(参考)
国立大学予算の削減(1)http://daisala.blogspot.jp/2008/09/blog-post_8030.html
国立大学予算の削減(2)http://daisala.blogspot.jp/2008/09/blog-post_6691.html
訴求力に欠けた要望書 http://daisala.blogspot.jp/2008/11/blog-post_2283.html
日記の内容から国立大学を取り巻く大変厳しい財政事情がご理解いただけるのではないかと思うのですが、最近では、朝日新聞が報じた全国の国立大学長アンケート結果からも、各学長の本音を感じ取ることができます。この記事によれば、92%(77大学)の学長が、「法人化により国立大学間の格差が広がった」と回答され、「過去の資産のある大規模大に資金が集中している」「旧帝大は余裕があるため、新たな展開を可能にしている、格差拡大は『地力の差』にある」といった意見が寄せられています。また、法人化後の問題点として、「各大学とも毎年1%を目安に教育研究経費の効率化が求められ、全体として法人化した04年度より600億円もの運営費交付金が減額されたこと、一律削減により、もともと財政基盤の異なる旧帝大と地方大(特に教育系単科大)の格差が広がった」ことなどが指摘されています。このような厳しい状況の中、各大学は、例えば、運営費交付金の削減分を外部の研究資金や寄付金などで補う努力を続けてきているわけですが、ある学長が「外部資金獲得は大規模有名大学あるいは医理工系分野に有利に働く」と指摘されているように、地方大学の限界も垣間見えてきます。
国立大学に身を置く者の一人として申し上げれば、確かに国の時代に比べれば、いわゆる「人、物、金、スペース」といった資源の不足感は否めませんし、声を大にして社会に訴えることも必要なことです。しかし、それでは国立大学(の学長さん)は、国立大学とは縁もゆかりもない社会の人達、あるいは、私立大学に多額の授業料を負担している保護者からいただく運営費交付金という名の税金を無駄なく効果的に使っているのかと問われた時に、果たして1円単位できちんと説明、証明できるのか甚だ疑問の点があります。
国立大学の経営トップである学長さん方は、これまで、運営費交付金の削減で「資金が足りなくなり、教育研究や学生サービスに悪影響が出た」「教職員の定年退職後不補充により、特に卒業研究指導など教育への悪影響(が出ている)」「交付金の削減をやめ増大に転じることが必要」「高等教育の公財政投資を欧米並みに、現在の国内総生産(GDP)比0.5%から1%に増加させることが必要」といった国民の心に全く響かない具体性のない言葉のつながりを、教員出身者らしく能弁に語ってきましたが、それだけでは全く説得力がありません。「私達はここまでこういった努力や改革ををやってきた、しかしそれもこういった点で限界域に達している」ということを、客観的なデータなど、誰もが納得できる具体的なエビデンスに基づいて説明しなければ誰も理解してくれないのではないかと思います。多額の税金や学費によって賄われていることの意味を大学のホームページ等できちんと説明している国立大学はまだまだ少数のような気がします。
いみじくも、26日には、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会から「平成19年度における国立大学法人及び大学共同利用機関法人の業務の実績に関する評価の結果についての意見」というものが公表されました。この中で、総務省は、国立大学法人評価委員会に対し、以下のような改善を求めています。
- 公的研究費の不正使用の防止のための体制・ルール等の整備状況についての評価の徹底
- 法人運営に影響を及ぼすおそれのある各種事項に対する危機管理体制の運用状況についての評価の徹底
- 随意契約の適正化の一層の推進(一般競争入札の範囲の拡大、契約の見直し、契約に係る情報公開等)についての評価の徹底
- 収入増やコスト削減の取組における数値目標の設定状況、国立大学病院管理会計システム(HOMAS)又はこれに類する会計システム等により得られた各種統計データの活用状況の把握・病院管理運営に関する実績等に関する評価の徹底
法人化後、国立大学の財務会計制度が格段に改善されました。年度内に消化できない予算については、「経営努力」という美名のもとに翌年度に繰り越して使用することが可能になりました。平成19年度決算結果を受け、文部科学省が国立大学に繰り越しを承認した金額は、全体で約506億円に上ります。
(参考)
国立大学法人の07年度決算と08年度補正予算 http://daisala.blogspot.jp/2008/09/blog-post_4755.html
実に乱暴な試算をしてみます。平成19年度の繰越承認額約506億円を1大学当たりに平均すると約6億円になり、1大学当たり平成16年度からの4年間で約24億円のお金が余ったことになります。また、このお金は、平成22年度からの次期中期目標期間には繰り越せないようですから、全国の国立大学では、来年度までに概ね最大で、506億円×4年分=2,024億円もの税金を無理やり消化することになります。予算消化(予算の無駄遣い)に奔走するという悪弊の時代に逆戻りすることになります。予算が厳しく教育に支障を来しているという学長さん達のコメントとの整合性を国民はどう理解すればいいのでしょうか。
それでは最後に、「平成21年度予算の編成等に関する建議」における国立大学・私立大学に向けた厳しいご指摘をご紹介し、気を引き締めたいと思います。
●国立大学法人運営費交付金の配分方法の見直し等
国立大学法人については、我が国の国際競争力を担う大学から地域の教員養成大学まで、機能別に再編・集約を行い、国の助成を重点化させるべきである。こうした考え方を踏まえ、来年度の国立大学法人運営費交付金については、これまでどおり総額は厳しく抑制すべきである。
また、運営費交付金には学生数等に基づいて算定される部分のほか、各大学に裁量的に配分される「特別教育研究経費」(平成20年度(2008年度)予算790億円)があるが、内容は国公私を通じた「教育改革支援経費」(平成20年度(2008年度)予算680億円)と重複が見られる。この国公私を通じた「教育改革支援経費」はここ数年急激に額が増大しているが、運営費交付金における予算も含めて、類似の施策が多く見られることから、事業内容・対象大学数の見直しに取り組むべきである。
なお、今中期目標期間の業務実績評価については、大学別だけではなく、各大学の学部・研究科ごとの水準・達成度の相対評価が明確になるよう厳格に実施・公表すべきである。その上で、第2期中期目標期間に入る平成22年度(2010年度)以降の国立大学法人運営費交付金については、大学ごと、学部・学科ごとの相対評価を配分に反映させ、大学の成果・実績・競争原理に基づく配分が行われるよう見直すべきである。また、研究コストは競争的資金、受託研究や寄付で賄い、教育コストは学費等の自己収入で賄う方向に重点を移すべきである。
国立大学の授業料は、私立大学や諸外国に比べてかなり低い水準にある中で、既に4年間据え置かれており、教育研究コストを賄うため、第二期中期目標期間に向けて、引上げについて検討する必要がある。さらに、現在、ほぼすべての大学・学部で一律横並びの授業料となっているが、これについても見直しが必要である。
●私学助成の配分方法の見直し
私立大学は、学生数が減少を続ける中で、大学数は増加の一途をたどっており、定員割れが全大学の5割近くに上っている。今後は、各大学において、経営の効率化、戦略の明確化が早急に求められ、私学助成も、これまでどおり歳出削減を進める中で、こうした取組を促す配分を行う必要がある。
先般、中央教育審議会において、我が国の大学の量的規模について議論が開始されたところであり、今後、参入要件の見直し、既存大学の再編・統合の必要性も含めて、議論を注視していきたい。