2008年11月13日木曜日

コストカットに向けた取り組み-2

前回に続き、大学における「コスト削減」について考えてみたいと思います。今回は、本年6月27日に、総務省が取りまとめた「行政事務のコスト削減の検討の視点」というレポートをご紹介します。

このレポートが取りまとめられた趣旨は、以下の「前書き」を読めばご理解いただけるところですが、要すれば、「最近の国の行政機関における不適切な無駄遣いの多発を受け、前福田総理から指示のあった「政府における無駄の徹底的な排除に向けた集中点検-『ムダ・ゼロ』への取組み」の徹底を図るため、国の行政機関におけるコスト削減に向けた職員の意識改革、コスト削減の仕組みやチエック機能などについては、民間企業の努力や成果を十分に認識・活用していくことが重要である」とのことのようです。

レポートは、国の行政機関を対象としたものですが、書かれた内容は、私達の職場である「大学」にも十分適用できるものではないかと思いますし、指摘内容を正面から受け止め、今後のコストカットに向けた取り組みに反映できればと考えています。

行政事務のコスト削減の検討の視点

(平成20年6月27日、総務省行政評価局民間のコスト削減手法に関する研究)(抜粋)

前書き

国の行政機関においては、「行政コスト削減に関する取組方針」(平成11年4月27日閣議決定)等に基づき、コスト削減に取り組んできたところであるが、これまでその取組が十分な成果を上げてきたとは言い難い。理由や背景としては、次のような点が考えられる。
  1. 予算の獲得に重点を置きがちである。
  2. 組織のトップも末端の職員も、主眼は予算の獲得にあり、日常的なコスト削減の意識が希薄である。
  3. 予算の節約や効率化によるメリットが明確になっていないので、コスト削減に切実感を持って取り組んでいない。
  4. 結果的に、節減の取組は「スローガン」に終わりがちである。
これらに対して、民間では、売上げの増加のための企画や販売も重要ではあるが、最終損益で「プラス」とするためには、コストの管理も重要である。利益が生じなければ自らの給与に跳ね返ることとなるので、末端の従業員に至るまで、節減努力やコスト削減のインセンティブが常に働いている。

国の行政機関がコスト削減の取組を進め一定の成果を上げるためには、このような両者の違いを十分に認識して、「掛け声」だけでなく、トップから率先してコスト削減に取り組んでいくことが重要である。

コスト削減の検討の視点

1 職員の意識改革

(1)コスト意識の浸透

コスト削減の取組は、関係者が一致協力して細かいこともおろそかにせず、地道に、自主的に行うことが重要である。家計の場合、他者から指摘されなくても、自ら節約している。コスト削減の取組を実効あるものにするためには、このような切実感が必要である。

コスト意識を末端まで浸透させることが重要である。民間で徹底した無駄の排除に取り組む場合、例えば、会議資料について、その枚数をいかに減らすか検討する、カラーコピーは禁止、2アップ印刷(2ページ分を縦又は横に並べて1ページに集約して印刷)や両面印刷が当たり前となっている。

また、1)従業員全員に対して、事務机の引き出しの中に予備として個々に保管しているホチキスの針や消しゴムなどの事務用品を全部出させて集中的にストックし、それらの中から必要の都度、改めて従業員に支給することとしたところ、4か月間、事務用品を新規に購入する必要がなかった例や、2)ファイルなどは中古品をやり繰りして支給することにより、従業員に対しても、「頼めば新品が来るもの」という従来の感覚は通用しないことを浸透させ、コスト削減を実現した例もある。

このように、日々の業務においても、末端の職員に至るまでコスト意識を浸透させることが重要である。

また、先進的な取組を行っている地方公共団体においては、コスト削減に当たり、「基本方針」として、「職員の意識改革、自分のお金意識、住民負担増の回避」を掲げて明確化した例も見られる。

(2)実行力、発想カ

コスト削減の検討に当たり、一般に「何が問題か」については誰もが気付くものの、実行が伴っていないのが実情であり、コスト削減の実を上げるためには「実行」をいかに確保していくかがポイントになる。

民間においては、コスト削減を行う場合、業務のすべてにわたって、まず「これをなくせないか」、「廃止できないか」という発想から考えることが基本であり、従業員が「なくせない」、「廃止できない」と考えているものであっても、「本当に必要か」という発想で切り込む。必要性が認められた場合でも、大幅に引き下げた「最適価格」での購入はできないか、他の代替はないかなどを検討していく。

また、コスト削減に当たっては、現状から一定割合を一律にカットする手法ではなく、いわゆる「ゼロ・ベース」から見直しを行うことが通例である。

この場合、「前例」を排除する必要がある。「これまでどおり」を前提としてコスト削減を検討しても何も変わらない。例えば、定期的に作成する資料の中に保管されているだけで使用されていないものがあれば、いったん作成を止めてみて、支障がないか検証する。同様に、新聞や雑誌などの定期購読については、習慣的になっており、改めて見直しを行う機会がない限り、「継続」となりがちである。このような定期購読、あるいは外部から購入するデータの利用料など口座からの「定期引落し」となっている契約については、一度止めてしまい、「原則ゼロ」としてみて、その後、どのような支障が生じたか検証すべきである。

先進的な取組を行っている地方公共団体においては、全事務事業のゼロベース検証(全廃による痛みの行方と機能の低下)、外注や管理経費のゼロベース検証(サービスを支える入札や一般管理費の再検証)を実施した例がある。

