家計に置きかえてみればわかりやすいかもしれません。子ども達の将来を保証することになるであろう教育に可能な限りの投資をしておきたいと考えるのは親心としては一般的なことですし、現に我が家では、お父さん(私)の小遣いが母親の独断と偏見でいつの間にか娘の習い事の月謝に転換されていきます。なんとも情けない話ではありますが、これが、高等教育に係る学費の問題ともなると、その金額の大きさから、お父さんのお小遣いを節約するどころの話ではすまないことになります。最近では世相を反映してか、家計に与える教育費負担の問題を取り扱う記事が目につくようになってきました。
1,024万円 高校入学から大学卒業までの教育費(2008年11月16日 東洋経済)
「国の教育ローン」を利用した勤労者世帯(平均年収622万円)を対象とした日本政策金融公庫の調査によると、高校入学から大学卒業までの7年間の教育費は子ども1人当たり1024万円(私大理系の場合は1141万円)に。自宅外からの通学となると、これにアパート等の入居や家財道具購入のための48.6万円、年間96.0万円の仕送りが加わる。対象世帯には小学校以上に在学している子どもが平均1.8人おり、彼らにかかる在学費用の世帯年収に対する割合は平均34.1%。年収200万~400万円の世帯では55.6%にもなる。しかも、これら学齢期の子どものいる世帯の6割近くが住宅ローンを抱え、上記在学費用とローン返済額との合計は、世帯年収の45.9%もの規模となっている。
全文→http://www.toyokeizai.net/life/living/detail/AC/4d3d5b7cbda4fa963408537dae158d54/
私立大下宿生は214万円 入学費用、国立自宅の2倍(2008年9月30日 共同通信)
今春の大学、短大の新入生が出願から入学までにかかった受験費用や学費、住居費などの総額の平均は、国公立大の自宅生の109万円に対し、私立大下宿生は214万円と約2倍の差があることが30日、全国大学生活協同組合連合会の調査で分かった。調査によると、最も安かったのは国公立理系の自宅生で106万円。最高は私立医歯薬系の下宿生318万円で、差は3倍に及んだ。次いで私立理系の下宿生238万円、私立医歯薬系の自宅生212万円など。自宅・下宿別でみると、国公立大は自宅生109万円に対し、下宿生190万円。私立大は自宅生130万円、下宿生214万円だった。
全文→http://www.47news.jp/CN/200809/CN2008093001000908.html
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このように家計に占める教育費の割合は大きく、今後、少子高齢化の進行に伴い顕在化してくる医療・年金・介護といった社会保障費の国民負担の問題とともに、私達国民は更なる生活苦を余儀なくされる可能性があります。では、私達を苦しめる「教育費の家計負担割合」が高いのはどうしてなのでしょうか。その理由について触れた3つの記事をご紹介します。
家計負担が重い日本の教育費(2008年10月9日 産経新聞)
経済協力開発機構(OECDD)が発表した『図表でみる教育OECDインディケータ(2008年版)』によれば、全教育機関に対する国や地方自治体などによる公財政の割合は加盟国平均で85.5%ですが、日本は68.6%と、比較できる26カ国中24位という低さでした。学校段階別に見ると、低いのは幼稚園など「就学前教育」と、大学などの「高等教育」です。高等教育の場合、日本は、公財政支出の割合は33.7%(加盟国平均73.1%)という低さです。高校まではともかく、それ以上の学校へ進むには、先進国の中でも最も家計負担の重い国の一つなのです。この理由として最も大きいのは、教育に対する公財政支出が少ないことです。国内総生産(GDP)に対する公財政支出の割合は3.4%(同5.0%)で、ギリシャにも抜かれて、比較できる28カ国のうちで最下位になってしまいました。実は経済規模に比して、教育に最もお金をかけていない国だ、というわけです。また、公的なものはもとより、民間の奨学金なども、諸外国に比べればそれほど充実しているわけではありません。一方で、大学などの授業料は比較的高いグループに入っています。高い進学率は、重い家計の負担によって成り立っているというわけです。
全文→http://sankei.jp.msn.com/life/education/081010/edc0810100055002-n1.htm
視点・論点「競争社会」と「連帯社会」(2008年11月24日 NHK解説委員室)
