昨年6月の熊本地震では、立命館アジア太平洋大学(APU)がある大分県別府市も震度6弱の揺れを観測した。APUは最も国際化が進んだ大学の1つだ。本田明子教授(言語教育センター長)は、地震直後の留学生の行動調査などから災害時の情報提供が大きな課題だと話す。
本田教授によると、地震発生直後、5割弱の留学生が指定避難場所などに避難したが、多くはテレビニュースよりもロコミや学生仲間などが発信するLINEやフェイスブックの情報に頼っていた。テレビニュースを見ても日本語を正しく理解している自信がない。インターネットの英語ニュースは理解できるが、最新情報なのか疑わしい。結局、留学生仲間や日本人学生らの情報に左右されてしまう。だから、テレビがいくら「津波の心配はない」と伝えても、LINEで「津波が来る」と言われれば信じてしまう。家族や先輩に言われるまま、県外や国外に避難した学生もいる。
災害時の用語は特殊で、英語に翻訳すれば通じるわけではない。多くの留学生にとって自国の「避難所」は公園や広場など周囲に何もない屋外を指す。日本の避難所が学校の体育館などであることに驚き、建物内に「避難する」ことが理解できない。
不安や誤解を解消するには、災害時の情報は極めて平易な日本語で提供しなければならない。改めて有効性を確信したのは、阪神淡路大震災の教訓から生まれた「やさしい日本語」(初級日本語話者にも理解できる平易な日本語)だった。「エレベーターは絶対に使わないでください」ではなく、「エレベーターはだめです。かいだんを使ってください」とやさしく丁寧に示す。「キャンパス内の避難場所は、来客用駐車場および噴水前です」は「キャンパスにいるときは、駐車場(ちゅうしゃじょう)かふんすいの前が安全です」と言い換える。
地震後、APUは避難情報を平易に言い換え、市役所と共催のワークショップや市民参加型の交流会などを通じて地域に普及させる活動を続けている。話を聞いて、大学が災害大国・日本で大量の留学生を受けいれるためにやるべき事は、まだまだ多いと思った。日本で暮らす外国籍の人は今後、さらに増える。こうした地道な活動が大学の果たすべき重要な社会貢献だと思う。
やさしい日本語|IDE 2017年10月号 から