2 コスト削減の仕組み

国の行政機関においては、会計、経理業務を所掌する管理職が、個別の契約内容、毎月の経費支出などについて責任を持ってチェックしておらず、実質的に、契約担当者などに任せきりになっている場合が多いのが現状である。このような状況において、無駄の徹底排除の一環として、コスト削減の取組を行っても、確実かつ十分な成果を上げることは困難と考えられる。

一方、民間においては、執行責任者、チェック責任者などの責任体制が明確となっており、また、コスト削減のターゲットや数値目標を個別具体に定め、「いつまでに、何を、どれだけ削減するか」との方針の下、従業員が共通認識を持って、積極的にコスト削減に取り組んでいる。

また、無駄遣いを指摘された部署のみの改善に止まることなく、他の部署でも「うちはどうなのか」、「うちは大丈夫か」という目線でそれぞれチェックし、コスト削減を全社的な取組としていく。

(1)責任体制の明確化

コスト削減に組織的に取り組み、実績を上げるためには、トップがコストに強い関心を持ち、積極的に関与していくことが重要である。

また、コスト削減の指摘が放置されていないか、モニタリングを行っていくことも重要である。民間では、執行責任者は誰で、誰がチェックするのかが明確になっており、「誰が、いつまでに、どうするのか」のアクションプランの作成が容易である。

先進的な取組を行っている地方公共団体においては、行政コストの削減の実効性の確保のため、管理職の担当責任の明確化、第三者機関の設置によるフォローアップ体制の強化(目標・経過・結果の報告と説明責任の順守と公表の徹底)を行った例がある。

(2)削減目標の具体化

コスト削減の取組については、いわゆる「精神論」では意味がなく、「時間軸と数値」がポイントになる。民間では、事後のチェックが容易になるよう、具体的な目標金額などの「数値目標」を設定して、これと実績とを比較して検証している。また、目標の設定に際しては、あわせて、「いつまでに、どれぐらい削減するのか。そのために、誰が何をするのか」などその内容を具体化している。これにより、目標としたことに向けた具体的取組が実際に行われたのか、行われていないのかを事後にきちんとチェックし、コスト削減の実効も確保できる。また、削減目標が具体化されて目に見えることにより、国民の理解を得ることが期待できるようになる。

(3)適切なコスト管理

コスト削減を効果的かつ着実に行うためには、コストの状況を適期にチェックして必要な行動を起こしていく、コスト管理が重要である。

民間においては、コストについて、最小の組織単位(課、所)での「月次管理」が基本となっており、年度予算や前年同月実績との比較を行い、コストが増大しているなどの違いが発見できれば、その理由や要因などを細部にわたって検証していく。おおざっぱな確認程度にとどまっていたのでは、適切なコスト管理はできない。

(4)集中購買の推進

物品、役務の調達に当たっては、「集中購買」がキーワードとなる。支社、支店、営業所などで個々別々にではなく、本社等で取りまとめた上で集中購買することにより、購入価格を大幅に引き下げることが可能となる。

民間においては、本社が一元的に大量に購入することでスケール・メリットによるコスト削減を図ることとし、従来、購入権限を有する課所単位で契約していた特定の物品について、本社が各課所での購入単価を調査し、相当のコストダウンが見込まれるものをより安価に集中購買した例がある。

また、先進的な取組を行っている地方公共団体においては、一括発注を行うため、総合発注室を設置したり、メーカーが異なるエレベータの保守点検についても一括管理している例がある。

(5)適切な債権管理

債権管理について、公平の原則があるので、何らの措置も採らずに見逃すことは適当でなく、きちんと督促するなど法令等に定められた事務を適切に実施することは当然である。しかし、例えば、1,500円の滞納債権を回収するため、5,000円の旅費を支出して出張するのは無駄と考えられる。

民間の場合、債権回収は第一義的には営業部門が担当しており、契約後、「何目以内に回収」という目標が設定され、その日数が経過すると、自動的に未回収の連絡が担当者に来て、債権が劣化しないうちに必要な措置が講じられるシステムとなっている。

3 コスト削減のインセンティブ

国の行政機関においては、「予算をできるだけ多く獲得し、全額使い切る」傾向があり、コスト削減によるインセンティブが働きにくい構造となっているものと見受けられる。今般の政府全体の取組として、無駄の徹底排除を効果的に推進し、着実にその実を上げていくためには、コスト削減に伴うインセンティブがキーワードと考えられる。コスト削減を行っても、メリットが明らかでなければ誰もやる気にならない。

民間においては、例えば、全社トータルでコスト削減目標を達成できた場合、貢献度合いに応じて、従業員の給与、賞与、昇格、異動などに反映したり、所属する部署ごとに、翌年度の予算配分に一定の配慮がなされたりするなどの仕組みが導入されている。

4 第三者による監視

コスト削減について、職員が緊張感を持ってその活動に取り組み、実効を上げるためには、外部の第三者により、取組実績等をチェックすることも有効と考えられる。

先進的な取組を行っている地方公共団体においては、フォローアップ体制として、有識者による第三者委員会を設置し、毎年度、削減実績や数値目標の達成度などについて、報告内容の評価と公表を行うとともに、当該公表結果について広くパブリックコメントを求めるなどして、成果を上げた例がある。