フィンランドでは、大学生に月7万円とか9万円とかの生活費が支給されるということです。学費はもちろん無料ですので、大学に行きたい人はだれでも自活しながら通学することができるということになります。大学の授業料が無料というのは、フィンランドだけではありません。北欧はもちろん、欧州諸国のほとんどで無料になっています。もちろん、これらの国では、大学だけが無償なのではなく、小学校から大学までの教育が、原則として、すべて無償です。教育費が高いのは日本とアメリカです。ここには、教育に関する基本的な考え方の違いが存在しているといえます。フィンランドのような無償の教育制度がとられているのは、大学の教育が、教育を受ける本人の利益になるだけではなく、社会全体の利益にもなる、という考え方があるからです。他方、日本やアメリカでは、教育の利益を受けるのは個人であり、その個人または親が、教育費用を負担すべきだと考えられています。つまり、この日本やアメリカのような考え方を基礎にする社会は、社会を個人の利益を中心に構成する「自己責任」の社会であるということができます。そして、「自己責任」を基礎とする社会では、教育だけでなく生活のさまざまな部面で個人に対する強いストレスがかかることになります。さらに、そうした社会では、すべてのひとが少しでもよい生活をしたいと考えますので、個人の間に、あるいは、家族と家族との間で、さらには子どもと子どものあいだでも激しい競争が生まれます。こうしたわたしたちの社会を「競争社会」ということができるとすれば、フィンランドや北欧の諸国は、それとかなり違った原理を基礎にした社会であるということができます。そうした社会のあり方を、仮に「連帯社会」といっておきましょう。「協力社会」とか「共同社会」とかいうこともできるかもしれません。そこでは、個人が互いに協力して支えあう、助け合うということが、より重要な原理になるのです。
全文→http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/14084.html#more
教育条件 世界と差 日本81万円 仏2万円-国立大学費(2008年6月29日付 しんぶん赤旗)
なぜ日本では、教育予算が低く抑え込まれてきたのでしょうか。「『財政難だから』という政府の説明は違います。『教育は国民の権利だから公費による教育を拡充する』という考え方がないからです」。近畿大学の土屋基規教授(教育行政学)は言います。憲法第26条は「義務教育の無償」を定めています。ところが政府は「これは国の努力目標を定めた条文で、個々の国民に具体的権利を与えるものではない」という解釈を続けてきました。1964年2月の最高裁判決は「義務教育の費用はすべて国が持つべきものではなく、親も応分の負担をすべきだ」との見解を示しました。この後「無償」の範囲は公立義務教育学校授業料と教科書代に限定され、「教材費や給食費などは家庭が負担して当然」という流れがつくられました。1971年の中央教育審議会(文相の諮問機関)答申は、大学学費について「大学教育で利益を得るのは学生だから、費用も学生が負担すべきだ」という「受益者負担」論を提唱。この後、学費はうなぎ上りとなり、現在は70年比で国立大で45倍、私大で9倍にもなっています。80年代からは臨調「行革」の名の下に教育の民営化や規制緩和が進行。小泉「構造改革」がこれを加速させました。「良い教育を受けたければ自己負担を」という「受益者負担」論は、いっそう強められています。「政府は、親の教育熱心さにもつけ込み、教育の私費負担を増やしてきました」。こう話す土屋教授は、「70年以降、国の行政費に占める教育費の割合は、75年の12%台をピークに、現在8~9%台まで下がっています。中等・高等教育の漸進的無償化を明記した国際人権社会権規約第13条2項(b)(c)もルワンダ、マダガスカルと並んでいまだに留保している恥ずかしい状況です」と批判します。
全文→http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-06-29/2008062903_01_0.html
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それでは、以上のような厳しい現状を解決するために、国や大学現場ではどのような検討や努力が行われているのでしょうか。昨日、廃止の方向が明らかになった「教育再生懇談会」における動き、次に、学生への代表的な経済支援策である「学費の免除」の現実を指摘した記事をご紹介します。
教育の負担軽減策を議論へ=教育再生懇(抜粋)(2008年9月22日 時事通信)
政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾塾長)は22日、首相官邸で会合を開き、大学教育改革に関する議論を行い、低所得層の保護者の下で育った子どもでも希望通りの大学で学べるよう、教育費の軽減策などについて年内にも提言をまとめる方針を決めた。懇談会では今後、奨学金や授業料免除など、私費負担を軽減するための仕組みについて検討。会合後、教育再生担当の渡海紀三朗首相補佐官は「能力のある子どもが家庭の経済状況で格差が生じる事態について考えていかなければいけない」と話した。
