2014年12月8日月曜日

どんな教育を目指すか

衆院選 教育改革 時代が求める人材は」(2014年12月6日朝日新聞社説)をご紹介します。


安倍政権はこの2年間、経済と並ぶ重要課題として、「教育再生」を掲げてきた。

日本人としてのアイデンティティーを育てる、とのかけ声で様々な施策を進めている。

教科書の検定基準を変え、政府見解を書くよう促した。領土問題も、政府の主張通りに教えるよう指導の指針を改めた。

道徳を教科に格上げし、「愛国心」を掲げた教育基本法に基づく教科書を導入する。高校で日本史必修化の検討も始めた。

自民党はそれらを公約とし、「スーパーグローバル大学」の整備などもうたう。安倍首相が語る大学改革の目標は、「世界で勝つ」人材育成だという。

だが必要なのは、世界で勝つ人材ではなく、国内外の問題解決の道を探れる人材ではないのか。それには多種多様な価値観の人々と対話する力が肝要だ。

野党は、公約の力点を教育の条件整備に置く党が多い。民主党は、少人数学級の拡充や高校無償化を挙げる。社民党も「30人以下学級」「給付型奨学金」などの支援策が中心だ。

そこからは、これからの時代にふさわしい人間像や教育の進むべき方向性は読み取れない。

維新の党は「多様性こそ国家の活力」とし、「多様な教育提供者の競い合い」を強調する。ただ、子ども一人ひとりがどう学ぶかまでは触れていない。

これからはグローバル化と情報化が一層進む。今日の知識が明日も正しいとは限らない。一人の力では限界がある。言語や文化、分野の異なる人々と力を合わせ、答えが一つではない課題に取り組む力が求められる。

日本人としての意識は大切だが、それだけでは足りない。相手を知ることで自らを問い直す力も欠かせない。

日本人そのものも一色ではない。多様な見方や考え方を認め合う姿勢が必要だ。教室のいじめも、「みんな一緒」を求める同調圧力から生まれているのではないか。自分たちと違う者を排斥する先にあるのが、ヘイトスピーチだろう。

この間の政策の過程も多様化する社会にふさわしいとは言い難い。与党の方針を政府の「教育再生実行会議」が権威づけ、文部科学相の諮問機関「中央教育審議会」が具体化する――。そんな与党判断が政策に直結する手続きではなく、幅広い意見を集めるプロセスが必要だ。

教育は子どもを通じて新しい時代をつくりだす営みだ。どんな教育を目指すかは、どんな社会を描くかに直結する。だからこそ、各党は教育をめぐる議論を活発に戦わせてほしい。