2014年10月28日火曜日

志を果たしに、いつの日にか帰らん

人口減少 田舎から教育を変えよう」(2014-10-25朝日新聞)をご紹介します。


教育を変える風が、田舎から吹いている。各地を取材して実感したことだ。

これまでの改革は、学校選択制や、塾代のクーポンを渡す教育バウチャーなど、学校や教育産業の多い「都会発」が目立っていた。今は明らかに風向きが違う。

変化を感じたのは、地方の公立高校だ。いままでは、生徒の偏差値を上げ、都会に送り出す装置であり続けた。「ムラを捨てる学力をつけている」と批判されたこともある。それがここにきて、地域をつくる人材を育てようとする動きが相次いでいる。

キーワードは「魅力化」だ。島根の隠岐諸島にある県立隠岐島前(どうぜん)高校が使い始めた。生徒数の減少で統廃合の危機に直面したが、魅力的な学校にすれば生徒は来るはずだと、田舎の強みを打ち出す作戦に出た。少人数指導や地域資源を生かしたカリキュラムを売りに、生徒を全国募集。生徒数はV字回復した。これに続けと、北海道から沖縄まで各地の高校が、魅力化を旗印に動き出している。

これらの高校のある離島や中山間地は、人口の集中する都会に比べて遅れた地域と思われてきた。だが、少子化や人口減という視点からすると、都市より早く課題に直面した先進地である。

2040年には、全学年を合わせて30人以下の小学校が10校に1校を占めるとの推計もある。日本の学校の仕組みは明治以降、右肩上がりの時代に整えられ、一定の規模を前提としてきたが、見直しを迫られるだろう。

40人が一斉に同じ目標を目指す教育から、一人ひとりが自分の課題を持つ教育へ。教室で教える教育から、地域で学ぶ教育へ。

そこから育つのは、経済成長時代、家庭や地域を顧みなかったモーレツ社員とは違い、コミュニティーや家庭など足元のつながりを重んじ、一人ひとりの価値観を大切にする若者なのではないか。

島前高校のある海士(あま)町にIターンし、魅力化にかかわる人たちは、ちょうど100年前に発表された文部省唱歌「故郷(ふるさと)」を、歌詞を変えて歌う。「志を果たして、いつの日にか帰らん」ではなく、「志を果たしに、いつの日にか帰らん」。ふるさとは、都で功成り名遂げて帰る先ではない。自分のやりたいことに挑む場なのだ。

人口減少は50年続く」と経済財政諮問会議の「選択する未来」委員会は述べる。子どもや若者の予算をどう確保するか。全国一律の教育条件をどう守るか。課題は尽きない。だがピンチはチャンスでもある。「当たり前」と思ってきた学校や教育の姿を問い直し、次の社会を考える機会としたい。