事態も起こりうる。別の言い方をすればミッションを明確に与えないまま「おまえ、何とかしてこい」と全部個人任せにしてはいけない、ということだ。
グローバルに出ていくと初めての部下、商品、お客様を相手に仕事をすることになる。国内で慣れた部下、商品やお得意様と仕事をするような、いわゆるコンフォートゾーンでするような仕事は許されなくなってくる。常に自分自身を再教育し、イノベーションを起こしていく意欲が必要だ。しかも、その中心にはわが社の理念、哲学という柱がなければいけない。
そうした意欲のある人に、より多くの支援を提供するのは当然だろう。日本人のチャンス論は棚からぼた餅式で何の努力もせず「私は恵まれていない」という人が多いが、機会をつかまえるのは個人の能力である。私はどんどん機会を提供するので、社員にはどんどん手を挙げてほしい。
刺激を与えていかないと組織は平均化してしまい、競争に勝てない。勝つためにはいろいろなところにずば抜けた力を持つ人間をつくる必要があり、各部門に私よりできる人がいっぱいいるのが私の望みである。十種競技なら私の点数が一番高く金メダルを取るかもしれないが、個々の種目においては私よりもっと高い記録を出す人がいる。そんな集団が一番強いのだ。だから、各部門で私を超える社員をつくることが私の社員教育の基本方針である。もしすべての種目で私を超える人が現れたら、その人に社長の役割を渡そう。
成長している上司の背を見せよ
では、ずば抜けた力を持つ人になるにはどうすればよいか。そこで重要になるのがミッションとパッション、ファッションの3つである。
ミッションとは、その人が自分の役割をどう認識しているか、逆に経営側がどういう役割を与えるのかということである。ミッションはきちんとした評価と連動しないとおかしな事態が生じる。100キログラムしか担げない人に120キログラムの石を持たせると最初はヨロヨロするかもしれないが、やがてしっかり担げるようになるだろう。しかし500の能力が必要なポジションへ年功序列で60の能力しかない人をつけると、部下はみんな迷惑する。
パッションとは情熱である。いかなる仕事をやるにしても、挑戦心や自分を変えていこうという改革心がないと人は成長していかない。
ファッションとは仕事のスタイルである。たとえば日本では少し余裕があると「みんなの意見を聞こう」となるが、海外では意思決定が遅いと株主が「取締役の仕事が遅い」とみなす。しかも間違った判断をすれば首が飛ぶ。このように国内と海外では仕事スタイルが大きく異なり、それぞれの実情に応じて適応させることが必要である。
また、各分野の仕事そのものも大きく変化している。かつて広報は社内にある事実を集め外部に発信するのが仕事だったが、現在のコーポレートコミュニケーションは会社の考え方を発信しながら、それを具体的事実で証明していくという情報戦略を担う仕事になっている。こうした変化に対応し、個人、企業それぞれがファッションの水準を向上させなければならない。
人の育成には上司が自分自身を磨くことも必須である。OJTで部下は上司の背中を見て育つというが、上司自身が成長していなければ部下はついてこない。だから部下を育てるなんて言う前にまず自分を磨け、自分を成長させろと私は言っている。「あの人の仕事ぶりはレベルが違う」「勉強し幅広い教養も持っている」と思わせる魅力なくして何が上司の背中だと言いたい。
自分が伸びていない上司は部下をかまうが、面倒は見ていない。部下とよく接触しているように映っても、単にかまっているのと伸ばしているのとでは大きく異なる。逆に自分が伸びている人ほど部下の面倒を見ている。
その差を見分けるポイントは毎日部下をきちんと見ているかどうか。そうすれば部下の特徴を把握でき、弱みを引き上げたり強みを伸ばしたりできる。弱みを引き上げるのは平均点を上げて全体を浮上させる方法で、強みを伸ばすのは組織全体を引っ張る牽引力をつける方法である。いま重要なのは牽引力をつけるほうである。桃太郎軍団のようにイヌやサル、キジなどいろんなタイプの牽引力の持ち主がいることで、変化に素早く対応できるからだ。
世の中の水準以上の能力をそれぞれの社員が持たないと競争には勝てない。たとえば、私は社長として同業者の社長よりも力がなければいけない。グローバルで戦うためには、私がグローバル経営者と正面から戦える力を持っている必要がある。組織は組織の長の能力以上に強くならないのだ。これは各部門も同様で、それぞれの部門長が世の中の水準以上でなければならない。
ところが権力を持つと、人は並の水準で仕事を流してしまいがちになる。そうでなく、常に自分がベストと思える水準で仕事をすることを当たり前にしなければいけない。部下から見ると流しているか、当たり前にベストを尽くしているかは一目瞭然。成長が止まった上司の背中を見る価値はない。