下宿生活といえば、『男おいどん』という漫画を思い出す。松本零士(れいじ)さんが1971年から連載した出世作だ。主人公は九州から上京した苦学生、大山昇太(のぼった)。4畳半の部屋で貧乏に耐える。
洗濯していないパンツの山から、サルマタケというキノコが生えている。悩める青春、身ぎれいさからは遠い。村上春樹さんの『ノルウェイの森』が描く60年代末の都内の学生寮もまた、〈男ばかりの部屋だから大体はおそろしく汚い〉。
今の下宿暮らしはそんな哀感とは無縁だろうか。そもそも下宿生の割合が減っているらしい。実家から通える範囲で進学先を選ぶ傾向だ。都内のある私大ではこの10年余で自宅生が約1割増え、7割近くになった。
先日の本紙の報道によれば、大都市と地方の間で大学進学率の差が広がっている。一番高い東京と最下位県との差は40ポイントで、20年前の2倍。親には子を都会に送り出す余裕が乏しい。といって地元には通う先が少ない。大学が集中する都会との格差が拡大していく構造が見えてくる。
大学改革の方向も格差容認に傾いていないか。文科省は先日、「スーパーグローバル大学」を選んだ。旧帝大や早慶など37校が並ぶ。最大5億円の支援金を受け、世界の大学ランキングの100位以内を目指す。大学間の、そして都市と地方の間の溝がさらに深まる懸念がある。
選別する目的は経済成長であり、国際競争力向上という。勝ち組をもっと勝たせようという競争至上主義の発想であるなら、末恐ろしい。