現下の大学を取り巻く厳しい状況に鑑みれば、今後、大学は、相当のコスト削減なしには、現在の教育研究条件を支える資源を経続的に供給することはやがて困難になり、教職員の待遇もそれによって影響を受ける可能性は十分に念頭に置かなければなりません。(もはや手遅れという大学も出現してきておりますが・・・。)
このため、まずは、自らの周囲にあるコストの削減に関心を向ける必要があります。コストを何割カットすることができるかどうかは、大学の将来にとって決定的に重要となります。コスト削減を行うことは単に財政的なプラスをもたらすのみならず、大学全体を活性化し、新しい試みに道を拓くという積極的な意味を持っています。
特に、大学内の管理的経費については徹底的な見直しを行う必要があります。例えば、次のような観点からの見直しが必要ではないでしょうか。
- 全学共通的な管理的経費を集約管理することにより統一的な縮減に努める。
- 民間機能を活用することにより、効率的・効果的な業務の遂行が可能なものについては、積極的に外部委託を導入し、経費(人件費等)の抑制を図る。
- 一般競争入札の積極的な導入、規格の共通化、一括購入方式の促進など、購買方式を見直すことにより物品調達コストを抑制する。
- 施設設備のエネルギー経費の抑制を図るため、既存の設備・機器等の更新を含め、施設設備エネルギー・マネジメント体制を構築し、施設に節減システムを組み込む等の方策を推進する。
- 機器や備品等を一元管理し、共同利用体制を導入することにより固定経費を抑制する。
- 事務分掌の見直し、会計制度の弾力化、権限委譲、情報化・電子化等により、事務の効率化、事務経費の削減を図る。
早稲田大学では、「財政改革推進本部」(財革本部)というものを立ち上げ徹底したコスト削減活動を行っています。とあるセミナーで配られた資料(ちょっと古いかも)を基にポイントをご紹介します。
■財革本部立ち上げの背景
私立大学における予算・決算を消費収入超過とすることは、かなり難しいことである。しかし、大幅な「黒字」を実現させることは極めて困難であるとしても、支出超過を限りなく小幅にすることあるいは収支の均衡を図ることは、至上命題であり、当時の早稲田大学においても財政基盤の確立のための必須条件であった。
早稲田大学は教育研究面での飛躍を期す準備に入っていたことから、「新規事業への財政手当て」の必要性も大きく浮上していたが、借金をして新たなことをやるという選択ではなく、むしろ有利子負債を減少させながら新規事業の財源を生み出すための努力が、組織を挙げて開始された。
■財革本部、経費節減推進チーム等の設置
[財革本部]
- 構成員=理事会の下に常任理事、理事、本部部長等の経営執行責任者
- 任務=「財政改革の基本方針の策定」及び「具体的な施策を立案・実践」
- 期間=1996年3月から1998年3月までの2年間
- 構成=1)事務の効率化による経費節減推進チーム、2)管理経費節減推進チーム、3)物品調達経費節減推進チーム、4)印刷物経費節減推進チーム、5)施設等有効活用による収入増を図る推進チーム
- 構成員=課長・事務長クラスの管理職者をリーダーとする、10名前後
- 任務=財革本部の実行部隊として、経費節減の具体策を探し出し実行する
- 構成=「西早稲田キャンパス」等の6キャンパスに設置
- 構成員、任務については経費削減推進チームと同様
経費節減のための具体策は、基本的には経費節減推進チームが施策を立案し、各キャンパス経費節減推進グループが、独自の節減案も加えながら実践する。
経費節減推進の主な内容は、以下のとおり。
1)光熱水費の節減(節減の対象)
- 昼休み中の事務所の消灯、就業開始前の消灯
- 授業終了後の教室の消灯
- 廊下、エレベータ前、屋外灯、トイレ等における日中、不要時の消灯
- 就業時間外の事務所、授業終了後の教室における空調の停止
- 水道圧を下げる。
- 各箇所が発行する出版物・配布物の整理・統合、ページ数・印刷部数の見直し(削減)
- コピーの節約の徹底
- コピー紙の裏面利用の徹底
早稲田大学の調達は、配分された予算を各箇所の独自の努力で、消耗品予算を有効使用することを前提とした「各箇所自主調達」であり、調度課といった部門が一括調達して配布するという形態は採っていない。
ただし、財務部経理課は在庫を持たないが、大量に使用される消耗品については、エコ対応等の観点をもちながら納入会社と折衝して単価を低くした上で、「選定品」(推奨品)としてリストを全箇所に配付し、各箇所で保有する在庫品を使い切ることと選定品の購入を強く要請
