2014年10月22日水曜日

高等学校教育の再定義

IDE:現代の高等教育(2014年8-9月号)から、「平成の学制改革」をご紹介します。


教育再生実行会議が、第5次提言「今後の学制改革の在り方について」をまとめた。自民党が打ち上げた「平成の学制大改革」を受け、昨年10月から9回の会議と5回の視察・意見交換を経て纏めた。だが、当初の意気込みは何処へやら、一部の小幅な制度改革に留まる内容だった。

答申は、①子供の発達に応じた教育の充実、様々な挑戦を可能にする制度の柔軟化、②教員免許制度改革と、質の高い教師確保のための養成や採用、研修等の見直し、③教育を「未来への投資」として重視し、世代を超えて子供・若者を支える-という構成からなる。

主な提案内容を見ると、①では、幼児教育の充実や無償教育、義務教育期間の延長、小中一貫教育学校(仮称)の制度化、実践的職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化、②では、複数の学校種で指導可能な免許状の創設、教師インターン制度(仮称)の導入、③では、教育財源確保、教育サミット(仮称)の開催などが目に付く。

この中で、最も実現性が高いのは、小中一貫教育学校(仮称)の制度化だ。小学校と中学校は学習内容や環境が大きく異なるために、学校になじめない中学1年生が少なくない。小中一貫教育は、「中1ギャップ」に効果があるとして、東京都品川区や広島県呉市などを皮切りに全国に拡大している。提言は現実を追認し、制度的なお墨付きを与えた。

ただ、それ以外の項目では、提言は一気に現実味を失う。それぞれの提言事項について、「見直しを行う」「環境整備を行う」「体制を整える-などのあいまいな表現が並ぶ。「国は小中一貫教育学校を制度化し、柔軟かつ効果的な教育を行うことができるようにする」という歯切れの良さとは対照的だ。「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化」にしても、既に中央教育審議会が似たような提案をしたが、大学や短大の反発もあって実現していない構想だ。

こうした提言になったのは、本気で学制改革を断行すれば、影響は極めて大きく、しかも巨額の予算が必要になるからだろう。例えば、義務教育の期間を延長するには、財政的な裏付けが不可欠になる。憲法26条は「義務教育は、これを無償とする」と明確に定めている。無償化と切り離して義務教育を延長することは不可能なのだ。

だが、実行会議が指摘するように、六三三四制が導入されたのは今から70年近くも前のことだ。当時と今とでは、子供の成長や社会の状況は大きく変化した。そもそも、現行の学制は、中卒者のほぼ全員が高校に進み、18歳人口の半数以上が大学へ進学する事態を想定してはいない。グローバル化も少子高齢化も想定外だ。高大接続が上手くいかないのも、学校教育と社会の接続が上手くいかないのも、現行学制が間尺に合わなくなっていることと無縁ではないように思う。

学制改革の本丸は何なのだろうか?色々意見はあるだろうが、私は高等学校教育の再定義ではないかと考える。元々、新制高校は、後期中等教育なのか、高等教育の準備教育なのか、発足当初から2つの性格を併せ持っていた。高校、大学の進学率が低かった時代には目立たなかった内在的矛盾が、進学率の上昇と共に表面化したのが今の高校ではないか?

気になるのは、再生会議の提言で、学制改革の議論は一件落着というムードが広がらないかという点である。今こそ、政治的思惑を離れて、幅広い分野から人材を集め、少なくとも2、3年は時間をかけて、学制改革を抜本からじっくり議論する時期だと思う。