国立大学授業料の全額免除 申請者のわずか28% 2割超が受けられず(2008年11月18日 しんぶん赤旗)
国立大学で2008年度前期の授業料の免除申請をした学生のうち、全額免除を受けられたのは28%で、半額免除を含めても78%であることが本紙調査でわかりました。免除を申請した人のうち、2割以上の学生が免除を全く受けられない実態が浮き彫りになりました。国立大学の授業料は年間53万5千8百円(前期分は26万7千9百円)。高すぎて負担できないため、免除を申請する学生が年々増える傾向にあります。大学側は少ない予算の中で、全額免除者を減らし、半額免除者を増やすなど、苦しい対応を迫られています。
全文→http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-11-18/2008111801_01_0.html
(以下は新聞からの切り抜きです。)
国の予算枠引き上げを(三輪定宣 千葉大学名誉教授の話)
授業料免除率が6.7%と低く、申請者の2割が却下されていますが、これは予算枠5.8%の制約によるのでしょう。授業料免除率は、1982年度の12.5%から半減している半面、この間、授業料は2.5倍(消費支出1.2倍)に急騰しているので、授業料に見合って予算枠を20%程度に引き上げてもよいのです。そうすれば、今日の貧困・格差拡大のもとで申請者、免除者が急増するはずです。1980年代からの「行政改革」「構造改革」や「受益者負担」政策のしわ寄せがここにも及んでいます。
切実です「学費軽減」 国立大学授業料免除 申請者が急増、半額免除増やす
貧困の広がりのもと、授業料減免の申請者は年々増加傾向にあります。申請者の増加が著しい大学では、全額免除から半額免除に移行して多くの学生が免除を受けられるように対応しています。その傾向が顕著な大学の一つが秋田大学です。04年度前期に323人(全学生の6.9%)だった申請者は08年度前期には621人(12.5%)に。それにともない全額免除者を240人から15人に減らし、半額免除を54人から563人に増やしています。減免を申請したが、成績を理由に受けられなかった学生のため、同大学教育文化学部では昨年から学部独自で一時的に無利子で貸し付ける基金をつくっています。教員や同窓会に資金を募りました。教育文化学部教授で秋田大学教職員組合委員長の佐藤修司さんは「家計が苦しい学生はアルバイトで忙しく、勉強する時間も取りにくい。成績で線を引くのでなく、困窮している学生を救うために設立した。授業料を下げるとともに、経済的に困難な学生を全額免除にできるよう、減免枠の拡大とその分の運営費交付金増が必要だ」と話します。全学免除と半額免除の間に75%免除する制度を設けている大学もあります。福島大学では08年度前期の申請者は12.8%で全学免除者は1.6%、75%免除者は1.5%、半額免除者は7.5%でした。担当者は「申請者の増加にともない半額免除者を増やすことで多くの学生が免除されるようにした。半額免除になった学生のなかで困窮度の高い学生に上乗せする措置を取っている」と話しました。
京大は減免制度拡大「検討中」
本紙調査に回答した大学のうち、成績にかかわりなく経済的理由により、授業料免除を受けられる制度があるのは、東京大学と京都大学(後期)でした。今年度から世帯年収400万円以下(4人家族)の学生の授業料を全額免除する制度を開始した東京大学では申請者数、免除者数とも過去5年間で最も多くなりました。全額免除者は前年同期と比較すると約1.7倍に、半額免除は約4倍になりました。京都大学では、05年から経済的に困っている学生が後期授業料の.全額免除を受けられる制度を始めています。この制度により3年間で139人が免除されています。来年度減免制度を拡大する計画があるかどうかを開いたところ、京都大学は減免制度の拡大を「検討中」と回答しました。
成績を考慮した大学独自の免除制度を導入する大学もあります。広島大学では06年から、「成績優秀学生奨学制度」を設置し、後期分の授業料を免除する制度を導入し、3年間で241人が受けています。08年度新入生からは入学金、授業料の全額免除、毎月10万円の奨学金の給付を行う「広島大学フェニックス奨学制度」を始めています。岡山大学でも全学生の1%が受けられる独自の授業料免除制度があります。東京学芸大学では授業料免除申請者で免除を受けられなかった学生を対象に選考する独自奨学金のほかに来年度から学費軽減の一環として「教職特待生制度」を開始します。成績優秀者や家計急変者のための独自の奨学金制度があると答えた大学は回答のあった55大学のうち21大学でした。