4)旅費・交通費の削減
総長車1台は残したが、自家用車数台を廃止し、タクシー利用または随時のハイヤー利用に切り換え。また、教職員のタクシー利用についても、極力控えるよう要請し、利用チェックを厳しくすることとした。
5)図書費の効率的活用
図書は大学の学術上の重要な資産であり、財政危機といえども慎重な対応を要する。しかし、図書購入についても、聖域化せず、購入手続きの合理化・コストダウンに努めた。
和書購入の合理化・有効化を図ると同時に、財革本部の調査により実勢為替レートと大きくかけ離れたレートで価格設定されていた洋書購入について検討を行ったが、「図書館員の負担なく」「安全に」納本される仕組みはそう簡単にはできないことも分かった。
図書館という組織での購入においては為替レートヘの対応は困難であるとしても、個人研究費での洋書購入を数名の教員に試験的にインターネットでの購入をしてもらったところ安く(実勢為替レートに近いレートで)、早く(1週間位で)、スムーズに手に入ることが分かった。
それらの実績を踏まえて、図書館にも再検討をお願いし、為替レート対策を継続して検討してもらうこととした。
6)建物管理委託費の削減(清掃・警備等の委託業務の統合化)
各キャンパス、建物毎に清掃・警備等の委託会社を選定していたが、競争原理をベースにしながらキャンパス毎、建物群に区別し委託業務の統合化を推進したことにより、建物等の増加にも拘わらず、委託費の抑制を図ることができた。
■財政構造改革推進本部の設置
- 構成員=理事会の下に常任理事、理事、本部部長等の経営執行責任者
- 任務=財革本部が行った経費節減運動の継続展開と徹底。経費節減に直結する既存の諸制度の見直し
- 期間=1998年6月~1999年5月
■財政健全化3か年計画(1996年~1998年度)の策定
前述の財革本部等による経費節減運動と並行して大学は、1996年12月に「財政健全化3か年計画(1996年~1998年度)」を策定。数値目標は以下のとおりである。
- 1998年度に、極力経常収支の均衡を目指す。
- 建設収支は、3か年の資金ベースでの均衡を目指す。
- 有利子負債を圧縮し、借入金は学納金の1/3以内を目標とする。
- 次年度繰越支払資金の残高を170億円以上確保する。現段階では全てが達成されているわけではないが、今後も努力目標として掲げ続けていかなければならない事項である。
(累積経済効果)
経費節減活動、財政改革方針等並びに、1995年度予算編成時からの「経費の5%以上削減策」によって、結果としては1995年度から2003年度までの9年間で、およそ300億円以上の累積経済効果を挙げた。これを財源として、教員の増員、情報関連設備の整備・充実、独立大学院の開設等の新規事業に大幅な予算措置が可能となった。
(有利子負債の圧縮)
- 1995年度=借入金残高(約390億円)、年間支払利息(約22億円)
- 2003年度=借入金残高(約200億円)<約半減>、年間支払利息(約4億円)<約80%圧縮>
教職員の経費全般に対する節減意識は、財革本部等がなくなった現在も学内にしっかりと根付いており、昼休みの消灯、節水、両面コピーの徹底、ゴミの分別、物品の学内自主リサイクルは当然のこととして実行されている。
これら経費節減運動は、現在では環境資源に配慮した「エコ・キャンパス」の推進への取り組みとなり、2000年6月には西早稲田キャンパスで国際標準化機構(ISO)の定める「ISO4001」の認証も取得した。今後も全学をあげて環境マネジメントシステムヘの取り組みが推進されていくと思う。
■結 語
収入の大幅な変化(増加)を望めない私立大学の硬直的財政構造において、建学の精神や経営ビジョンに基づいて新たに何かをやろうとすれば、二つの方法しかない。
一つは、無駄な支出を徹底的に止めることであり、二つ目は、有効でなくなった組織・活動内容をスクラップ(あるいは削減)するといった構造改革に着手することである。
それらによって生み出す資金を、新たな目標に注ぎ込むしかない。正に、無駄を排し事業構造を常に時代の要請に応じて「スクラップ・アンド・ビルド」していくことが、私立大学財政の立て直しのスタートになるのだろうと思う。新しい芽を育んでいくには、財政構造改革を視野に入れた思い切ったパラダイムシフトが必須である。