本格的な入試シーズンが到来し、受験生・保護者の皆さん、大学の入試担当者の皆さんなど関係者の方々は、これから益々大変なご苦労をされることになります。
この季節になると決まって入試問題作成ミスや合格発表ミスに関する記事が目につき始めます。緊張感や危機感の欠如をはじめ、様々な理由や原因があるのだろうと思いますが、いずれにしても入試は、受験生(場合によっては保護者)のその後の人生を大きく左右する大変重要なものですので、大学は細心の注意を払い万全の体制の下で実施しなければならないことは言うまでもありません。
入試問題作成ミスの原因の一つとして、作成後のチエック(体制)の不備がよく指摘されます。入試問題という特殊な情報を厳格に管理しなければならないため、少数の限られた教員間でのチエックにならざるを得ない事情はあるにせよ、学部を超えたチエックなどいろんな工夫の仕方があるのではないかと思います。
また、入試問題の作成方法そのものにも改善のメスを入れる必要があると思います。どの学部にも共通する入試科目なのに、学部別、ひどい場合は学科別に問題を作成している場合が少なくありません。なぜ共通化できないのでしょうか、大学全体として統一した入試問題を作成することがなぜできないのでしょうか。
ここにも「部局自治」の問題が根深く存在します。「学部あって大学なし」の悪しき思想や慣習が、受験生はもとより、教職員の入試コストの低減・効率化を阻んでいます。統一が可能であるにもかかわらず、同じ入試科目の問題を多くの教員の人的コストをかけ作成し、チエックする、あるいは管理するといった状態をいつまでも放置しておくことは即刻改めなければなりません。
大学というところは、なかなか自浄作用が効率的・効果的に機能しません。入試に関する上記のような重要な課題は、本来であれば、関係委員会や最終的には教育研究評議会という国立大学法人法に規定された会議において、徹底的に議論し改善しなければならないものです*1。しかし、残念ながら、教育研究評議会の先生方は、大学の管理、運営、組織といったマネジメントに関する議論、しかもあらさがしの上に言葉尻を捉えた批判が大好き(おかげで無意味な時間が延々と続くのです。)で、彼らが本務とする教育、研究、そして学生支援といったことにはほとんど興味も示さず議題にも上りません。「受験生の動向調査・分析等の結果を踏まえ、今後我が大学は、入試の方法や内容をどのように改善し、どのような学生を確保していくのか・・・」といった議論は、何よりも増して緊要な課題のはずですが、寂しいかな皆無に近い状態です。
余計なことですが、教育研究評議会の先生方には、月1回の会議に出席するだけで(正確には、出欠の有無にかかわらず)、毎月10万円近くの手当が支給されています。法人化によって、教育研究評議会の位置付けや役割が大きく変化しているにもかかわらず、手当だけは国の時代を引き継いでいるのです。議論の内容の貧困さ、無責任体制との比較において、本当にこのような高額な税金を充てることがふさわしいのかどうか、今一度見直す必要があるのではないでしょうか。
【追加記載】
オックスフォード大学とケンブリッジ大学のユニークな入試問題が話題に(大学プロデューサーズ・ノート)
*1:国立大学法人法第21条(教育研究評議会の審議事項):1)中期目標についての意見に関する事項(経営協議会の審議事項を除く。)、2)中期計画及び年度計画に関する事項(経営協議会の審議事項を除く。)、3)学則(国立大学法人の経営に関する部分を除く。)その他の教育研究に係る重要な規則の制定又は改廃に関する事項、4)教員人事に関する事項、5)教育課程の編成に関する方針に係る事項、6)学生の円滑な修学等を支援するために必要な助言、指導その他の援助に関する事項、7)学生の入学、卒業又は課程の修了その他学生の在籍に関する方針及び学位の授与に関する方針に係る事項、8)教育及び研究の状況について自ら行う点検及び評価に関する事項、9)その他国立大学の教育研究に関する重要事項