「令和6年度予算の編成等に関する建議」(財務省財政制度等審議会)が、11/20に公表されました。
「文教(高等教育)・科学技術」部分を抜粋します。
5.文教・科学技術
(2)高等教育
高等教育について考える場合、少子化の影響は第一に考慮すべき要素である。令和4年(2022 年)の18歳人口は、平成3年(1991年)の207万人に比べて約半分(113万人)となり、私立大学全体で見た定員充足率も100%を下回る状況となっている。
今後も入学者数の減少が予測される中、国立大学も含め、大学は、組織改革、経営改革について積極的・戦略的に判断していく必要がある。〔資料Ⅱ-5-6 参照〕
①国立大学の組織・経営改革
国立大学に対する運営費交付金について、法人化以降1,400億円減少したとの指摘があるが、教育研究とは直接関係のない病院の赤字補填や退職者の減少に伴うものであり、国立大学への補助金等を含めれば、令和元年度(2019年度)と比較して実質約440億円増加している。令和元年度(2019年度)と令和5年度(2023年度)を比較すると、運営費交付金そのものが実質的に増加している。〔資料Ⅱ-5-7 参照〕
そうした中で、共通指標に基づきメリハリある配分を目指してきたが、単年度ごとに配分率を決める仕組みであること、基幹経費の中でメリハリ付けを行う仕組みであることから、配分シェアが変わりづらい。運営費交付金で支援している大学の組織改革には、地域の課題や地域産業のニーズに対して、大学自らの強みを活かして対応している事例がある。こうした取組を評価するとともに、大学改革のインセンティブとなる更なるメリハリ付けの深化として、組織改革に対する支援の拡充やメリハリの強化を検討していくべきである。〔資料Ⅱ-5-8、9 参照〕
②私立大学等の組織・経営改革
これまでも定員割れの度合に応じ私学助成の減額措置を導入してきたが、令和4年度(2022年度)においても定員割れ私立大学等に対するメリハリが効いておらず、定員割れ私立大学等に対する交付額割合の大きい特別補助も存在したままになっている。〔資料Ⅱ-5-10 参照〕
収容定員充足率が9割未満の私立大学等のうち約8割は収支差がマイナスとなっていることを踏まえれば、私立大学等は、経営を途中で放棄することのないよう、実際に集めることのできる学生数を踏まえ、学部の縮小・廃止により定員規模を適正化することで、健全な学校経営を維持していくべきである。経常費補助金の配分に当たっては、補助の要件として定員規模適正化に向けた具体的な対応策の策定を求めるなど、配分方法を見直すことが必要である。〔資料Ⅱ-5-11 参照〕
③高等教育の負担軽減(奨学金等)
高等教育の負担軽減として、修学支援新制度(給付型奨学金+授業料等減免)について、令和6年度(2024年度)より、多子世帯及び理工農系の学生の中間層に対象を拡大することに加え、多子世帯の学生等に対する授業料等減免について、「更なる支援拡充」を検討することとしている。
奨学金の在り方を考える際には、修学支援新制度は「真に支援が必要な低所得者世帯の者」を対象としている点や、(高等教育を受けていない者も含めた)国民全体の負担となる点等に留意し、拡充内容は慎重に検討すべきである。また、拡充に際しては、対象となる大学や学生の要件を見直し、経営に問題のある大学や学習意欲の低い学生の単なる救済とならないようにすべきである。貸与型奨学金については、そもそも、大学を卒業したにもかかわらず、奨学金を返済できるだけの所得を得られないという状況にならないよう、教育の効果の測定や開示といった観点も重要である。〔資料Ⅱ-5-12 参照〕
(3)科学技術
①日本の研究開発費総額と生産性
我が国の財政状況が極めて厳しい中においても、政府として科学技術に対して重点的な投資を行ってきており、政府の科学技術予算(対GDP比)は主要先進国と比べて高い水準で推移している。また、官民を合わせた研究開発費総額で見ても、主要先進国と比べて遜色ない水準である。
科学技術に対する投資が重視されてきたにもかかわらず、被引用数が上位で注目度が高い研究論文(いわゆるTop10%論文)の数は低迷している。研究開発費当たりの注目度が高い論文の数、すなわち論文の生産性で見ると、他の主要国に水をあけられている。
こうした現状を踏まえれば、我が国における科学技術政策の課題は、科学技術に対する公的投資又は官民を合わせた投資の規模ではなく、投資効果を引き上げることであり、他の主要国に比して投資効果が低迷している構造的な要因に対して適切かつ早急に対処することが求められている。〔資料Ⅱ-5-13 参照〕
②大学の人事・組織改革
国際的な評価の高い自然科学論文の著者は半数以上が40歳未満であり、論文の生産性を高めるためには若手研究者の活躍機会を確保する必要がある。他方で、大学本務教員に占める若手研究者の割合は減少が続いており、若手研究者の登用は進んでいない。〔資料Ⅱ-5-14 参照〕
自らの研究室の卒業生の割合が高いほど、その研究室の論文生産数が低くなる傾向にあることを示した実証分析もあるが、我が国の大学においては、自校出身者が本務教員となりやすい傾向がある。また、獲得した研究費の間接経費は、獲得した研究者に依らず、部局間で固定的に配分されているとの指摘もある。若手研究者の登用が進まない現状を打破し、論文の生産性を高めるため、こうした慣行を廃するような人事制度や研究費等の配分方法に係る改革を行う大学等を積極的に評価すべきである。〔資料Ⅱ-5-15 参照〕
③企業が求める人材とのミスマッチ等を解消するための産学連携
将来の研究者を確保するためには、研究者を志す若者が将来のキャリアパスを具体的に見通せることが重要であり、大学内外で研究者として活躍する多様なロールモデルを作る必要がある。
しかし、企業が期待する能力と博士課程における教育研究を通じて育成される人物像との間にギャップが存在している中で、半分以上の大学は産業界が博士人材へ期待するニーズを把握していないとの調査結果もある。〔資料Ⅱ-5-16 参照〕
博士人材のキャリアパスの見通しの具体化を図り、企業の博士人材に対するイメージを改善する観点から、民間企業の具体的ニーズに基づいた産学連携プロジェクトを推進するとともに、民間企業のニーズに即したカリキュラムの見直し等を行う大学等を積極的に評価すべきである。
我が国の大学において、産学共同研究の1件当たりの規模が小さくなっているものの、経営戦略として戦略的産学連携経費を設定している大学は、設定していない大学に比べて、大型共同研究の実施率が高いとの調査結果もある。産学連携の推進に当たっては、大学本部において戦略的に進め、大学の持つ高い付加価値を反映した適正な研究費で受託する取組を推進すべきである。
④研究力強化に向けた評価等の枠組み
量子・AI 等の先端技術等、国として戦略的に分野・領域を定めて研究開発を推進するべきである。ただし、国費を投じて社会的課題の解決を目指すものである以上、個別のプロジェクトの失敗を許容するとしても、定量的な成果目標を設定して評価を行い、事業内容を不断に見直していくことが不可欠である。
また、大学等における研究拠点の形成・強化を目的とする事業については、事業終了後も民間資金獲得等により基盤経費を確保して機能を発揮できるよう、助成額が逓減する仕組み等自走につながる仕組みを導入すべきである。〔資料Ⅱ-5-18 参照〕