2014年10月23日木曜日

企業であれば当然の戦略

IDE:現代の高等教育(2014年8-9月号)から、「本音の大学経営」をご紹介します。


近畿大学が2016年度に14番目の学部を東大阪キャンパスに作る。近ごろ流行の「外国語・国際系学部」で、定員は500人、1学年の後期から1年間、全員に海外留学を義務づける。帰国後は、総合大学の強みを活かし、一般教養教育や専門教育を主に英語で行う。

英語で授業を行い、全員に海外留学を義務づけている学部は、既に他大学にいくつも存在する。しかし、近畿大が面白いのは、学部の構想段階から語学教育のベルリッッと連携し、英語教育や留学先確保で同社の全面協力を得ることだ。

下手をすると、語学学校への丸投げという批判も起こりそうな戦略に、塩崎均学長の説明は明快だ。

「学部の構想段階から民間教育機関と手を組むのは異例と思うかもしれないが、ベルリッツに丸投げするつもりは全くない。あくまでも主体は近畿大だ。近畿大の実学教育とベルリッツのノウハウを融合させて、新しいカリキュラムを実現したい。入学直後の1年生の英語力を、短期間で留学できるレベルまで鍛えるノウハウも、毎年500人の留学先を確保するノウハウも、我々には十分にはないのだから」

「今春入試では、全国1の志願者数を集め、文科相の競争的資金を数多く獲得するなど、近畿大の教育・研究に対する評価は上がっている。でも、国際化への対応の遅れが大学全体の評価を下げている。国際化を進めないと3万人を超える総合大学に成長した近畿大が、アンバランスな大学になってしまう。国際系の新学部を作るのは喫緊の課題だった」

自分たちの強みを徹底的に伸ばすと共に、弱点があれば、それを強化する。そのためには外部のリソースを活用することも厭わない。企業であれば当然の戦略だ。だが、それを大学のトップが認め、実行することは容易ではない。

近畿大といえば派手な入学式でも有名だ。ある幹部は、かつてこう言った。「近畿大の新入生は不本意入学が多いからこそ、派手な入学式で帰属意識を高める必要がある」。これもまた、大学人が、外に向かってなかなか言えることではない。

近畿大は理事会ガバナンスの強い大学だ。しかも最近は躍進著しい。そんな大学だからこそ、採り得た戦略かもしれないが、実はこれからの少子化時代に最も重要なのは、本音ベースの大学経営だという気がする。近畿大の次の一手は何か、興味は尽きない。